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異世界千夜一夜  作者: 大西平洋(ヘイヨー)
~箱の中の世界~
721/1003

~第720夜~「貧しき国のミラーグレ(その5)」

 救っても救ってもキリがありません。

 ミラーグレがどんなにたくさんの食べ物を出しても、困っている人はいくらでもいるのですから。

 あとからあとから助けを求める人たちがやって来て「お(なか)がすいたよ~」「早く食べる物をちょうだい!」と言ってきます。

 しかも、1度食糧をあげたとしても、何日かしたらまた必要になるのです。まるで大海の水をバケツですくうようなものです。


「まいったわね。これじゃ、終わりがないじゃないの…」


 ついにミラーグレは落胆に暮れ、人々に食糧を配るのをやめてしまいました。

 いくら無限に食べ物を生み出せるとはいえ、人の精神は有限なのです。


 同じような問題は、世界各地で起こっていました。

 “物質を瞬間移動させる能力者”は、荷物を移動する作業に飽きてしまいましたし。“触れるだけでケガを完治させる能力者”も、次から次へと押し寄せてくる患者を前に心をすり切らせていました。

 誰も彼もが“便利に使われるだけ”の状況に疲れ果ててしまったのです。


 もちろん、それ相応の対価をもらえる場合も多いのですが…

 お金なんて、とっくの昔に稼ぎ終えています。残りの人生を豪遊して暮らしても大丈夫なくらい、多くの能力者たちは大金を手にしていました。


「せっかく手にした力を有効活用しないとは何ごとか!」


「あなたには天から与えられた才能があるのだから、人類のために使うのは当然でしょ?」


「サボってないで、サッサと働け!」

 このような声が世界中で噴出します。


「そんなコト言ったって、疲れちゃったんだもん。いくらやってもキリがないし。それとも、残りの人生ず~っと奴隷みたいに働き続けろって言うの?」

 ミラーグレは、民衆の不満を耳にして、こんな風につぶやきます。


         *


 遠い世界からミラーグレたちの世界を観察していた少女ポステリが言います。


「アララ…1人の人に全権を与えたら、最後は自然消滅を望むか戦争を起こしてしまう。だから、能力を分散化していろんな人に与えてみたのに、結局はやる気を失っちゃったわね」


 少年の姿をしているプリオも答えます。


「そうだね。どうやら、能力者の人数が少な過ぎたみたいだ。世界には何十億という人間がいるのに、僕らが能力を与えたのは数十人に過ぎないからね。1億人に1人というのは、さすがに数が足りなかったか」


「じゃあ、もっと人数を増やしてみる?」


「そうだね。何人くらいがいいかな?」


 プリオとポステリは話し合って、適正な人数を決めました。

 たとえば、食糧を生み出したり、人の傷を治したりするような能力者は、100人に1人程度。武器や兵器を生み出したり、巨大な台風を起こして街を壊滅できるような能力者は、とりあえず増やさないことに決めました。


 簡単に言えば“人類の役に立つ能力者”はたくさん作り、“破壊行為に使える能力者”はレアにしたのです。


「これで、ヨシッと!」


「じゃあ、さっそく適用するわね」


「オッケー!やっちゃってよ」


 こうして、世界に特殊能力者があふれかえるコトになりました。


         *


 世界中に特殊能力者が誕生したことにより、社会システムが変革されました。

 ミラーグレのような“料理や食材を無限に生み出す能力者”は、今や加工食品や冷凍食品の工場でフツーに働いています。


 能力者は、パッケージングされた完成製品をいきなり生み出すコトはできません。

 けれども“皮をむいたジャガイモをぶつ切りにしてゆでたもの”ならいくらでも生み出せます。

 同じようにニンジンだとかピーマンだとか牛肉だとかを、巨大な釜いっぱいに生み出し、ミックスして、料理を完成させ、容器に入れたりパッケージングして出荷されていきます。

 その過程で、非能力者にも仕事が残されました。


 医療業界では“人の傷を治す能力者”が大活躍しています。

 かといって、既存の医療関係者が要らなくなったわけではありません。相変わらずお医者さんや看護師さんたちは病院で働いています。

 主に、並の医療技術では治せない患者さんを能力者が担当し、小さな病気やケガをこれまで通りのお医者さんが担当するといった仕組み。


 物質移動の能力者が大量に誕生したからといって、バスや電車やタクシーがなくなったりはしませんでした。

 一般人は相変わらず交通機関や自家用車を利用しています。

 大量の物資を遠隔地に運ぶのは、特殊能力者の仕事。


 かといって、これまであった仕事が消滅するようなこともなく、相変わらず農業や畜産業は行われていますし、医療も物流も教育も以前と同じように人材を育成し続けています。


「ある日突然、能力者がこの世界から消えてしまったら?」を社会は想定し、基本的なシステムは以前のまま、部分的に特殊能力者を取り込んだ仕組みに変えていったのです。


 同じような能力者が増えたことにより、ミラーグレもゆとりを持った人生を送れるようになりました。

 無理をせず自分にできる範囲で人助けをしています。たとえば、災害が起きた地域に派遣されて、飲み物や料理を生み出したりして。


 さて、この続きは、また明日の夜に語るといたしましょう。

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