勇者の目を瞑りたくなる愚行
「そこで何をしておるのだ、人間。」
『終わった·········』
「どうかされましたかテト様?」
「それがだなセイヘムよ、なぜだか分からんが人間が盗み聞きしていたのだ」
「あれ、テト様の探知には何の反応もなかったはず·····って、どこかで見た顔かと思えば、南の大国の勇者様ですか?」
「っ!あなたは西の王国の王女様、?」
「なんと!覚えていらっしゃいましたか!私は西の王国第一王女リードルド·セイヘムと申します。お久しぶりです、ナワジ フウカ様」
貴賓あるたたずまい、どこからどう見てもどこかの国の王女様、低く見積っても高位なお貴族様と見受けられるだろう。
「ど、どうも、縄地楓花です。」
冷や汗ダラダラで一刻も早くここから逃げ出したい、といったご様子。セイヘムはそれを分かっていながらこの会話を長引かせる気だ。
「フウカ様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「も、もちろんです、構いま、せん」
チラチラとテトのことを見る楓花。そんなに気になるのだろうか?気になるだろうな、喋るドラゴンだもん。
「はぁ、我の名はテト、竜種の頂点エンシェントドラゴンである。」
「え、ぇぇえぇええんしぇんとどらごん、?????!?」
冷や汗が垂れる?流れる速度が倍化した。その目は現実を受け止めないよう半分白目を向いていた。何をしようとも状況を変える手段なんぞない。目の前で急にドラゴンが生まれ変わるはずもない。
「エンシェントドラゴンです。フウカ様」
「ぇぇえっと、なにかの聞き間違いとかって、」
「エンシェントドラゴンです」
「あの世界を滅ぼすって言われてる?」
「そのエンシェントドラゴンです」
1ミリも信じていない、という様な素振りをしているが99%信じていて1%の可能性にかけて現実逃避しているようだ。実際は100%だから可能性も何もないのだが、
『本物のエンシェントドラゴンだとして、西の王国にはそんなツテがあるだなんて、早く』
「貴様はどうやって我の魔力探知から逃れた、我が生まれてこの衝撃は初めてだ。答えろ」
拒否権などない。命令。エンシェントドラゴンの命令なんぞ断れるはずもない。今それができるのはセイヘムとメイヘム位なものだ。ユンタルは少し特殊だ。
「ぇ、ぇっと、私の異能です·····」
「勇者特有の個人能力のことか、我が出会った勇者の中でも最強の能力であるな。フン、やはり勇者とは面白いものだ、我の飽くなき探求心をくすぐる。」
「え、えっと·····」
「フウカ様は何故こんな所に?他の勇者様達は、」
「あっ、それは、」
気まずそうな表情をしながら俯く勇者フウカ。何か訳ありなのだろうか。
「これは無礼な問でしたね。申し訳ありません。」
「いいや、我は気になる。話せフウカとやら」
「あっ、はい。」
勿論断れない。あまり言いたくない様子だが言うしかないと腹を括っていた。
「私は、捨てられたんです。」
「捨てられた、?勇者とは国の宝です!確かに横暴な振る舞いが目立つ勇者パーティーでしたが、捨てるなんて一体何が.......」
「私は勇者パーティーの魔法使いでした。主に攻撃魔法を担当していたのですが、近接戦を主体とする我ら勇者パーティーにお前のような後衛アタッカーは要らない、そう言われてしまい.....森の中で捨てられてしまいました。」
「なんということを、」
「他の勇者共はさぞ頭が悪かったのだろうな。近接戦闘だけで片付けられる敵なぞ雑魚しか存在しない。それに魔力を完全に消せる異能を持っている魔法使いとなると戦闘において、特に奇襲に関しては最強と言えるだろう。貴様詠唱時は魔力探知に掛かるのか?」
「え、えっと、引っかからないです。」
「であれば最強としか言いようがないな。貴様がいれば魔王も奇襲で瞬殺だ。貴様と貴様の運搬用の何かがあれば世界平和だ」
「あ、えっと、ありがとうございます、?」
テトがガチ褒めするほどの異能、仮にテトがこれを持っている状態で勇者として召喚されたとすれば掠り傷負わずに世界平和を成し遂げられるだろう。
「それほどなのですか?テト様」
単純に戦闘に関しては無知なセイヘム、それはそうだろう。西の王国は外交努力の末、戦争がここ数百年起こっていない珍しい国だ。戦の知識などあまり無いだろう。
「フン、例えばだなセイヘムよ、貴様が背中から攻撃魔法をぶつけられたらどうなる?」
「えっと、死にます、?」
「その通りだ。人間であれば致命傷、もしくは為す術もなく消し飛ばされるだろう。貴様、魔法はどの程度まで扱えるのだ?」
興味が収まらない、知らないことが立て続けに数件来てテトの知りたがりセンサーに引っかかってしまった。
『あれ?案外いい人?』
「あ、えっと、詠唱に時間がかかっていいのでしたら、上位魔法まで、」
「魔法の訓練を初めてからどのくらいだ」
「3年です、」
「セイヘムよこやつが《天才》言うやつではないか?決めたぞ?我が拾ってやろう。」
「ん?」
「まぁ〜!素晴らしい考えですテト様!てことは住民第一号ですね!」
「今から第一号を捕まえに行くつもりだったが、あやつが第二号になるとはな!やはり我は運がいい!」
「え?」
目が点になっているフウカを他所に話を勝手に進める二人、反論しようとしてみるもセイヘムに脇の下から持ち上げられ赤子をのような扱いをされ、気づいた頃には、
「何故こんなことに········」
エンシェントドラゴンの背に乗り旅が始まっていた。身を乗り出し下を見てみると魚達があとを必死に着いてこようとしているのが見えた。
