名を呼び、呼ばれること
「とても可愛らしくできたわ」
やはり自身の手先の器用さは大したことがないが、それでもその少女はどことなく喜んでくれているように見えると、アロナは思った。
白とも銀とも蒼とも言えるような、不思議な髪と瞳の色。何度見ても神秘的なそれに、思わず目を奪われる。
(やっぱり、あの三人と同じだわ)
決してありふれた色ではない。ならば彼女らは姉妹なのかもしれないと思うが、目の前の少女を含めそれぞれ顔立ちが全く異なっている。
アロナはそれを疑問に感じつつ、自身をじいっと見上げる目の前の小さな存在に手を伸ばす。触れない距離、けれど頭を撫でるかのように動かしてみせた。
「ねぇ、少し話をしてもいいかしら」
首を傾げる様を、アロナは肯定と捉える。
「私、あなたのことを名前で呼びたいと思うのだけど、どうかしら」
「……」
少女は答えない。ただ黙って、アロナを見つめている。
なにを重んじなにを不必要とするのか、それは人それぞれ。この少女はきっと、知らないのだろうとアロナは思う。
ーーアロナ
それはかつて、彼女の生き甲斐であった。どんなに辛い境遇であっても、たった三文字を口にされるとそれだけで満たされていた。
例えその幸せが、今は泡のように弾けて消えているとしても。
知らない方がよかったなどと、否定はしたくないと。
「昨日あなたが私のことを“ロナ″と呼んでくれて、とても嬉しかったの」
「……」
「名前を呼ばれることの幸せを、あなたにも感じてほしい。それにいつまでもあなた、なんて呼んでいては寂しいわ」
(彼女はきっと、全てを理解してる)
幼くとも、無知であっても、決して愚かではない。この少女はその小さな体いっぱいに、さまざまな経験を詰め込んでいるのではないかと、アロナは感じている。
そしてその比率はきっと、悲しみの方が重い。そんな瞳をしている。
「どうかしら。無理強いはしないけれど」
「ロナ」
「ええ、そうね」
(私が嬉しいと言ったから、呼んでくれたのかしら)
アロナは、不思議な気分だった。これはそう、ククルを受け入れた時と似ている。
本来敵である人間が自分の懐に入り込み、あまつさえ温かさを与えてくれる存在となるなど。本当に、不思議なことだ。
「一晩中考えていたのだけど、エイミというのはどうかしら」
「えい…?」
「エイミ、よ」
少しお節介かもしれない。自分はすぐにここを去る人間だし、上手くアルベールと契約を結べたとしても、どこまで関わることを許されるかは分からない。むしろ、互いに干渉し合わないのが理想だ。
けれどつい、祈ってしまった。
(彼女のこれから先の未来が、どうか愛に溢れたものでありますように)
「エ、イ、ミ」
一文字ずつ確かめるように、ゆっくりと口にする。
そして、彼女は初めてふんわりとした笑顔をアロナに見せた。
「エイミ!」
「そう、エイミよ」
「エイミ、エイミ、エイミ」
何度も何度も繰り返す少女に、アロナの心の奥がきゅうっと小さく震えた。




