口の軽い勇者の愚行と南の危機
強引な客払いが済んだ酒場では勇者パーティがどんちゃん騒ぎ、華はこっそり水を頂き騒ぐことなく一人で飲んでいた。
「おい華、1人で何飲んでんだよ!今日は祝いの日なんだぜ?お前もこっちに来いよ〜」
既に顔が赤色に染まり始め完全に酔っている九紫 一、全身を舐め回す様な目付きが華の気持ちを害する。
「結構です」
冷たく突き放す華
「はぁー?あんた何拒否ってんの?」
弓を担いだ目つきの悪い女が華に突っかかる。彼女の名は枢木巳波、勇者パーティの弓使いで世間じゃ【傲慢な弓】と呼ばれている。(一は人斬り勇者と呼ばれている)
「一が誘ってやってくれてんのに、回復する事しか脳がないあんたに拒否権なんてないんだから〜ね?」
完全にこちらを見下したような詰め寄り方と口調でそう脅してくる。このセリフで華は確信した。このパーティー内での私の扱いは底辺だと。
『楓花が居なくなってから居心地が悪い、楓花は無事かな·····あんな危険な森の中に置き去りなんて、楓花····生きててね。』
このパーティーで唯一の友達を失った華は今じゃこのパーティーにいる必要が無いと考えるほどだった。それだけこのパーティーの評判は悪く雰囲気も悪い、ヒーラーとしての義務を果たすだけの日々で話し相手なんか誰もいない、
『結局このパーティーは一中心のパーティー、こいつがどれだけ頭が悪かろうが、どれだけ判断を誤ろうがこいつが正解といえばそれが正解と言って聞かない。楓花の火力が無くなれば私達は今後進むことが出来ないって····なんで分からないの、』
強い目付きを巳波に返す華、その圧に少し蹌踉めく巳波だったが、そのまますごすごと引き下がるのは自身のプライドに関わる、そう勝手に思ったのだろう、華の卓の席を両手で叩き悪態をつき始める。
「何その目つき、ぜーんぜん?怖くないんですけど?はぁ、結局あんたもあの愚鈍と同じで使えない雑魚ね、私達の様な気品溢れる雰囲気も出せないただの庶民!ヒールの手際も詠唱なんか使っちゃって、ノロマね本当に」
詠唱破棄、無詠唱魔術なんか最高位の存在の、それも上澄みしかできないようなことをこの世界に来て3年しか経っていない子に言うのは些か理不尽だ。それにたった3年足らずで上位の聖属性魔法【女神の癒し】を使えるというのは凄まじく熟練の聖魔導師ですらこの域にたどり着くまでに数十年は歳を重ねていることだ。
「そうですね」
「ッッ!こいっつ!」
否定される訳でも悔しがった表情をする訳でもない華に嫌気が刺し拳を振りかざした巳波だが大盾と大剣を担いだ大柄の男に拳を止められた。
「っ、剣希、あんたはこいつの味方だって言うの?」
こいつは童獅子 剣希世間じゃ【強奪の勇者】と呼ばれている。相変わらずこっちも性格の悪そうな顔と目付きをしている。下々を見るかのような目付きを向けてくる剣希、それに対抗して睨みつける巳波
「いいや?目障りだし耳障りだしで鬱陶しかったからよ〜雑魚同士の喧嘩なんざ俺達に見せんなよ」
「私は喧嘩を売られただけ、買ってないです」
「っ!こいつ!1回痛い目合わせないと分からないわけ?!ただのヒーラーのくせに!」
もう一度拳を振り上げるが今後は剣希が拳を掴んだまま元の席まで引きずった。
「っ、離せよ!」
「そろそろ良いだろ?俺達は俺達で祝い酒を飲めばよ」
「····はぁ、それもそうね、私達だけで飲みましょ」
その後会話に混ざることなく一人で水をすする華、心の中で楓花との思い出を振り返る時間にはちょうどいいと感じ一人寂しく思い出に耽っていた。
華を除きでろでろに酔った勇者パーティ。既にやらかしているが、これ以上何かやらかさないか不安になっている華を他所に巳波はとんでもないことを言い出した。
「はぁ〜あ、スマホしゃえあれぇばここは天国なのになぁ〜」
「すまほ?」
「すまほってなんだ?」
『っ?!ちょっと!』
スマホという単語について興味を持ってしまった従業員が小声で話し合う声が聞こえる。人払いは済んでいるとはいえ店主含め従業員はまだ大勢働いている。大きな声でそんな事を話してしまえばスマホという現代兵器の情報が漏れてしまう。幸い今の段階ではスマホという存在があるとしか言っていないが、どういった機能が備わっているか口を滑らせれば·····
「あぁ、この世界じゃ手紙とかいう古い連絡手段ぐらいしかねーからなぁ。スマホがありゃどんなに離れてようが会話ができる!俺達は恵まれていたのかもな〜ダッハッハッハッハ!」
『あのバカ!!!』
スマホの機能の中で二番目に口外しちゃいけない機能をペラペラと話し出した。従業員達もバックヤードでスマホについて話し合っている声が聞こえる。
『今すぐ止めないと!』
「あ〜ビデオ通話とかもこの世界にありゃ戦略が大幅に変わんだろうな〜他の人が見てる景色をどれだけ遠くにいようが見れるんだからよ!いっそ俺たちで作り上げちまおうぜ?スマホをよ!」
はい、一番ダメな機能ビデオ通話を話し出しました。
『っっっっ!これは手遅れかも·····通話だけでも大問題なのに····現代兵器の話は絶対にしちゃダメって言っておけばよかったよ·····こうなれば仕方ない。決めた、私はパーティーを抜ける!今日にでも!』
