自宅②
「よいしょっと……」
2つの箱を重ねて持つ。重みで秋子の体がよろけた。大きなモニターの電源がついて、見知らぬドラマが流れ始める。
(私がいるのに)
2人には明らかに無視されている。もはや怒る気もおきない。
(……もう帰ろう)
箱を両手で持って、彼女はゆっくりと移動する。背中で2人が話す言葉が、耳に入った。
「あの子も大変ね。あんなにたくさんの荷物を抱えて」
「お前は本当に優しいな。でも、あいつのことはもう気にしなくていいんだよ。何の関係もない相手だから」
(……何の関係もないって)
雪也の言葉が、頭の中に残ってしまう。泣いてもどうしようもないとわかっていたのに、秋子は玄関で涙を流した。箱を置いて、靴をはく。
(ダメだ、これ……)
気持ちが沈む。彼女は床に置いた箱を持って、外に出た。アパートの前に、春斗がいる。
(……あ)
目があった。彼は小さく頭を下げてから、階段を上がってくる。
「すいません。ご迷惑かとは思ったんですが、どうしても気になってしまいまして。お手伝いしますね」
「あ、いいよ、そんな……」
「おかまいなく。僕がしたいだけですから」
そう言って、春斗は荷物を取り上げた。横に並んで、彼が微笑む。天使のようだと言われる顔で。
「どうか僕を頼ってください。秋子先輩」
その目は真剣で、彼女は何も言えなくなる。並んで車に向かいながら、秋子は黙ってうつむいた。
「……雪也にね、もう関係ない相手だって言われたの」
やがて彼女はポツリとつぶやく。春斗は目を細めて、耳をすませた。
「苦しかった。辛かった。……これから、どうすればいいのかわからない。無視され続けて、いろいろ言われて。同じ会社だから、明日からまた顔をあわせて仕事をしなきゃいけないのに」
「……どうしてもイヤなら、辞めて次を探せばいいんですよ。僕のマンションに住みながら、再就職を目指しませんか」
本当は、結婚してほしいと言いたかった。だが、彼は自分を抑えこむ。秋子の負担にはなりたくなかったから。
「……ありがとう」
しばらくしてから、彼女は小さな声で言った。
「須東くんに迷惑だから、次の仕事が見つかったら、すぐに出ていくね」
「迷惑だなんてことは、まったく思っていませんよ」
そこはすかさず否定した。春斗はトランクに箱を入れて、扉を閉めながら柔らかく笑う。
「ですが、あなたがどうしても気になるのなら、代わりにご飯を作ってください。朝と夜だけでもありがたいです」
「……そんなことでいいの?」
秋子は首をかしげていた。
「私、レパートリーは多くないから、すぐに飽きると思うけど」
「いいんです」
春斗は無理やり押しきった。飽きることなど、ありえないと思いながら。




