命名♡俺の嫁
「だいじょうぶ?」
「あ、ああ……だいじょうぶ……もう大丈夫だよ……」
よかったちゃんと言葉がわかる……!! 感極まってひしっと幼女に抱きついてしまったけどどうか俺を責めないでくれ!! ホントつらかったんだよ……!!
なぜか言葉が通じない事態が発生して小一時間。半泣きで原因究明に勤しんだ結果、どうやら俺は今まで会話をしていなかったらしいことが判明した。
え? いや、大丈夫、俺の頭は至って正常だから。トチ狂って変な電波受信したりとかしてないから。
だってよく考えてみろよ。俺もおかしいと思ってたんだよ。馬の身体構造じゃどうやったって声なんか出せないんだもの……。
今まで特に不便なく使っていたあの会話方法、どうやら俗に言う「念話」らしいのだ。そういえば喋る時に口動かしてた記憶がない。無意識って怖いね。
そしてどうやらその念話、額に生えてる角を媒体として発動していたらしい。わかりやすく言えば、一角聖馬の持つ固有スキルだ。角を破壊されると発動しなくなる系の。いや、角破壊されたら俺ら死ぬんだけども。
なので、念話は角を見えなくした状態だと使えない。
や、だってさ、実験の結果、一角聖馬に戻ると会話ができるようになって、馬姿でも角がないと会話ができなくて、人型でも角があれば会話できるってんだから、角以外の原因なくね? 自分でも「ねーよ」な考えだけどさぁ。まさかあの水晶みたいな角がアンテナだとは思わなかったし今もちょっと認めたくないけども。
それを踏まえて俺の現状。
白い長髪、それっぽい和装、額に透き通った角装備。
厨二病と笑うなかれ、俺にとっては死活問題なのだ。ついでに言うと変化の加減が調節できなくて耳もなんか馬っぽい感じになってるけども。エルフ耳っぽくなってるけども。いいんだよユキが「おそろい!」って笑ってくれたから。羞恥心は前世に以下省略。
「おうましゃん?」
「ああごめんね、なんでもないよ。あとさっきも言ったけどこの姿でおうましゃんはちょっとキツいもんがあるからユーマって呼んでくださいお願いします」
「ゆーま?」
「ああユキちゃんマジ天使!!!!」
「?」
こて、と小首を傾げるユキの姿に思わず両手で顔面を覆って溢れるパッションを抑え込む。あ、ヤバイ、なんか出てはいけないものが出そう。いや出さないけど。ユキの前でそんなカッコ悪い姿見せませんけど。
あ、ご紹介が遅れました。
こちら、今にも天に昇ってしまいそうな儚げな美しさを持った和装ウサ耳幼女改め、「ユキ子」ちゃんです。苗字はまだない。でも一角の苗字を売約済みなんでそこんとこヨロシク。手ぇ出したらブッコロな。
え? 安直だって? 言うな。もうこの名前以外思いつかなかったんだよ。
だってまるで「雪」みたいに真っ白な薄幸幼女だぞ? 俺の未来のお嫁さん候補だぞ? 「幸」せになって欲しいじゃん? だから「ユキ子」。いい名前だろ?
「ゆーましゃま?」
「なんでもないよー、気にしないでねー。あと様はいらないからねー」
俺の奇行にもドン引きしないユキちゃんマジ天使。きょとんとした表情もかわいいよマイハニー。そんないい子は頭かいぐりの刑だ!
しあわせに浸りながら、ユキのツルスベ銀髪をわっしわっしと豪快にかき混ぜる。くすぐったそうに身を捩って俺の手から逃れようとするユキの表情は、どこからどう見ても楽しそうにはしゃぐ5歳児そのもの。その事実がただただ愛おしい。
ああ、人の姿を手に入れてよかった。人の姿で言葉を交わせてよかった。この幼い子供にヒトのぬくもりを与えることができて、本当によかった。
森の傍に、まるで物のように捨て置かれた子供。居もしない森の神の供物として育てられた人の業の結晶。それが今、己の手中にあることを喜んでいる俺は、きっととても愚かしく、許されない思いを抱いているんだろう。
それでも。
俺を拒絶せずにいてくれたこの子を、俺のエゴで今後の人生全てを奪ってしまうこの子を、いつか全てを知った時、俺を恨むのだろうこの子を、どうしても、どうしても、手放すことができない。
もちもちのほっぺたを両手で包んでむにむにと揉みこむ。小さな手で俺の手をぺちぺちと叩いて不満を訴えるユキの姿に、どうしようもない幸福感が溢れてくる。
ああ、やわらかい。あたたかい。そうだった、生き物はあたたかいのだった。いつぶりだろうなぁ、こんなにあたたかいのは。
「やめへくらひゃぃい」
「ん~? もうちょっと、もうちょっとだけ」
「やぁだぁ」
ずっと焦がれていた温もりに触れて、知らず知らずのうちに凝り固まっていた何かがゆるゆると氷解していくのを感じた。
「や……。……? ゆーましゃ……?」
「……うん」
幼児の舌ったらずな声が俺を呼ぶ。まんまるお目々がぱっちりと瞬いて、不思議そうな光を帯びた。そうして自分のほっぺを戒めていた大きな手に力が入っていないことを悟って、真っ白な子供はこてりと小さく首をかしげる。
「……いたいの?」
「………」
声が出なくて、ただ、首を横に振った。
少し迷った素振りを見せた後、おずおずと俺の頭に触れた小さな手と、一生懸命に背伸びをする姿にまた愛しさがこみ上げてきて、自分の3分の1くらいしかない幼子を掻き抱いた。
俺を呼ぶこの声を、きっと、ずっとずっと昔から、欲していたんだ。




