~第716夜~「箱の中の世界(その13)」「貧しき国のミラーグレ」
神様に匹敵する能力を身につけ、アリ人間たちの望みをかなえ、理想の街を作り上げたと思っていたエルピージョ。
ところが、何もかもが思い通りで働く必要さえない社会は、人々から生きる気力を奪ってしまいました。
いつの間にか、すぐそばにいるレーベさえも、生きるコトに飽きてボ~ッとするようになっています。
困ったエルピージョ。
ハッ!と、いいアイデアを思いつきます。
「そうだ!やる気のなくなったアリ人間は削除して、新しいのを出せばいいんだ!」
レーベも他の住民たちも、生きる気力をなくしてしまったら1度消滅させ、新鮮な気持ちを持っていた頃のを新しく出してやればいいのです。
なにしろ、エルピージョには神にも匹敵する力が与えられているのですから。その程度の願い、雑作もありません。
思った通り、住民たちを入れ替えることで、再びやる気満々で生きるようになりました。
もちろん、しばらくするとまた生きるコトに飽きてボ~ッとして過ごすようになるのですが、そうしたらまた新しいのと入れ替えればいいだけです。
ただし、1つだけかなえられない願いがありました。1人だけ変えられない人間がいました。
それはエルピージョ自身。自分自身だけは入れ替えることができないのです。
「世界がどんなに理想的になっても、人々がどんなに幸せになっても、僕だけは不幸なまま!退屈なままじゃないか!」
絶望に打ちひしがれるエルピージョ。段々とひとりごとが多くなっていき、人との会話も避けるようになっていきます。
「フフフ…ハハハ…アッハッハッハッハ!」
段々と狂っていくエルピージョ。
「そうだ!戦争だ!戦争を起こして退屈をまぎらわせよう!かつて神様たちがやってたみたいに!」
さっそくエルピージョは新しい世界を創造しました。
“ゾウ人間たちの世界”や“ライオン人間たちの世界”を作り出しては、種族間でイザコザを起こし、戦争をさせます。
「いいぞ!もっと!もっとだ!もっと争い合え!戦争が醜ければ醜いほど、より楽しめる!生きる気力が湧いてくる!僕の寿命も延びるというものだ!」
不気味な笑いを上げては、人々が争い合う世界を楽しむエルピージョ。
*
遠くからその様子を眺めていたプリオとポステリ。
「ああ~あ、壊れちゃったよ」と、プリオ。
「結局、私たちと同じコトしかできなかったわね」と、ポステリ。
「これで何体目だっけ?」
「もう覚えてないくらいたくさんよ。誰か、もっと別の解決策を出せる人はいないのかしら?」
無数の世界を作り、戦争を起こし、選ばれし者を神様に仕立て上げてきたプリオとポステリ。
けれども、誰も彼もが最後には限界に達してしまうのです。
2人と同じように別の世界を創造して戦争を起こすか、みずから消滅を選ぶか。
たとえ、その過程で平和や理想郷を追求したとしても、最終的には同じ選択をしてしまうのでした。
「きっと、何もかもが自由過ぎるからいけないんだ。世界には、ある程度の不自由さ…言い換えれば“制限”が必要なんだよ」
プリオの意見にポステリもうなずきます。
「そうね。遠い昔に“絵を描く”という行為があたりまえに行われていた時代。『白紙の紙になんでもいいから好きに描いてみなさい』と指示されると、多くの人たちが戸惑って何も描けなかったというわ」
「制限をつけたら描けた?」
「そう。“家の絵”とか“動物”とか“家族”とかテーマを与えてあげると、ほとんどの人たちがスラスラと描けるようになったそうよ」
「どうやら僕らが生き残る道も、その辺りにありそうだ」
「そうね。その辺を踏まえて、もう1度世界を作ってみましょう」
そう言って、2人はまた新しい世界を創造しました。
「貧しき国のミラーグレ」
ある世界の片隅で、少女が泣いています。
「ああ…どうして、うちはこんなに貧乏なのかしら?もっとお金持ちの家に生まれたかった」
彼女の名は、ミラーグレ。
ミラーグレの家は非常に貧しく、今夜食べるパンにさえ苦労しています。
オマケに、隣の大きな国が攻めてきていて、常に戦争状態なのです。
「こんなんだったら、いっそ生まれてこない方がよかった…」
そうつぶやくミラーグレの前に、ひと組の少年少女が現われます。
プリオとポステリでした。
「何をそんなに泣いているの?」と、ポステリがたずねました。
驚きながらもミラーグレは答えます。
「うちは、とても貧乏で。食べる物にも困ってるんです」
「食べ物が欲しい?」と、今度はプリオが質問します。
「ええ、それはもちろん!恵んでいただけるんですか?」
ミラーグレがたずね返すと、2人はクビを横に振ってから答えます。
「恵んであげるのは、あなたの方よ」と、ポステリが言いました。
「アタシ?アタシは何もできませんよ」
「これからできるようになるのさ」と、答えるプリオ。
それからプリオとポステリは2人で手をつなぎ、余った方の手をミラーグレの頭の上にかざしました。
さて、この続きは、また明日の夜に語るといたしましょう。




