第四話 探究者はつらいよ②
「遅い時間にすみません。誰かいますか?」
教会の扉を開け、リラが尋ねると、
正面上のステンドグラスに向け祈る人影が見えた。
「ああ、まだ構いませんよ」
白衣の男が振り返ると、
肩まで延びた銀髪、
横に伸びた耳、
茶色い肌のダークエルフ。
「ああ、私はブラククと申します。どういったご用件でしょう?」
司祭だというブラククが、
眼鏡の位置を直しながらこちらへ歩いてきた。
リラはここへ来るまでの事情を説明した。
「なるほど、
亜人たちが手を取り生きるこの街を“素敵”だと言って下さる。
この街の者として、それは誇らしい気持ちになりますね」
ブラククが眼鏡の奥で目尻を下げた。
「それにしても聖ローマン教の教会が珍しい。確かにそうでしょうね」
おっと、と手を叩きブラククが言った。
「よければ、もう少しお話していかれませんか?
お茶菓子くらいでしたらご用意させていただきますよ」
「ありがとうございます」とリラが言い、
「ええ?そろそろ酒が……」ぶつくさ言い出す寅二郎を引っ張り部屋を移った。
茶菓子とお茶がふるまわれ、
皆席に着いたところでブラククが言った。
「みなさんは“欲張りと世界樹”というお話をご存じですか?」
「いえ、“樹のおはなし”なら最近耳にはしましたが……」シドが返した。
「ああ、それは子供向けに編集したものですね。それで結構。
実は私はその話の中の“女神さまのしたかったこと”が気になりましてね」
と言い、ブラククが茶をすする。三人は首をかしげる。
「女神さまが人や亜人を生み、人の欲が原因で世界樹が生まれた。
欲張ることを戒めるお伽噺だと思っていました」
代表してリラが言った。
「エルフという種は、大抵、学者肌でしてね。
“なぜ”とか“そもそも”、そういった事を気にする種族なんですよ」
ブラククはリラに微笑み、
「大体、ダークエルフは闇属性を探究しすぎてこの肌になった種族だ、という説もあるくらいで。そんな中でも私は変わり者らしく、“女神さまが何をしたかったのか”が気になりすぎて聖ローマン教の司祭にまでなってしまいました」
とまたブラククが笑った。
「探究のために司祭にまでなるなんて。エルフの探究心は相当のものですね」
目を見張るリラを一心に見つめ、ブラククが言った。
「いえいえ、私は知りたくなってしまったのです。女神さまの心の行先が」
そう言ってブラククが立ち上がった。
「おっと、もうこんな時間だ。随分お引止めしてしまった」
ブラククがそう言って、この場はお開きとなった。
しかし、そういえば、
とブラククが最後に付け加えた。
「最近、辻斬り事件が発生しているらしいです。夜道にはお気をつけて」
「面白いお話をありがとうございました」
そう言って頭を下げて帰っていく一行。
その中でもリラを見つめ続けていたブラクク。
扉が閉じると一人呟いた。
「長らく祈りを捧げてみるものだ。
リラと言ったか、あの娘ならば女神の心の行先へ導いてくれるかもしれん」
蝋燭の灯る部屋の中、ブラククの眼鏡の奥は見えなくなっていた。




