表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
溺愛されたくてヒーローを拾ったつもりが、よく似た魔王なラスボスと間違えていたようです  作者: 木山花名美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/7

4 まずはお友達から

 

 モブであるジェナのその顔は、薬草採りで黒く日焼けしてはいるものの、前世とは比べものにならぬほど可愛い。モブ中のモブのダンですら、令和の日本ではイケおじいと呼ばれるレベルなのは、小説の挿絵が美麗だったためだろう。

 しかし、美形ばかりのこの異世界では、ジェナもダンも限りなく『普通』だ。逆にこの世界で、『美少年』として描かれるあの少年は、顔に傷があるにもかかわらず、チート級の美貌を誇っている。まだ見たことのない『美少女』のヒロインも、きっと凄まじく美しいのだろう。


『一日も早く元気になってほしい。私にそのお手伝いをさせてほしい。……ただ、それだけです』


 本来ならば、ヒロインがその台詞を口にした時に、ヒーローが恋に落ちるはずだった。少女の清らかな慈愛の笑みに、空虚な少年の胸が初めてときめく。そんな感動的なシーンだったのに──


(私も真似して笑ったつもりだったんだけどな。ときめかれないどころか、目がいやらしいって言われちゃったし)


 ジェナは鏡に顔をくっつけ、自分が思う慈愛の笑みを浮かべてみる。角度を変えては何度も目をチェックするが、どこがいやらしいのかはよくわからない。ただ、挿絵のヒロインとは全く別物だということだけは理解した。


(優しくすりゃ溺愛されるだなんて、安易に考えすぎていたわ。美貌なし、魔力なし、身分なし、金なしなんだから、もっと謙虚に距離を詰めないと。モブなんだから焦っちゃ駄目! まずは友情の種から探して、丁寧に愛を育みましょう!)


 ジェナはニタリと笑い、改めて気合いを入れ直した。



 ところが、ここで新たな問題に気付く。

 前世では地味で引っ込み思案、今世では老人とほぼ森に引きこもり状態のジェナは、友達作りのスキルが皆無に等しいということに。


(トモダチッテナンダッケ? ユウジョウッテドウヤッテハグクムノ??)


『友達』と言えば、まずは子ども同士、一緒に遊ぶことからだろう。かごめかごめに花いちもんめ、将棋に百人一首。競争したり助け合ったりして、自然と仲良くなっていくはず──というのが、ジェナが必死で絞り出した、友達作りのイメージである。

 だが、貧しい一家にとっては、子どもも貴重な働き手であり、遊ぶ時間も余裕もない。薬草採りで仲を深める手もあるが、少年はさっさと採り方を覚え一人立ちしてしまったため、ジェナとは常に別行動だった。


 そこでジェナは、別の方法を思い付いた。

 少年を拾った時のように薬を使えばいい。その方が手っ取り早いと──



 ちょうど小説の中に、有益な情報が書かれていた。

 十六歳になったヒーローとヒロインは、この森にイチャイチャとピクニックに訪れるのだが、ヒロインが川に落ちて溺れかけてしまう。ヒーローは当然それを助けようと川に飛び込むが、一緒に滝壺へ落ちてしまい、這い上がった場所で奇妙な洞窟を見つける。

 そこが恐ろしい魔物の住処だと知らない二人は、中へ入り休憩する。甘い香りに誘われ、さらに奥へ進むと、さくらんぼの木がたくさん生えていた。空腹だった二人は思わず、その赤い実を口にしてしまうが──


(実はその実、さくらんぼじゃなくて、媚薬成分のある溺愛の実なのよね。ニコイチの実をカップルで一粒ずつ食べると、互いへの性的欲求が抑えられなくなるの。薄暗い場所に二人きり、ちょうど濡れた服が肌にピトッと張り付いちゃって……♡ いい感じだったのに、魔物が邪魔してお預けになるのよね。ちぇっ)


 薬草採りのモブ少女に転生したジェナは、さらにもう一つ、小説には書かれていないレアな情報をダンから聞いていた。まだ熟していない青い実は、媚薬成分が薄く、ただ相手に好意を抱くだけだということを。

 名付けて友愛の実。赤い実にはまだ早い子どもに、ピッタリのおやつだ。

 ただし、赤い実も青い実も、採りたてホヤホヤを食べないと効果がない。つまりテイクアウト不可のため、少年と一緒に洞窟へ行って、仲良くさくらんぼ狩りをしないといけないのだ。


『役に立たねえ実しかないんだから、滝には近付くなよ! おっかねえ魔物に食われちまうぞ!』


 ダンにはそう注意されていたが、とりあえず行くしかないと、ジェナは簡単に決意した。



 さっそく次の日、ジェナは少年とともに、滝までやって来た。

『じいちゃんの腰痛に効く実が滝の洞窟にあるんだけど、魔物がいて近付けないの。心配かけるといけないから、じいちゃんには内緒で協力して』

 と、少しだけ最低な嘘をついて、少年を誘い出したのだ。


「こっち! この洞窟の奥にあるのよ」


 ジェナが手招きすると、少年は辺りを警戒しながらやって来る。いかにも怪しい洞窟を覗き、訝しげに言った。


「その実、本当に効果があるんだろうな?」

「うん! そりゃあもう!空が飛べるくらい、腰が軽くなるらしいわよ」

「実を食べてから、どれくらい効果が持続するんだ? じいさんのためとはいえ、ここまでの危険を冒す価値が、本当にあるんだろうな?」


 少年の問いに、ジェナは、はたと気付く。赤い実を食べたヒーローとヒロインは、半日ほどで我に返っていた。ならば青い実も同じくらいだろうと。

 たとえ半日お友達になったところで、意味があるのだろうか……という考えを、ジェナは慌てて振り払う。


(とにかくきっかけが大事よ! 半日でも仲良くなれれば、何かが変わるかもしれないし)


「……危険を冒す価値? あるある! 一度食べれば、効果は半永久的に続くらしいんだから! だから余計なことは考えないで、さっさと採っちゃいましょう。もし魔物が現れたら、あなたが囮になって注意を引き付けてね。その間に、私がこの吹き矢で眠らせるから!」


 見覚えのある矢筒に、少年の背筋はぞわりとした。



 洞窟へ足を踏み入れれば、やはり奥から甘い香りが漂ってくる。ウキウキと進むジェナとは反対に、少年は手拭いで鼻を覆いながら慎重に進んだ。

 狭い穴を進んだ先、急に開けた広い空間には、さくらんぼそっくりの木がたくさん生えていた。


「これこれ! この実よ!」


 ジェナは木に駆け寄り、未熟な青い実を、迷わず枝から採る。そして、ニコイチの一つを指でぷつんとぎ、少年の美しい口元へ差し出した。


「はい♡ お食べ♡」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
木山花名美の作品
新着更新順
総合ポイントの高い順
*バナー作成 コロン様
― 新着の感想 ―
少年がかわいそうになってきた。。 このモブヒロイン欲望、チェンソーマンレベルじゃいの。。。(´・ω・`)
腰に効くその実。欲しいです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