~第337夜~「退屈な星のサルサラ(その21)」
世界の果てにある星で、青年となったソルタリオはひとりの老人と出会います。
老人の名はクロガネカズオ。彼は、誰もいない城の中で、ひとりその寿命を終えようとしていました。
「言葉の通りの意味だよ。君さえよければ、私の跡を継いで、世界をつなげる役割を続けてみないか?と提案している」
老人の言葉にソルタリオは、足を1歩引いてから答えました。
「できるんですか?そんなコト?」
「ああ、できるとも。私が君にこの能力を委譲するだけでいい」
ソルタリオはしばらく考えてから提案を受け入れました。
「それもおもしろそうだ。どうやら僕は生涯旅をし続けなければ満足できない性格らしい。ならば、旅には目的があった方がいい。これまでは、ただ無目的に移動し続けていただけだったから」
「いいだろう。では、こちらに来なさい…」
老人の言葉に従い、玉座の側まで歩み寄るソルタリオ。
一瞬、辺りは闇に包まれると、何かのオーラが老人から青年へと乗り移ります。
「これでよい。新しい世界は、新しい時代に生まれた若者が作っていけばよい…」
それがクロガネの最後の言葉でした。老人はすでに事切れていたのです。
こうして、ソルタリオはクロガネの能力を受け継ぎ、世界同士をつなげる役割を担っていくこととなりました。
*
一方、サルサラはというと…
10年の長きに渡る旅を終えて、自分の生まれた星へと帰ってきていました。
不思議なコトに、14歳で家を飛び出した時にはあんなにも退屈に思えた星が、今や“心落ち着く場所”へと変貌してしまっていたのです。
故郷は何も変わっていませんでした。驚くほど何も変わっていません。変わったのはサルサラの方でした。
「おかしなモノね。子供の頃は退屈に思えていたこの星が、この街が…今はどこよりも心落ち着く。ここが私の生まれ育った場所だからかしら?それとも、たとえどこであろうとも、大人になると1ヶ所に暮し続けたくなるものなのか?」
理由はわかりませんでしたが、サルサラはもうあまり「旅に出たい」とは思わなくなっていました。世界中どこを旅しても満足できないと知ったからかも。あるいは逆に、満足してしまったからかも知れません。
ある時、サルサラは、この星の支配者に会いに行きました。いえ、“かつて支配者であった者”でしょうか?もしくは、その言葉すら当てはまらないかも。なぜなら、彼女はこの星を“支配しよう”とは思っていなかったから。
ならば、“かつての指導者”が適切な表現かも知れません。彼女は檜扇アヤメという名でした。
50年以上も前、アヤメは摂理光輪教の信者たちを引き連れて、地球からこの星へとやって来て、この星の社会システム自体に変革を起こしました。
それまで争いの絶えなかった国々は、教主であるアヤメの教えに従い、平和と安定を求めていきます。やがて、戦争は鎮静化していき、人々は静かに幸せを求める人生を歩むようになりました。
檜扇アヤメはそのような大人物ではありましたが、今やスッカリ年を取り、ただのおばあちゃんです。彼女のもとを訪れる者もほとんどいなくなっていました。
小さく素朴な小屋に住むアヤメに、サルサラはお目通りを許されます。
「アヤメ様。サルサラと申します」
そうあいさつするサルサラに、かつての摂理光輪教の教主は気さくに応対しました。
「存じておりますよ。若くしてこの星を出て、様々な世界を訪れたそうですね。さぞかし見聞を広められたことかと」
「お恥ずかしい。若気のいたりですよ。アタシは、ただ世界を知らなかっただけ。自分を知らなかっただけ。だから、この星がどんなに素晴らしく心安らぐ土地か知りませんでした」
「そう言ってもらえると、ワタクシもうれしいですね」と、顔中しわだらけになったおばあさんは微笑みました。
「アヤメ様がどれほど苦労なされて、この星に平和をもたらしたのか、若い頃のアタシはわかりませんでした」
「フフフ…おかしいコト。だって、あなたはまだ若いじゃありませんか。あなたの人生は、これから。これから」
「…かも知れません。それでも、10年前のアタシには理解できなかったんです」
「ワタクシは、むしろ逆の心境ですね」
「逆?」と、24歳のサルサラは不思議そうな表情で答えます。
「そうです。確かにワタクシたちがやって来て、この星は平和になったでしょう。けれども、代わりに“進歩”を失ったのではないかと危惧しているのです」
「それは…昔のアタシも同じコトを思っていました。あるいは、今でも?」
「そうでしょうとも。それは当然の感情です。おそらく、事実でもありましょう」
「だけど、『平和や安定』と『進歩の鈍化』は表裏一体…あるいは、同じモノではありませんか?いた仕方のないコトだと思います」
サルサラの言葉にコクンと軽くうなずいてからアヤメは続けました。
「それでも…他の世界からおくれを取っていることは間違いありません。もっと他にやりようがあったのではないか?平和でありつつ競争も残すような社会作りがあったのではないか?今でもそう考えているのです」
この続きは、また明日の夜に語るといたしましょう。




