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14ー9 春の匂い

 14ー9 春の匂い


 俺とラザニエルさんがロシナンテのもとを訪れたのは、雨が降る蒸し暑い夜のことだった。

 『黒猫亭』の入り口で夫人に渡された布で濡れた髪を拭っていると客たちの話し声が聞こえてきた。

 「新しい聖女様の任命式、楽しみだな」

 「ああ!これでやっとこの国も落ち着くってもんさね」

 聖女の任命式?

 俺が問いたそうにラザニエルさんを見つめるとラザニエルさんが困った様に笑った。

 「どうやらコルネール男爵が後押ししている聖女候補生が聖女に選ばれるらしいわね」

 「コルネール男爵が?」

 俺たちは、夫人の案内で2階へと向かった。

 軋む廊下を奥へと向かう。

 一番奥の突き当たりの部屋の扉を夫人がノックすると中から返事があった。

 「どうぞ」

 それは、ロシナンテの声だった。

 胸が騒ぐのを感じた。

 親が勝手に決めた婚約者だし、ずっと拒まれてきたこともありまったく興味もない相手にも関わらず胸が高鳴る。

 まあ、あの処刑の日以来の再会だしな。

 俺は、自分を納得させていた。

 ロシナンテのことはいつも心に滓のようにあった。

 それは、決して恋とか愛とは違う。 

 それでも。

 ロシナンテは、俺にとって忘れられない少女だった。

 夫人が扉を開ける。

 俺とラザニエルさんが入ってくるのを見てもロシナンテの瞳は揺らぐことはなかった。

 ロシナンテの瞳は、ラザニエルさんの治癒魔法によって視力は回復してきていた。

 だが。

 うっすらと光がわかる程度だった。

 ほぼほぼ盲目と変わらない。

 外見は、元通りとはいえないが並みの令嬢と変わらない様子だった。

 ただ、あの美しかった青い瞳は色を失い、くすんだ灰色の瞳になっている。

 それでもあの黒い炎の威力をしっている俺からすればラザニエルさんの治癒魔法の凄さがわかった。

 「ロシナンテ……体調は、どう?」

 俺は、またアネッサに持たされた花束をロシナンテに差し出しながら声をかけた。

 ロシナンテは、俺が手渡した花束を顔に近づけると匂いをくん、と嗅ぐ。

 「いい匂い。春の香りだわ」

 「ああ」

 俺は、ロシナンテが腰かけている椅子の側にある椅子に腰を下ろす。

 「うちの温室で咲いた花なんだ」

 温室というがそこは聖女の花を育てるために繊細な温度調節がされている。

 魔法で常に春の頃の気温が保たれている温室では、春先の花が咲いていた。

 「それに……あの花の匂い……」

 ロシナンテがぼつりと呟く。

 あの花。

 俺は、なぜか慌てて弁明しようとしてしまう。

 「その……いろんな薬草とかも栽培してるからな!他の花の匂いもついてるかもしれないな」

 

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