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しあわせ♡異世界大家族計画

 やあみんな! 元気にしてたかい? 俺は元気だけど今とっても困ってるんだ!

 え? 何故かって?

 ……最近、嫁(予約済)が大胆で困ってる(顔の前で両手を組むポーズ)

 いやマジで困ってるんだって。主に嫁(幼女)の情操教育的な観点で。


 この間、森に捨てられてたウサ耳幼女を嫁にするために拾ってきたんだが、諸事情により俺が手元で育てることになった。

 まぁ幼女だもんな。俺も幼女に劣情を催すようなド畜生ではないので年頃になるまで育てなきゃいけない。本当は近所の村にでも預けてこようと思ってたんだけど、ユキの生い立ち———あ、ユキってのは俺の嫁(確定)のことなんだけど、まぁそのユキの問題とユキ本人が嫌がった関係もあって一角聖馬(じんがい)の俺が子育てをすることになってしまったのだ。


 俺は馬なので、いや正確には馬じゃないんがだ似たようなもんだ、要するに当然人外なので人間の幼児を育てるなんて夢のまた夢、つまり無理ってもんである。紆余曲折を経てなんとかヒト型を取れるようになったのだけれど、前世の記憶を浚っても子育てにまつわるものは1ミリも存在してない。


 幸いだったのは、ユキが肉食系の種族じゃなくどちらかというと草食寄りの雑食で、ある程度自分のことができる年齢だったこと。着るものと住む場所さえ整えて食べ物を採ってきてやれば、自分で考えて行動できた。さすがに刃物や火は1人で触らせられなかったけど、多少怪我したところで俺が治せば問題なかったし。いやぁ、魔法ってすごい。異世界やべぇ。


 そんなこんなでなんとか生活してたんだけど、最近どうも嫁(ウサ耳幼女)の態度がイロイロと露骨になってきてヤヴァイのである。

 例えば。


「あー、落ち着くわぁ……やっぱ家族っていいねぇ」


 用事を済ませて帰宅した俺は、ユキをすっぽり抱え込んでご満悦だった。言っとくけど変な意味はないぞ。小さい子を膝抱っこするのに他意はないからな。というかこの体勢はユキの方から要求してくるんだからな。そこんとこちゃんとわかっといてくれよ。


 ああ、そうそう。ユキを育てるために整備した塒は、俺がはっちゃけた所為でいつの間にか純日本家屋へと変貌を遂げていたりする。魔法ってほんと何でもできるよね。便利だけど時々怖いわ。


 半ば定位置と化しつつある俺の腕の中で、ユキも機嫌良くにこにこしながらミカンっぽい果物を食べていて、のんびりとした日常にしみじみと浸っていたのだが。


「ゆーまさま」

「んー?」

「なら、家族を増やすために子作りしましょ?」


「「ごふっ」」


 こてり、と小首を傾げながら発せられた爆弾発言に、俺ともう一匹は揃って咽せることになる。


「げほっ、ごほっ、おまっ、お前なぁ!」

「ちょっとユーマ!! あんたユキになんてこと言わせてんのよ!!」

「俺じゃねーよ!!」


 謂れ無い誹謗中傷を向けてきた大トカゲ娘に反射で叫び返す。トカゲのくせに顔が赤い。自称千年生きた龍らしいが、それにしちゃあ初心なんだよなぁ、こいつ。これで山脈1つ縄張りに持ってるってんだから世の中わからない。強そうには見えないんだがな。


 ことあるごとに森へ襲撃を仕掛けてきていたこいつに、龍華(ロンファ)って名前をつけてやったのはいつだったっけ。結構最近だった気もするし、それなりに昔だった気もする。ナマイキだけど、妹みたいで憎めないやつなのだ。

 最近は暇なのかずっと俺の家に居座っているんだが、縄張りとか大丈夫なんだろうか。


「と言うかユキ! お前そんな言葉どこで覚えて来るんだ!!」

「わたしはもうオトナなんですぅ! だからそのくらい知ってるんですぅ!」


 可愛らしく唇をとがらせるユキを見て、ロンファがボソッと呟きを漏らした。


「……そう言えばこの間、白蛇のじいさまにイロイロ教えてもらったとか言ってたような……」

「あんのじじい!! いつか蝶結びにしてやる!!」


 諸悪の根源はテメェか!!

