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異世界千夜一夜  作者: 大西平洋(ヘイヨー)
~箱の中の世界~
712/1003

~第711夜~「アリ人間たちの戦争(その4)」

 赤アリ女性の名はレーベ。

 レーベとエルピージョは、手を取り合って旅に出ます。黒アリ軍も赤アリ軍もいない理想郷を目指して逃げ出したのです。

 もちろん、そんな場所あるはずもありません。

 2人とも、そんなコトはわかりきっていたし、旅の途中で野垂れ死んでも構わないと思っていました。いわば“心中(しんじゅう)”の一種です。


 ところが、不思議なコトに、2人の進む先々に荷物が現われて、荷物の中には生活に必要な品だとか食糧だとかが詰められているのでした。


「ほんとうに不思議。誰が、私たちのためにこんな物を用意してくれてるんだろう?」

 クビをひねって考えるレーベにエルピージョは答えます。


「誰だっていいじゃないか。おかげで、僕らは生き延びられているんだから」


「そうはいかないわ。いつか私たちが平和に暮らせるようになった時に、お礼をしないと」


「そうだなぁ…もしかしたら、ほんとに神様のしわざかもしれないぞ」


「神様か…じゃあ、もしも、私たちが安全な土地へとたどり着き、平和に暮らせるようになったら、神様のために教会を建てて祈りましょう」


「もしも、そんなコトになったらね」と、エルピージョは答えました。


         *


 それから何ヶ月も旅を続け、2人はついに「ここぞ!」という土地にたどり着きました。

 辺りは平和な草むらで、近くに水場もあり、とても暮らしやすそうです。


「到着したわ!ここが夢で見た景色よ!」と、レーベは感激の声を上げました。


「うん、いいね。これから2人で一緒に暮らしていこう」

 エルピージョも言いました。


 エルピージョは、レーベのために過ごしやすい巣を作ろうと、片方だけになった腕で一生懸命に地面を掘り、巣作りを始めます。


 相変わらず、どこからか荷物が届けられ、中にはシャベルだとかネコ車だとか、土木工事に必要な道具も入っています。

 それに加えて、最近は高級な食料品まで届けられるようになってきました。


「これは…ロイヤルゼリーじゃないか」

 エルピージョは驚きの声を上げます。


「ほんと。こんな高級品、一体誰が?やっぱり神様なのかしら?」


「なんにしろ、これで栄養をつけて、立派な子供をたくさん産んでくれ!レーベ!」

 エルピージョが言いました。


「うん、そうね。私、がんばる!がんばって、大勢(おおぜい)子孫を残す!そして、大きなな街を作りましょう!」


 その言葉通り、レーベはどんどん卵を産んで、どんどん新しいアリ人間たちが増えていきます。

 生まれてきたのは、赤アリ人間と黒アリ人間の子。赤と黒が混ざった模様をしたアリ人間たちです。


 子供たちはすぐに成長し、大人になり、巣作りや食糧探しに参加するようになりました。

 おかげで、片腕のエルピージョは、もはや働く必要はありません。


 アリ人間たちが増えていき、巣が巨大化するのに比例するかのように、レーベの体もどんどん大きくなっていきました。


「随分と大きな体になっちゃったね…」と、あきれるやら驚くやらするエルピージョ。


 レーベの体長は、すでにエルピージョの何倍にもなり、巨大な巣の最深部で身動きひとつできずに、卵を産み続けるだけの体となっています。


「けど、こんな役割になっちゃって、君は幸せなのかい?」とたずねるエルピージョ。


「ええ、私は幸せですよ。と~ってもね。どうせ、あの赤アリの国で心すさんだまま一生を終えるだけだったのですから。それに比べれば、たくさんの子供たちに囲まれて過ごすこの方がずっとず~っと幸せです」


「そうか。君が幸せなら、それでいいんだけど…」


「それよりも、約束通り教会を作ってくださいね。そして、毎日神様にお礼を言ってください」


「ああ、そうだったね。わかった」

 そう答えると、エルピージョは教会作りを始めました。


         *


 数年の時が経過しました。

 赤黒アリ人間たちの巣は非常に巨大なモノとなり、近所にいくつもの新しい巣が作られました。

 そうなってくると、段々と問題が生じてきます。

 そう!食糧不足です。


 最初の頃は充分な量の物資が送られてきていたのに、人口が増えるに従って徐々に物資が足りなくなってきました。

 いいえ。正確には、人口が増えると同時に、送られてくる物資の量も増えていったのですが…送られてくる食料が人口の増加に追いつかなくなってきたのです。


「困ったなぁ。なんで、こんなコトになっちまったんだろう?」


「こうなったら、人口を抑制するしかない。生まれてくる人の数をコントロールして、うまく折り合いをつけよう!」


「いいや、もっといい方法があるぞ。新しいエサ場を探すんだ。世界には、別のアリ人間たちが住んでいる土地があって、そこにも食糧が大量に送られてくると聞く」


「そうか。そいつらを奪うんだな。ナイスアイデアだ!」

 などと話す。赤黒アリ人間たち。

 中には、危険な思想に走ろうとする者たちも生まれてくるのでした。


「ああ…神様。なにとぞ、もっと食糧を送ってくださいまし。我々が困らないだけの充分な量を…」

 エルピージョは教会で、神様の像に向かって願います。


 さて、この続きは、また明日の夜に語るといたしましょう。

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