第10話「その四、近所のおばさん」
どれだけ走ってきたかもわからない。
気がつけば家の近くまで来ていた。私は走るペースを落として、やがて立ち止まる。
あの写真がどういうことなのか、皆目見当もつかない。それに何より、一番見られたくない人に見られてしまった。
「……はぁっ……」
大きなため息をついてから深呼吸をする。走ったせいで乱れた息を整えてから顔を上げた。
どうしてこうなってしまったんだろう。
どうしてあの場から逃げてしまったんだろう。
どうして、私が映っていたんだろう……
考え出せばキリがないほど疑問が浮かんでくる。解らないことが多すぎて、理解できない。
――否、本当はもう気付いていた。
あれが私でないなら、残る答えはたった一つ。信じがたい話だけどそれしかあり得ない。
「……朱姫ちゃん?」
「は、はい!」
聞こえた声に驚いて背筋を伸ばした。目の前に知った顔があると、少し罪悪感を覚えて視線を落とす。
私を呼んだ人は近所に住むおばさんだった。
「やっぱり!どうしたんだい?今日は学校じゃなかった?」
「あ……えっと、その……」
唐突の質問に言葉を詰まらせてしまう。まさか正直に『学校から逃げてきました』なんて言えるわけがない。
視線を泳がせて言い訳を考えていると、おばさんはさらに言い募ってきた。
「学校には友達いるの?変な子とつるんでない?」
「友達はいます!どういう意味ですか……?」
最後のおばさんの言葉の意図がつかめず素直に問いかける。
するとおばさんは少し考えるような間をおいたあと、言いづらそうに答えてくれた。
「……私ね、この間見ちゃったのよ」
その言葉で心臓がやけにうるさくとび跳ねた。いったい何を見たというんだろう。
嫌な予感がして身体が小さく震えだす。けれどそんな私の様子に気づいていないおばさんは話を続ける。
「ほら、家庭のことで朱姫ちゃんも大変でしょう?だからストレスからあんなこと……タバコを吸ってるんだったら、やめなきゃ駄目よ?」
おばさんの言葉にスーっと血の気が引いていく。
始まりは奈々ちゃんが目撃した、隣町のショッピングモール。
次は、私から告白したという田中くん。つまりは学校だ。
そして同じく、学校の掲示板に貼られた写真。
それから、近所のおばさんが目撃したというタバコを吸う私。
どんどん近づいてくるそれにあることに気づいては、家へ向かって走り出した。
父と母なら気付いてくれるはず、そう願った。




