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第39話

 お茶会の日から数日が立ち、いつもと変わらない生活をしている日々。

 時折感じる、ゾクリとした視線が気になっていた。気のせいにするには頻繁すぎてどうにも気になってしまう。

 思えば私が視線を感じ始めたのはお茶会の翌日からだ。まさか、学園内にミレーヌ嬢の手の者が居るのだろうか。もし、そうだった場合、手回しの早さに感心する。

 

「ジゼル、今日も視線を感じるか?」

「えぇ。休み時間になると常に見られてる様な感じ・・・」


 視線の主を探すが、全然見つからない。相当の手練なのだろうか。



 昼休み、その視線の主は全く別の人物だったのが判明した。私は放課後、ある人物に裏庭の薔薇の広場に呼び出された。


「来てくれてありがとう、僕のヴィーナス」


 ここ一連の騒動で、すっかり忘れかけていたけど3年生のエリク様がダンスパーティーで目立っていた私を見て、是非絵のモデルになってくれとの申し出だった。エリク様は学生でありながら個展とかを開いたりしており、今をときめくイケメン画家として注目を浴びている。もちろんそんな色眼鏡がなくとも、エリク様の繊細さと大胆さの絶妙な表現方法には定評があり、その実力が認められている。

 そんな彼の絵のモデルにと誘われる事は大変名誉な事だとは思う。が、人選ミスである。ってか、人違いである。よって正しき方向に修正すべく速やかにお断りをした。


「私よりも天使の様なアンジュが適任だと思いますわ」 


 ダンスパーティーで目立っていたのは私だけでは無い。アンジュだって王子と一緒に踊っていたのだ。その天使の様な容貌だって、注目度では負けていない筈。正しいルートに戻れ!!


「もちろん彼女にも声をかけてみたが、君に声をかけたらどうかと言われてしまってね。休み時間の間、声をかける事が出来ずに君に見とれていたよ」

「え・・・?」


 また?(第26話参照)アンジュが殿方の誘いに乗らないどころか、私を断るダシにしている・・・?そういえば前から何度かこういう事無かったかしら。殿方をわざと受け入れない様な・・・。

 不自然すぎる位、あまりにも恋が発展しなさ過ぎるのよ。それこそ、本人がフラグを折る様に動いているとしか・・・。

 ふ、ふふ。どういう事かわからないけど、それならば私だってタダでは動かないわよ。


「エリク様、やはり私は絵のモデルなんて恥ずかしいので・・・アンジュと一緒にだったら喜んでお受けします」


 エリク様は綺麗なパープルの瞳を一瞬驚いた様に見開き、直ぐに、ニッコリと微笑んだ。


「そうか。恥じらう君も最高だよ、ヴィーナス!ではミューズ(アンジュ)の方を説得してみるよ。ありがとう。良き返事が貰えた時はヨロシク!」


 私の両手を掴み、礼を言うとエリク様は裏庭を去っていった。ほわー!なんなん?あのフェロモン!さすが、歩くフェロモンだわ。すれ違っただけで、倒れる女子も居るという・・・恐るべしだわ、エリク様。さて、私も帰ろうかしらね。

 私が裏庭を去ろうとしたその瞬間、ゾクリ、と良くない(たぐい)の視線を、感じた。

 嘘・・・。ここずっと感じていた視線は、エリク様じゃなかったって事?そういえば、エリク様は私を見ていたのは“休み時間の間”って仰ってたわよね。やだ、早くここを立ち去らないと!

 私が走り出すと、後ろから足音が聞こえて来た。やっぱり誰か居る!私を追いかけてきている!


 怖い!怖い!誰かっ!


