第38話
あれよあれよとレディ達に囲まれたプレアデス。そして弾き飛ばされて蚊帳の外の私。ただ、ポツンとしていても仕方が無いのでお茶菓子が置いてあるテーブルに来てみた。
おぉ、サンドウィッチがあるじゃない。お菓子も、タルトやモンブランとかクッキーとかの焼き菓子が美味しそう。どれにしようかしら。眺めているだけでも楽しいわね。
キョロキョロとお菓子や軽食が並んだテーブルをうろうろし、気に入ったお菓子をお皿に山盛りに乗せて、紅茶が用意してあるテーブルに戻って来た。チラリとプレアデスを見るとまだレディ達から開放されていなかった。
時間がかかりそうなので、一人でお茶とお菓子を堪能していると、ミレーヌ嬢がこちらにやってきた。
「お菓子や軽食が足りなければ仰ってくださいね、ご用意しますわ」
「ありがとうございます!お菓子も、サンドウィッチもお茶もとても美味しいです」
あれ?なんだ、最初こそ先入観で怖い人認定したけど、気さくな方じゃない。見た目派手だけど。
「ふふ。お気に召して頂けて光栄ですわ。あちらのテーブルのお菓子も我が家のシェフ自慢のお菓子ですのよ」
ミレーヌ嬢が指差した先を見るとマドレーヌとフィナンシェが置いてあった。
「わぁ!美味しそうですね!取りに行ってきます」
マドレーヌとフィナンシェを一つずつお皿に取り、先程の席に戻ってくるとミレーヌ嬢は居なくなっていた。招待客でも迎えに行ったのだろうか。
テーブルに置いた飲み干して空になっていたティーカップには、なみなみと紅茶が注がれていた。ミレーヌ嬢がおかわりを注いでくれたのかな?こんなに気の付く方がプレアデスに近付く令嬢に片っ端から嫌がらせしてるとか、何かの間違いじゃないかしら。だって、そしたらあそこでプレアデスを囲んでいる方々全員ヤバイわよね。
それにしても、ミレーヌ嬢の言っていた通りマドレーヌもフィナンシェも美味しいな。皆お喋りに夢中でお菓子に手を付けている人が居ない。こんなに美味しいのに勿体無いな。
「悪いな、待たせたな。なんかすげー勢いで娘やら姪っ子やら紹介されて疲れた。何で今日は恋人と来てるっつってんのにめげないんだろうなー」
わたしが私が恋人には見えないんではないでしょーか。うぅ、ボニー、ユミル。せっかく着飾ってくれたのに活かせなくてごめんね。でも、そんな落ち込んだとこを見せる訳にはいかないわ。どう思われても屁でもないわよって強気な振る舞いをしなくちゃ。
「あ、プレアデス。お菓子とかサンドウィッチ美味しいよー♪」
開放されるまで多分20分くらいかかったのではないか。最早疲労困憊の様子だ。
「そうか。ミレーヌ嬢はどうだ?何もされていないか?」
「えぇ、私がお菓子食べている時に少しお話したくらいよ」
「そうか。何もなかったのならよかった」
プレアデスが私の隣に立ち、私の腰にそっと手を添えた。恋人同士・・・ってどうしたらいいのかしら?
「プレアデス様、これ食べてみてください」
私はそう言って、フォークですくったモンブランをプレアデスの口まで運んだ。陳腐な発想だけど、それしか思いつかなかった。
「ジゼッ・・・。はむっ」
プレアデスは一瞬戸惑ったが、私のバカップル作戦に乗る事にした様だ。
「美味いな」
プレアデスがフッと笑うと、周りの淑女達から、ほぅっと溜め息が漏れた。
そのまま暫くプレアデスと顔を近づけて会話をしたり、お菓子の食べさせあいっこをしたりと周りに見せつけるようにイチャイチャしていると(私の心臓も爆発寸前であったが)、だんだんお腹の具合が悪くなってきた。うぅ。食べすぎたかしら。
「ねぇ、プレアデス。私ちょっとおトイレに行きたいのだけど」
「それは、俺ついていこうか?って言っていいやつ?」
「いやー、出来ればご遠慮願いたい!」
「あー、じゃぁ近くで待機してるよ」
「じっ、時間かかりそうだからいいわよっ!うっ・・・。ヤバイわっ!急がないと危ないわ!」
私はダッシュで屋敷に戻り、トイレを求めてダッシュした。メイドさんにトイレの場所を聞いて、トイレに駆け込み閉じ篭った。
はぅぅ・・・お腹が痛いよー・・・。これは長期戦覚悟かもしれないわね・・・。
とほほ・・・。めっちゃ痛い・・・。
暫くトイレから出られず、時間だけが過ぎていき、ようやく出られたのはそろそろお開きの時間になる頃だった。うぉぉ。わざわざこんな遠くのお茶会に参加してお腹壊してサボるとか私ありえないわー!