 だいぶ大きくなったとはいえ、ユキはまだまだ子供なんだぞ! そりゃ保健体育的な知識も多少は必要かもしれないけど、こんな直接的なものは求めてないから!!


「むぅ。なんでダメなんですか? わたしはもう大人ですよ? いつまで待たせるのですか」

「いやいやいや、俺からしてみればまだまだ子供だからね? それとそういう事言っちゃいけません」


 女の子の成長は早いっていうけど、なんというかいたたまれない。

 もしかしてウサ耳だからか? うさぎはあの可愛らしい見た目に反して性欲がすさまじいって話を聞いたことがある気が…いやいやいやいや。それにしたってアカン。

 なんにせよ見た目が幼いから俺が言わせてるように見えるのだ。犯罪者にはなりたくない。


「そりゃあ、ゆーまさまから見たらみーんな子供ですよ。そうじゃなくて、わたしはもう子供を産める体になってるんです。だから、遠慮しなくてもいいんですよ?」

「いや遠慮とかそういう問題じゃなくてね?」


 常になくぐいぐいくるユキの口にミカンもどきをねじ込んで黙らせる。ユキはお利口さんだから、口の中にものがある状態で喋ったりしないのだ。ちょっぴり不服顏のままむぐむぐしてる様が可愛らしい。


「まあでも、ユキの気持ちもわかるのよね。ユーマってば一向に子供作る気配ないんだもの」

「あ? そんなに急ぐ必要もないだろ」

「はぁ? 何言ってんのあんた。森の王が借り腹もらったってかなり前から噂になってんのよ? それが一向に子供ができたって話になんないから、最近じゃ借り腹に問題があるんじゃないかとか言いたい放題言われてんの。ユキのことを想うんならさっさと腹括って仕込みなさいよ。べっ、別にあたしでもいいのよ?」

「は?」


 このトカゲ、今なんつった?


「だっ、だから別にあたしがあんたの子供を産んであげてもいいって———」

「いやそれはどうでもいい、その前」

「え? だから、借り腹候補のユキに問題があるんじゃないかって」

「もっと前」

「なんなのよ。えーっと、たしか森の王が借り腹もらったって」

「それ!」


 ビッとロンファに人差し指を向けたら、盛大にビクッとされてしまったが気にしない。それより何より今聞き捨てならないことを聞いた。


「森の王って、なに」

「はぁ?」


 疑問を口にしたら何故か顔をしかめられてしまった。ロンファだけじゃなくて、ユキまでびっくりした顔をしている。何だこれ、俺が悪いのか。


「なんだよって、あんたのことでしょうが。えっ、『宿無し』とか言われてるのに自覚なかったの? 嘘でしょ? 今まで何やってたのよ。これだけ名前ばら撒いてたくせに」

「えっ、何って言われても。てか宿無しって、縄張り持ってない奴のこと言うんじゃなかったのか。少なくとも俺はそう思ってたんだが。あと名前は関係あるのか」


 思ったことをそのまま口にしたら、何故か哀れみの視線を向けられてしまった。

 解せぬ。俺が何をしたって言うんだ。


「宿無しってのはね、本来は借り腹を持たずに生まれてきた正真正銘の精霊のことを言うのよ。寄る辺を持たないってことで縄張り無しにも転用できるけど、本来の意味はそっち」

