6ー7 山の神
6ー7 山の神
「『サク』が起きているなら今は、やめた方がいい」
ルーア君がそう言ったので俺たちは、宿へと引き返した。
宿の部屋で俺は、ルーア君に『サク』について訊ねた。
「『サク』の時は、山の民は、みな家にこもって過ごす。以前、『サク』の日に出歩いた者が数日後、死体で見つかったことがあった」
それは、常の獣相手にできる傷跡ではなかったという。
全身にいくつもの穴があき、身体中の血が抜かれていたという。
「『サク』というのは、婆さまが言うには山の神が連れ合いを求めてさ迷うために起こるんだって」
ルーア君は、声をひそめた。
まるで、ここで話している声が山をさ迷っている神に聞かれるとでもいうように。
「昔、山の神の連れ合いがよその神に拐かされていなくなった。それ以来、山の神はおかしくなっちまったんだ」
ルーア君は、婆さまとやらから聞かされたのであろう話を俺たちにしてくれた。
「いつもは、神様は、眠ってるんだ。でも『サク』がくると目覚めて連れ合いを探して山の中を彷徨くらしい。それに出会ったら……誰であろうと命はない」
マジか?
俺は、知らずにごくりと喉を鳴らしていた。
「とにかく、『サク』は、まずい。『サク』が終わるまでは、山には入れない」
ルーア君の言葉に俺は、頷いた。
問題が起きたのは、夕方になってからのことだった。
アイダさんが帰ってこない。
俺は、心配で宿の外まで見に行ったがアイダさんの姿はない。
前世では、携帯電話とかがあったから便利だったんだがこの世界にはないからなぁ。
俺は、連絡のとれないアイダさんのことが気にかかった。
その時、不意に誰かに肩を叩かれた。
「あんた!クロウズとかいう人かい?」
急いで走ってきたかのように息を乱しているその男は、俺に白い布きれを見せた。
それは、アイダさんに預けているイームス布の切れはしだった。
アイダさんに何かあったんじゃ?
俺は、話しかけてきた男を見上げた。
その男は、なんとか息を整えようとして深呼吸を繰り返していた。
年のころは、30ぐらい。
アイダさんと同年代と思われるその男は、焦った様子で俺に告げた。
「アイダが!山の民に連れていかれた!」




