第一話 突撃はつらいよ⑨
レオンが空へと還った。
それでも戦場は止まらない。
あちこちで爆音が轟き、
剣と剣がぶつかり、
金属音が鳴り響いていた。
が、
ここだけは静かだった。
シドに抱えられ、
リラに治癒魔法をかけられていた、
寅二郎に声がかかった。
「やってくれたな」
ベルゼだった。
レオンごと光の柱に貫かれ右肩は無くなり煙を上げていた。
右腕も皮一枚でぶら下がっているような状態で、
それでも眼光鋭く、寅二郎を睨んでいる。
「“守る力”は堪能したが、お前はここで殺さねばならん」
ベルゼが右腕を引きちぎると、左手に持ったそれが漆黒の刃へと変化した。
それを見た寅二郎は剣を取り、立ち上がった。
「まだ、治っていないのに!」
リラが叫ぶがシドが止めた。
「無理だ。“私”たちじゃ止められない」
なおも叫ぶリラを引きずりシドたちは下がった。
まだ傷の癒えていない両手、血を滴らせながらも寅二郎は剣を構える。
「決着を着けよう。――行くぞ、ベルゼ!」
両者の視線が交錯する。
次の瞬間雄たけびを上げお互い走り出し、
「「ウオオオオオオッ!」」
一閃。
寅二郎の影が膝をつく。
「トラジロウ!」リラが叫び、
「なるほど」とベルゼの影は初めて本気の笑みを浮かべた。
しかし、ベルゼの影は胴で切り離され二つになっている。
「この力、生かしておけば魔王様の脅威に……」
そう呟くと、ベルゼも灰になって消えた。
シドとリラが駆け寄り再度治療を開始する。
寅二郎は胡坐をかき空を見上げて言った。
「終わったな」「ああ!」「うん」戦場であることも忘れ三人で笑いあった。
――しかし戦場は、嘘のように静まり返っていた。
突然キィンと空が鳴り、そして上から押さえられたような圧迫感を感じた。
「面白い見世物だった」暗く淀んだ声色だった。
「見世物の礼に我が名を伝えよう。
我が名はノクス・リヴェルタ。
貴様ら“正”を滅ぼす者の名よ」
戦場中に響いているのだろう、全ての者が聞き入っている。
「しばらくの“生”を謳歌するがよい。
じきに全てに終わりをくれてやろう」
そう言うと圧迫感が消えた。そして魔物たちが引いていった。
(魔物たちが撤退した?
この統率力、あれが大魔王ノクス・リヴェルタ!)
シドは敵の巨大さに唾を飲んだ。その横では、
「リラちゅわん、もっと近くでちょうだい」
「馬鹿、集中が途切れるじゃない!」
(この馬鹿はこの期に及んでまだそれか……)
危険を顧みずレオン、ベルゼを退けた寅二郎。
その姿に頼もしさを感じる一方、危うげな物を感じていたシド。
しかし普段通りに戻った様子に、安堵のため息を付くのであった。