「おい、どうした!?」


 ドン、と誰かにぶつかり抱きとめられたが、私はすぐに離れようともがいた。


「いやっ!!」

「おい、落ち着けって!」

「離してっ!」

「大丈夫だから!!ジゼル!」


 私をジゼルと呼ぶその人は、私が落ち着く様にと優しく私の背中を撫でてくれた。ふわっと香る、この匂いはプレアデスの部屋で嗅いだのと同じ。

 少し落ち着いたので、その人から離れようとしたが、すっぽりと私を抱き囲った腕は私を離そうとはしない。


「・・・何があった?ジゼル」

「プレアデス・・・。どうしてここに?」

「お前が3年のやつに裏庭に呼び出されたって聞いて様子を見に来たら慌てた様子でお前が走って出てきたんだよ」

「・・・エリク様が去った後、嫌な視線を感じて怖くて走ったら、誰かが追いかけてくる足音が聞こえたの!」

「何だって!?まさか、ミレーヌの手先か?こんなとこ(学園)にまで・・・?」

「・・・・・・っ!」


 安心したら、震えが止まらなくなってしまった。


「俺が必ずお前を守る」


 プレアデス・・・。


「とりあえず、事態が収まるまでは常に誰かと行動を共にしろ。ずっと一緒に居てやりてぇが、俺もやる事やんなきゃいけねぇからな」

「え、えぇ。わかったわ」

「俺に恋人が出来た事で素直に諦めてくれりゃ良かったが、逆に喧嘩を売ってくるとはいい度胸じゃねぇか」

「ぷ、プレアデス?」

「ククッ。面白ぇじゃねぇか。返り討ちにしてやるよ。そんでお前を怖がらせたり、不安にさせた事をたっぷり後悔させてやる」

「ぷ、プレアデスさーん?」


 怒りつつも余裕の笑みを湛えているプレアデスさん。この凄みは・・・!うぅ、この人もしかして前世で学生時代にやんちゃしてた系?ひぃ。例え前世で出会ってても、決して関わる事なんて無い人種だよ!


「あ、あの、プレアデスさん、危ない事はしないでくださいね?」

「あ?何でさん付け?何で敬語?」

「い、いえ・・・。なんとなく・・・」

「ごめんな。公爵家にまで手を出してくるとは思ってなかったぜ」


 プレアデスがぎゅっっと私を抱いた腕に力を込めた。プレアデスの前世がヤンキーだってなんだっていいじゃないか、と思える程にこの胸は安心できるものだった。



 それからというもの、皆に事情を話してアンジュはもちろん、プレアデス・アルド様・スティードと日中は入れ替わり立ち代わり私を一人にしない様に常に一緒に居てくれた。

 アルド様は「ジゼルを危険な目に合わせているのはお前だ!お前が誘わなきゃよかったんだ」と今にもプレアデスに殴りかかりそうだったけど、なんとか踏ん張ってもらった。

 そう言ってしまえばそうなんだけど、まさか一度会っただけの隣国の令嬢にまで手を出してくるとは思わないよね。私もここまでするとは思わなかったもん。


 そんなある日、私が朝登校すると、私の机の周りで級友達がざわついていた。何事かと思い私の席まで行くと、私の机がサバイバルナイフみたいな刃物でフランス人形ごと貫かれていた。机にまで刺さっているという事は、尋常では無い力で貫いたものだと思われる。

 

「なんだこれは!!」


 教室に入ってきたアルド様がナイフを引き抜き、フランス人形ごとゴミ箱へ投げ入れた。


「ジゼル大丈夫か!?おい、ジゼル?」


 ちょっと待ってよ。なにこれ?怖いよりも先に、こんな陰湿な嫌がらせを思いつくのが凄いと思う。


「す・・・、凄い!!アハハハハハッ!これ、どんな顔してやったのかしら!そこんとこ非常に興味深いのだけど!アハハハハ」

「ジ、ジゼル?」

「だって、アルド様!想像してみてくださいよ!これやる為に早起きして、お、お人形さん持って、フフッ一番に来て、誰も居ない教室でっ・・・ププッ!そんでもって何この力の無駄遣い・・・!フフフッ!机にも刺さってるとか・・・っ!それを引っこ抜けるアルド様の力もっ・・・フフフフ」

「しかしお前、こんな目に合ってるのに・・・クッ!そう言われてみればその通りのようだ・・・ハハハッ!」


 アルド様も周りの人も巻き込んでみんなで大爆笑してしまった。いや、笑っている場合じゃないのだけども。おかげで恐怖と緊張が和らいだわ。私は穴の空いた机を見つめ、どうしたもんかと考えていた。

ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました(^^)


ほんっっとうにすみません。エリク様がアレク様になっておりました。混乱させてしまって申し訳ございませんでした。正しくはエリク様です。

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