彼女を、駒に
アルベールは一歩離れた場所からやり取りを静観していたが、その表情にはやはり驚きが見てとれる。あの少女だけでなく、この三人までもが自らアロナに話しかけるとは。
今までの令嬢には、絶対にありえないことだった。存在自体を無視するか、あからさまに忌み嫌うかのどちらか。一番小さなマルマは別としても、興味のないことには一切食指の動かないカーニャと、自身に仇為す者には容赦のないアビゲイル。
彼女らには社交辞令など存在しないと、アルベールは知っている。アロナを「不思議な匂い」などと称したのは、本当にそう感じたから。
アロナの滞在を許したのは、リュート夫人の顔を立てる以外の目的などなかったが、なるほどこれは良い拾いものをしたかもしれないと、彼は内心ほくそ笑む。
アロナ・フルバートは使えるかもしれない、と。
「実は昨日、クローゼットのレディもこのフルバート嬢に対して似たようなことを言っていたんだ」
アルベールはまるで鼻歌でも歌うかのように、軽やかな口調でそう言った。
「あの子が?まさか、嘘だろう?」
「嘘ではないさ。髪を触らせていたよ。君達や僕でさえ無理だったことを、彼女はやってみせた」
「それはとても興味深いですね」
アルベールの言葉に、短髪のカーニャと大人びたアビゲイルが反応する。マルマだけは、面白くなさそうに唇を尖らせた。
「この人、アルの好きな人なの?」
「まさか。僕が心を割くのは君達にだけさ」
穏やかな表情を浮かべるアルベールを見て、マルマが嬉しそうに笑う。その様子が純粋な子供らしくて可愛いと、アロナは思った。
「フルバート嬢。大変心苦しいのですが、仕事が立て込んでおり今日のお相手はできそうにありません」
「どうぞ、お気遣いなさらないでください。私は今日も、できるならあの少女と話がしたいと思っているので」
「そうですか。では一日、城にいらっしゃるということですね」
そんな台詞とともに、アルベールはちらりとカーニャ、そしてアビゲイルに視線を向ける。
あわよくば、と考えている彼の思惑はおそらく現実となるだろう。
(なにを考えているのか、分かるようで分からないわ)
どうやらアルベールは、己が囲っている少女と自分が仲良くなることを喜んでいるようだと、アロナは考える。
そして少女達も、なぜかこちらに興味を示している。その理由は分からずとも、嫌われるよりは幾らもましだ、とも。
とりあえず、ずっと頭の端にあった「少女らは全員アルベールの娘では」という説は否定できそうだと、アロナは漠然とそう思う。
彼女は至って冷静だったが、主人を馬鹿にされていると感じるラーラだけは、憤りを表情に出さないよう必死にエプロンの裾を握りしめていたのだった。




