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異世界千夜一夜  作者: 大西平洋(ヘイヨー)
~邪神、勇者、時々人~
299/1003

~第298夜~「邪神、勇者、時々人(その88)」

 異世界への移住者集団を見送った数日後…

 夕空(ゆうぞら)市中央公園にて。


 公園は高台にあり、夕空市を一望できるようになっています。ナオミはポツンとひとりでたたずみながら、急に静かになった街を眺めていました。


(終わったのね。いろんなコトが…)


 (あわ)ただしい日々が終わりを告げ、今後の身の振り方を考えているナオミ。

 ふと気づくと、公園内にひとりの少女の姿がありました。少女はキャンバスに向かって一心不乱に筆を振るっています。


 絵を描き続ける熱海(あたみ)琴音(ことね)(そば)までやって来るナオミ。

「コトネちゃん。あなたは別世界に行かなかったのね」

 ナオミの姿を目にとめると、筆をおろして休憩するコトネ。

「アタシの望む自由は、そんなに危険なモノではないから。わざわざ遠くに行かなくても、この街でもかなえられる」

「なるほどね。そういう自由の形もあるのね」

「けど、ちょっとくらいスケッチ旅行に出かけてもいいかも?」

 ウン、と軽くうなずきながらナオミは答えます。

「そうしなさいよ。あなたの人生は、あなたの自由になる。まだ若いんだし、やりたいコトを目一杯やればいい。死ぬまでそうやって生きればいい。誰もが、その権利を有しているわ」

 辺りは夕日に照らされて、美しくオレンジ色に輝いていました。

 そのままふたりは黙ってたたずみ続けます。

 沈みかけの太陽がふたりに長い影を作るのでした。


         *


 数年の時が過ぎました。

 最初の移住者たちは、異世界で大成功を果たします。もちろん、そこには数え切れないほどの失敗と犠牲と問題も起きましたが、それでも大きな意味では“成功”といって間違いないでしょう。


 檜扇(ひおうぎ)アヤメも、摂理光輪教の信者たちを(たずさ)えて別の世界へと旅立っていきました。

 やがて、その世界は“正義”と“秩序”を中心とした1つの理想世界へと変わっていきます。もちろん、そこまで到達するには何十年という長い月日を必要するのですが。


 クロガネの“異世界同士をつなげてしまう能力”で、いくつもの世界へとトンネルが作られ、世界同士の交流が進んでいきます。

 人々は海外旅行や留学をするかのごとく、世界間を行き来するようになっていきました。

 もちろん、そんな面倒なコトは望まず、このまま今の世界に住み続ける人々も大勢います。

 けれども、積極的に世界間を渡り歩き、新しい文明や文化を学んだ者の方が(はる)かに能力が上がるスピードが速いのでした。それは、さながら“文明開化の時代”に、わざわざ外国語を学び、船に乗って危険な旅をして海外で見聞を広げた福沢諭吉や夏目漱石たちのようなもの。


 サタミや多くの移住者たちは、時々、この世界へと帰ってきては、おみやげ話をしてくれます。ナオミは、そんな人々の語る言葉に興味深そうに耳を傾けるのでした。

 時には自分でも別の世界に足を運ぶことがありましたが、あくまで短期間の滞在にとどめ、基本的には自分の世界にとどまり続けます。

「私があえて出向いていって積極的に歴史を変える必要はない。私はこの場所にいて、みんなのつなぎ役になればいい」

 それがナオミの持論でした。


 創造神である花畑(はなばたけ)ナオミは、過度に能力を使わないようにと気をつけ、あまり世界に干渉し過ぎないように生き続けました。

「この世界は、もう人のものだから。この世界に住む生き物たちにまかせた方がいい。私は“ひとりの人間”として生き、影響は与えるけれど、それ以上は関わらないようにしよう。それこそが、この星の…そして、この星とつながったいくつもの世界たちの自然のあるべき姿だから」

 そのように考えるようになったのです。

 ただし、“観察”はし続けます。神であった頃と同じように、人としても相変わらず無限にも思えるほどの好奇心を持ち続けるナオミ。

 見るモノ聞くモノが全てみずみずしく、新しい発見と驚きで満ちています。


         *


 それから数十年後…

 ナオミは、人としての人生を終えます。

 その瞬間、(みずか)らがかけた魔法の効果が発動し、創造神としての記憶が(よみがえ)りました。


 1つの人生を終えて、全ての記憶と能力を取り戻した創造神。

 天界に戻ると、天使に向かって語りかけます。

「えらく長かった気がするよ、今回の旅は。わずか100年にも満たぬ時間であったというのに…」

「そうでございましょうとも。そうでございましょうとも」と、背中に真っ白な(はね)が生えた金髪碧眼(へきがん)の少女の姿をした天使が答えます。

「思うに時間というのは不思議なモノで。数千万年、数億年が(またた)く間に過ぎ去ったかと思えば、数年、数ヶ月…いや、わずか数日や数時間であろうとも、それ以上の長さに感じられることもある」

「“記憶の凝縮”というわけですね。人としての記憶も、また情報の1つ。情報というのは、ただ量が多ければよいというモノではなく、その密度や価値によって重要度が決まるのでしょう」と、天使は答えます。

 創造神は小さくコクンとうなずきました。

「人として生きてみて、いい経験になったよ。これからの活動に大いに役に立つであろう。生きていく“ハリ”にもなったし。これは、当分の間、消滅するわけにも、誰かに神の座を譲るわけにもいかなさそうだ」

 そう言って微笑(ほほえ)む神。

「それは、ようございました。アタシもお仕えする意義があるというモノです」

 天使も微笑み返します。

「さて、では、仕事にかかるとするか…」

 そう言って創造神は、空中に半透明のディスプレイを呼び出しました。

 この続きは、また明日の晩に語るといたしましょう。

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