「へー」

「へーって、あんたね」


 ロンファは呆れ顔だが自覚もないのにどういう反応をしろって言うんだ。


 確かに、俺がこの世界に転生した時の記憶に赤ん坊だった頃の記憶はない。というか意識が芽生えた瞬間からこの姿だったように思う。ある程度育ってから思い出したんだと思ってあんまり意識してなかったけど、もしかしてあの瞬間って俺産まれたてだったのか。知らんかった……。


「でもそれと『森の王』に何の関係が?」

「あんたバカなの? 一番強いやつが森の王になるんじゃない」


 なんだろう幻聴が聞こえた。何言ってんだこのトカゲ娘。


 俺が頭上に「?」を飛ばしていると、何を言っても無駄だと悟ったのか、ロンファは一つため息をついて俺の右手側に座り直した。なんで近付いてきたんだこいつ。


「あとあんたほいほい名前つけてるけど、それも本来なら異常なのよ。あたしたち精霊に近い者には固有名詞を持つなんて概念は薄いし、他人につけるなんて以ての外。それに、あんたの名付けって祝福に近いものだし」

「ええー? でも名前ないと困るだろ。個体識別できないし」

「あたしからしてみればその感覚が理解不能だわ」


 じと目のロンファに見つめられて若干の居心地の悪さを感じる。そうか、これがジェネレーションギャップってやつか。違うか。


「でもわたしは、ゆーまさまにお名前つけてもらって嬉しかったです」


 ふにゃっと笑うユキは相変わらず天使のように可愛らしいな! そうかそうかとでれっと格好を崩したらロンファに舌打ちされた。何だよ悪かったな親バカ——おっと、嫁バカで。


「あ、あたしだって嬉しかったわよ!」


 真っ赤な顔で叫ばれても説得力は皆無だ。いや、もしかしてツンデレだったりするのか?


「嬉しかったんならいいじゃん。あって困るもんじゃないんだろ?」

「それはそうだけど…」


 おっとなんだ煮え切らないな。口の中でもごもご喋ってるせいで何言ってるか全くわからんが、どうやら何かがご不満らしい。


「なんだよ、文句あるなら言えよ」

「うううー……!!」


 涙目で唸られてもわからん。

 まったく、ロンファもユキを見習って素直になればいいものを。


「ロンファさんは、ゆーまさまが名前の安売りをするのがいやなんですよ」

「はい?」

「ちょ、ユキ!!」


 腕の中のユキが、俺の顔を見上げながらにこにこしている。

 かーわいいなぁもう!

 なんかロンファがわたわたしてるのが視界の端に見えるけど気にしない気にならない。なんか涙目でぎゃーすか言ってるけど聞こえない聞く気ない。

 なぜなら俺にはユキのお話を聞くという崇高な使命があるからな!!


「名前の安売り?」

「はい。だって、名前をつけてもらうのって、とってもトクベツな感じがするじゃないですか」


 にぱぁ、と。

 花がほころぶようにユキが笑う。


「そっかぁ、トクベツかぁ」

「そ、そうよ! 名付けは特別なものなんだから、ほいほい付けちゃダメなんだからね!!」


 何故か立ち上がったロンファがずびしぃ!! と俺たちを指差してるのを視界の端に見ながら、日頃の手入れの甲斐あってもふつやなユキのつむじに顎を乗せる。


「じゃあ、次の名付けは俺の子が生まれたときにするかぁ……」


 ユキのさらふかな耳をモフりながらぼやけば、何故か腕の中と右手側から「ガタタッ」と音が。視線を向ければ、したたか脛を打ち付けたらしいロンファが涙目で蹲っていた。


「ならいまから子作りしましょう!!!」

「落ち着きなさい」

「みゃっ?!」


 がったがったコタツを揺らしながら俺と向き合う形に座り直したユキが、えっらいきらきらと瞳を輝かせながら迫ってきたのをデコピンで撃退しつつ。


 額を抑えて畳モドキの上をゴロンゴロン転がっているユキを頬杖をついて見守りながら、こんな穏やかな日々がいつまでも続けばいいなぁと、思った。

とりあえずこれにて本編完結。

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