今更後悔しても遅い、なんならエンシェントドラゴンと王女様まで聞いているのだ。この2人だけなら口外することはないだろうが····平民達がこんな面白そうな話題を広めない訳が無い。時間の問題だと感じ、なんとかしてこのパーティーを抜けることを決意した。
この悪名高き勇者パーティーの中で唯一【癒しの女神】と呼ばれる華、周りが終わり散らかしているため数段輝いてい見えるのだろう。平民達からの印象はかなりいい、可哀想だと声をあげる平民も居るぐらいだ、抜けた後の処遇は悪い物じゃないだろうと考えている。
『肩書きに縋るのはあんまり気乗りしないけど·····覚悟を決めたからには存分に利用させて貰いましょう』
「一私はこのパーティーを抜けます」
「おーおー、好きにしなお前なんか居なくても代わりはいくらでもいるからな。とっとといけよぉ」
でろでろに酔っている今がチャンスとばかりに脱退の申し出を出すと予想通り二つ返事で脱退が認められた。このパーティーは書面的なやり取りを一切行っていない為口頭でのやり取りが基本になる、とんだガバガバ設計だ。基本的な冒険者達もそうだろうが····ここまで悪名高いのだからパーティーの出入りには制約をかけるべきだろう。
「では、お世話になりました」
「とっとと行きな〜雑魚ヒーラー」
「新しいやつをヒック、探さなきゃな〜」
フードを深く被り顔を見られないようにし街を歩く、
「なんかすまほ?って言うやつがあるらしいぜ?!」
「何やら遠く離れた所の景色を表示できるんだと!」
「会話もできるらしいぞ?!そんな物がありゃあ負け無しじゃねーか!」
『どういうこと?!いくらなんで早すぎる!まさか外から誰かに監視されてた、?その誰かが広めたに違いない·····それしかありえない。』
「会話のでところは何処だ?!誰が言ってたんだ?!」
「そんなの決まってんだろ!」
南の大国の勇者!九紫 一だ!
『あぁ、本格的に不味いことになった····私にできることは今すぐにでも南の大国に帰って報告を済ませること·····あぁ楓花、貴方に会いたい』
今夜は安宿で一晩過ごした。チップを多めに払い店を去った。織物の街では昨晩の話で持ち切り、話によると織物の街の領主様にも報告が行き世界各国に周知が始まっているそうだ。街の人達は予想通り、南の大国はその技術を開発済みという噂が流れている。時期に南の大国は宣戦布告をされるだろう、というのも聞こえてきた。
「魔力も体力もバッチり、一度くらいなら使ってもいいよね」
街の外れに向かい誰も周りにいないことを確認した。祈りを捧げるように両手を握り合わせた。深く集中、深く、そうすることで頭の中に世界の地図とポイントが表示される。これが華の異能【人物探知】だ。体力と魔力をごっそり使う異能であるため1日1回しか使えないが、頭に浮かべた人物の居場所を確認することができる。
『·······んえ?早すぎじゃない?』
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一方その頃、その楓花は?
「わ〜!見てください!セイヘム様!ビーチです!」
めちゃくちゃ楽しんでいた。
「ほんとに綺麗ですね〜!」
白色の砂浜に光り輝く広大な海!バカでかいドラゴン!なんとか素晴らしい世界なんだ!
「見てください!蟹です!」
「本当です!蟹です!」
2人はテトの背中でずーっと話しているうちに仲良くなり今では心を許せる友達と言った感じだ。
「私こんな感じで遊ぶのなんて初めてで、とても楽しいです!」
王族としての責務が常に付き纏っているセイヘムだが、今は一人の女の子として着いてきている。伸び伸びとしてもらうのが1番だろう。
「私もこっちの世界に来て初めて、心の底から遊んでいます!ずっとこき使われるか訓練の2択でしたので····」
立場は違えど境遇は似ている。なにか通じ合うものがあるのだろう。
「はしゃぐのも良いが目的を忘れてはいないな?」
「もちろんです!マンティコア様への手土産ですよね」
「貝類が好き、そこでここ、北方なのに南の暑さ、特殊気候の1つ万世の砂浜に来たわけですね」
「その通りだ。海産物を好んで食すやつだが、その中でも貝をよく食していた。中身は本体が、殻は尻尾の蛇が好んでいたな」
「マンティコアってライオンに羽が生えた蛇のしっぽの魔物ですよね?お肉とかの方が好きそうですけど、」
「肉は食べ飽きたそうだ。強くなるために狩りを続けていたやつだったからな、今はおそらく余生を過ごしているところだ」
「余生って、おじいちゃんなんですか?」
「いや、我と同じで寿命は無い。やつも強くなりすぎで暇している頃だろう。我が出向いてやれば気が変わるだろう。」
「それで気が変わらなかったら·····」
「大丈夫です!テト様は運がいいので!」
「その通りだ!我の勘が外れるはずがあるまい、我を信じて着いてくるが良い。まずは海産物だ!とっとと集めよ!!」
「はっはい!」
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「ん?今の覇気·····そうか、久方ぶりに友と再会できるのだな」
体に大きな切り傷の跡が残っている異質な雰囲気漂う1匹?の魔物。特殊気候に囲まれた晴天の大地に住み着くその生物こそ、マンティコアである。




