本来の目的を忘れそう
ぴかぴかに磨かれた窓ガラスから差し込む陽の光のせいで、まるでアルベールに後光が差しているかのようだった。やはり今日も彼は人離れした美しさであるとアロナは思うが、彼女にとってそれは美醜のみを捉えればそうであるだけ、というただの事実である。
だからどうというものではないし、それによって今後のアロナの行動が変化することもない。外見は意味をなさないと、彼女は知っている。
周囲からどれだけ褒めそやされようとも、結局自分は三度も殺されたのだから。
もしもこの記憶が全て作り物だとするなら、神様は悪趣味だとアロナは微笑した。
「ではフルバート嬢。僕はこれで」
「ロファンソン様、いってらっしゃいませ」
淑女の礼とともにそう口にした後、少々でしゃばり過ぎたかとアロナは思ったが、アルベールは大して気にも止めていない。
それよりも、夕刻ここに戻る頃にはどうなっていることだろうかと、にたり顔を表に出さないようにする方が難しかった。
もしも彼女が本当に使えるのであれば、今抱えている問題は全て解決する、と。
あり得ないと思っていたその未来が、ほんの少しでもこちらに近づいてくれたことがアルベールの心に灯りをともす。
これが勘違いならばこの令嬢にはがっかりだと、至極勝手な考えまで浮かんでいた。
アルベールの事情など知る由もないアロナは、表面上取り繕いながらただ淡々と彼を見送った。
部屋に戻りしばらくすると、クローゼットからごとごとと小さな物音が数度。ラーラや他の使用人達を部屋から退出させ、彼女はゆっくりとそこに近づいた。
「もう、私しかいないから安心して」
声をかけてからすぐに、ゆっくりと扉が開く。昨日と同じように、神秘的な色の髪と瞳を持つ少女が、その双眸でアロナを見つめている。
髪は昨日アロナが結ったままの形だったが、横になっていたせいなのかすっかり崩れている。ドレスも、着替えられた様子はない。
(昨日あのまま、今までずっと眠っていたのかしら)
アロナは思わず触れそうになった手を引っ込め、柔らかな表情を作る。
「おはよう、気分はどう?」
「……」
「まだ、私のことを覚えてくれているかしら」
少女はなにも答えなかったが、代わりに自身の長い髪を手で持ち上げる。悲しげにふにゃりと眉を下げるその表情は、アロナの心にまっすぐ刺さった。
「髪の毛が崩れたことが悲しいの?」
少女はこくりと頷く。
(なんて可愛らしいのかしら)
撫でまわしたくなる衝動を堪えつつ、アロナは彼女が好ましいと思う距離を崩さない。
ドレッサーの前に立つと椅子を引き、そこに視線を向ける。
少女の表情はあまり変わっていないように見えたが、その小さな体がこちらへたたっと駆け出すのがやはり可愛らしく、アロナの頬も自然と緩む。
一晩経ってもこうであるならば、昨日の出来事は勘違いではないということ。アロナは、なぜアルベールを除いた自分だけが少女に近づけるのかいくら考えても分からなかったが、それが不快ではないことは事実だった。
アルベールとの交渉材料に使えるかもと考える反面、それがどうでもよく感じる感情があることも確かだった。




