第一話 突撃はつらいよ⑦
レオンの頭の中では様々な記憶が蘇っていた。
ただ剣を振る自分、歓声に迎えられる自分、大将軍に任ぜられる自分。
いつでも自分は“正義”を振るっている。……はずだった。
そこへ、ベルゼの言葉がこびりつく。
“まだ正義の側にいるつもりか?”
レオンは声にならなかった。
死んでいる若者を見下ろしていても何も感じなくなった。
残されたのはただ、《空白》だった。
そこへ、ベルゼが再び口を開いた。
「そうそう、魔弾銃はな魔王軍の特注品なんだ、意味は……分かるな?」
レオンが目を見開き、同時にシドが叫んだ。
「ベルゼのやつ、何かする気だ!詠唱を始めてる!」
ただレオンを見ているしかできなかった寅二郎たちもベルゼを睨み構える。
「さぁとっておきのショーが始まるぞ!
トラジロウ、お前も最前列で見ていけ!
――《リバース》!!」
次の瞬間、レオンが感じたのは“何か”が裏返る感覚。
堪らず膝を付き、大地に手を突く。
見えたのは、血に濡れた手甲。“正義”を守り続けた自らの鎧。
それがひび割れ、中から黒い煙が上がった。
「馬鹿な」
手甲だけでは無かった。
膝や胸、鎧だけでなく、
自身の体から煙が上っている。
「何が起きている?やめろ!」
叫び立ち上がると砕けた鎧が剥がれ落ちていく。
肉体は煙を上げながら少しずつ膨張していく。
かつて“聖”だったものの裏側。
「俺はレオン・クラムハルト!……人間だ!」
必死になって叫ぶ。
しかし、その声もくぐもり、
最早自分の知っているそれでは無かった。
全身が黒い影のようなものに反転していきレオンは呟いた。
「なぜだ……なぜ、俺が……!」
ベルゼは一歩、前に出た。
「君が“正義”だったからだよ」
その言葉は、優しかった。
「正義は、最も反転しやすい。
だって、疑わないから」
レオンの背中が、大きく反る。
喉から、くぐもった呻き声が漏れる。
「それでも!俺は……」
次の瞬間、地面が割れ、黒い衝動が噴き上がる。
レオンは、大悪魔へと“反転”した。
だがその顔には、
完全な笑みはなかった。
――泣いているようにも、見えた。




