13ー3 蜜
13ー3 蜜
俺は、ロシナンテを無視して巨大なユリの花の根本へと歩み寄った。
緑の触手が俺に伸びてくるのを風魔法で切り刻むとユリが全身を震わせて気味の悪い呻き声を上げる。
「しっかりしろ!」
俺は、緑の触手に捕らえられている生徒たちを助け起こしていく。
すぐにグレンアイヒとレイラ様、ロリスも駆けつけてくる。
触手に精気を吸われた人々は、俺が触れるだけで痛みを訴えた。
「痛い、痛いっ!」
「やめてっ!」
触手から引き剥がした幽鬼のようになった生徒たちは、すぐにユリの根本の触手のもとへと戻ろうとする。
「だめだ!主様!こいつら、イカれてる!」
ロリスが叫ぶ。
「いくら引き剥がしても自分から触手のところに戻っていっちゃうよっ!」
「どうなってるんだ?」
俺が呆然としているとロシナンテがくっくっと笑った。
「一度、聖女の花の蜜を味わえばそれなしでは生きていくことはできないわ。このまま、ここで滅んでいくことがこの連中の望みなのよ!」
聖女の蜜?
「あれだ!主様!」
グレンアイヒが巨大な花の蕾のつけねを指差した。
蕾のつけねからは、ぽたぽたと液体が流れ落ちていた。
それに争うように手を伸ばしている生徒たちを見てロシナンテが嘲笑った。
「この連中は、聖女の花の蜜の虜になってるのよ。そして、最後の一滴までも魔力を吸われて死んでいくの」
ロシナンテの美しい横顔が醜く歪む。
「全ては、聖女のために!」
「聖女のため、だと?」
俺は、ロシナンテを睨み付けた。
ロシナンテは、赤い唇をつり上げて笑う。
「あら。少しは、いい顔ができるじゃない、婚約者殿。でも、残念ね。聖女の秘密を知った以上は、ここで死んでもらうわよ、クロウズ・セフィール!」
「勝手に人を殺すな!」
俺は、ちらっと背後を見た。
触手に捕らえられている人々にロリスとレイラ様が光を注いでいる。
だが。
いくら光を注いでも人々が正気に戻ることはない。
グレンアイヒは?
俺は、ぼうっと立ち尽くしているグレンアイヒに気付いた。
「グレンアイヒ!」
「なんていうことだ」
グレンアイヒの頬を涙が伝っている。
「今もなお、こんなにも苦しめられているのか……」