「ご、ごめんなさい、プレアデス・・・私、何の為に来たのやら・・・」
「お、おぉ。大丈夫か?やつれ具合が尋常じゃないぞ?念の為聞くが、落ちてるもんは食べてないよな?」
いくら私でもそんな事しないわよ。念の為とかあらたまって聞くほどのことじゃないでしょうが。拾い食いしそうなイメージって事なの!?
「プレアデス様、今日は本当にありがとうございました。そちらの方も余りお話が出来なくて残念でしたわね」
ミレーヌ嬢が見送りに来て、こちらをチラッと見て言った。あれ?なんだかニヤニヤしている。私の顔に何かついているのかな?
まぁ、言いたい事はわかるわ。恋人ほったらかしてトイレにこもるなんてもってのほか・・・だと。
「えぇ・・・。今回は大変失礼を致しました」
「あまりにもおトイレから戻ってこないので、まるで我が家のシェフの作ったものがお口に合わなかったのかと心配しておりましたのよ?」
「いえ、そんな事はありません。どれもこれも美味しいものばかりでした」
「それは何よりですわ。それではまたいらしてくださいね、プレアデス様」
今度は私の方を全く見ません。心配していた−と言う割には、微塵もその心が感じられない。やはり、ファーストインスピレーションは大事でした。感じの悪さが全面に出ています。
ミレーヌ嬢のギラギラした目に戦々恐々としながら、プレアデスのエスコートで馬車に乗り込んだ。
馬車が出発して、ミレーヌ嬢のお屋敷が見えなくなった所でプレアデスが私に言いました。
「お前、下剤を盛られたんじゃないか?」
「えっ!?そりゃぁ彼女は私に対して多少感じ悪かったし、確かに尋常じゃない腹痛だったけど、まさか!」
「プレアデスの彼女」の立場の私の事はそりゃ、憎々しい相手だろうけど、初見の私に対してそんなにすぐ行動に出るかしら。
「何かミレーヌから直接食べ物貰わなかったか?お前がトイレに行っている間、ミレーヌがずっと俺の隣に居たからな」
その時の事を思い出しているのだろうか、プレアデスの顔がうんざりとした表情になった。
「まさか。あっ、お茶・・・。ミレーヌ嬢にお菓子を薦められて取りに行って戻ってきたらミレーヌ嬢は居なくなってて、おかわりの紅茶が用意してあったけど・・・」
「そりゃ・・・、限りなく黒に近いグレーゾーン、だな」
「・・・」
【その頃のバッセーロ伯爵家】
「あの女・・・、プレアデス殿下の恋人ですって!?よくも私のプレアデス殿下を・・・!許さない・・・許さないわ・・・」
「お嬢様、ですがあの少女はシードゥスの国王の末弟の娘でして・・・爵位は公爵、分が悪いかと」
「うるさい!どんな手を使ってもいいから、あの女に嫌がらせしてちょうだい」
「・・・承知いたしました」
「ジゼル・・・、あんなこどもみたいな女、プレアデス殿下に相応しくないわ」
派手な外見の少女は形よく伸ばした爪を噛む仕草で、悔しさを表現していた。そしてその表情は心の底から沸き上がる嫉妬の情からか、悔しさが滲んだものであった。
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