比較対象がないから正確なことは分からないが、おそらくとてつもない速度で飛んでいるだろうと推測出来る。この速度で飛んでいても心地よい潮風が頬を撫で海には手漕ぎボート程の波紋しかたっていない。
「なんか私、凄い体験してるような......まぁ、どうせ行くあてもなかったし、こういうのもアリかな」
自分の人生だ、もしかすればあそこで野垂れ死んでいた可能性すら存在している。であれば多少の好奇心で行動するのも悪くないだろう。フウカは今までの全てを忘れ去るかのようにテトの背の上で座りながら大きく伸びをした。気持ちが軽くなったあとの世界はさぞかし美しかろう。太陽が反射しキラキラと宝石のような輝きを放つ海、この海はどれだけ続いているのだろうか、そんな思いにふけるのも悪くはない。
「フウカ様はなんという世界からいらっしゃったのですか?」
「私は日本という国からやって来ました」
「ニホン、それはどういう世界でしたか?」
こちらも好奇心が抑えきれないのだろう。まぁ、将来魔物学者になりたいと申す人間だ、珍しいことやあまり耳にできないことは大好きだろう。
「日本はとても栄えた世界でしたね。この世界のみたいな魔法はありませんが、とにかく技術力がこの世界とは比較にならないほどでした。」
「なんと、例えばどんなものがありましたか?」
「う〜ん、スマホですかね!」
「スマホ?」
「えっと、これくらいの電子機器、この世界で言うとマジックアイテムみたいな?ものでして、行先へのルートを教えてくれたり、現在地がわかったり、誰とでも何処でもお話できて、あっビデオ通話って言って自分がそこにいるかのようにその人がカメラで撮った景色が私達にも見える機能があったり、すっごく便利で生活必需品でした!」
「なんと!そんな素晴らしい物があるとは!是非使ってみたい物です!」
興味津々のセイヘムとは真逆、実際は興味はあるがあまりよく思っていないのがテトだった。
「それを口外するのはあまり賢い選択とは思えぬな。」
「?」
「どうしてですかテト様?素晴らしい技術ではありませんか」
「たしかに素晴らしく興味深い話だ、だが素晴らしいとは様々な意味合いで取れる。もしそのスマホ?とやらがこの世界に普及してしまえば戦争の戦略の幅・安全性・安定性が飛躍的に向上し技術戦争が始まってもおかしくは無い、どこらかとばっちりで南の王国が宣戦布告を仕掛けられるだろうな。」
「え?!でもそれは日本、私の居た世界でしか作れませんよ?」
「では問おう、その事実を知っている者は誰がいるのだ?」
「あ、」
「他国からすれば貴様自身がそのスマホとやらを持っていると捉えられても不思議ではない、貴様を巡って戦争になる可能性すらある。ニホンから来た勇者は貴様一人か?」
「いえ、私たち勇者パーティーは全員日本人です·····」
「なんと、」
「フン、嫌な予感しかせぬな」
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「縄地楓花のパーティー脱隊を祝して!乾杯!」
「「乾杯!!」」
「か、乾杯·····」
ここは織物の街。この街にやってきて早々酒場を占領し宴を始めたのは南の大国の勇者パーティー。
宴をするのは何も悪いことでは無い、ただ、やり方というものがあるだろう。
数十分前
「貴様ら、そこをどけ!」
「あ?なんだよあんちゃん、席なら他にも空いてるぜ?ここは酒場なんだ、気分を害するために来る場所じゃないんでね、ほらあっちに座りな」
「も、申し訳ありまs」
「なんだと?」
勇者は怒りを露わにしその男に剣を向けた
「俺が誰だか分かって言っているのか?」
「知らねぇーな、冒険者か?随分と身なりがいいようだが、どこかの国の坊ちゃんか〜?ダッハッハッハッハ!」
酒場の笑い物になった勇者はその男を袈裟に斬った。
「グぁぁあ!!」
身体から血が垂れ流しになり酒場の床は血で染まった。
「俺は南の大国の勇者、九紫 一だ覚えておけ愚民ども」
「お、おい!大丈夫か!!」
酒場に居た人達が斬られた男に駆け寄った。勇者パーティーは一人を残し一番大きな席に着いた。
「あんた!勇者だからってなんでもしていいと思ってんのかい!」
「ハッ、だったら俺に手を出してみろ、国が動くがな!ハッハッハ!」
「てめぇ、!」
「辞めな!取り返しのつかないことになるよ、」
「くそ、」
「癒しの光よ、光の回復····だめ、全然治らない、」
「当たり前だろ!俺が斬ったんだ!お前みたいな下位の魔法使いに回復出来るはずがないだろう!精々足掻いて酒の肴になれ!おい!酒と飯を持ってこい!」
「女神の光よ、」
「あ?」
「女神の癒し」
倒れた男の傷は瞬時に塞がり血が足りなくなり白くなっていた顔色もあっという間に健康な顔色へと戻った。
「何をしている!華!」
「殺しちゃうのは、ダメだよ。まえの街でどうなったか·····忘れた、?」
「チッ、使えねぇ。酒はまだか!」
「は、はい!今お持ちいたします!!」
周囲の目線が華という聖女に止まった。姿が知られたくないのか、姿を隠す為だけに作られた様なローブを身にまとっている。
「あ、あんたは。」
倒れていた男がスクッと起き上がり華に話しかけた。
「申し訳ありません、私が手を貸せるのはここまでです·····本当に、申し訳ありません。」
小声で勇者パーティーには聞こえないように謝罪をした華、周囲の人もそれを理解したのか、直ぐにその場を去ってくれた。
「余計な真似を、まぁいい!今日はいい日だ!邪魔者は消え去り俺たちは最強の勇者パーティーとして名を馳せる第一歩だ!」




