~第297夜~「邪神、勇者、時々人(その87)」
「ケロ吉くんの言う通りだ。みんなが同じ場所に住んでいるから、争いなど起きるのだ。ならば、同じ思想の持ち主同士が集まり、違う考えの者とは別々に暮せばいい」と、クロガネが提案してきます。
「そんなバカな!?」と声を上げる一同。
「え?我輩いいコトいったケロ?」と、当のケロ吉本人が一番驚いています。
「けど、みんなが建物の中に引きこもって暮すだなんて、現実的じゃないわ!」と、サタミが反論してきます。
「誰が建物の中に引きこもって暮すと言った?」とクロガネ。
「え?違うケロか?」
「暮すのは建物の中じゃない。世界そのものだ」
「!?」と、再び驚く一同。
「同じ思想の者同士が集まって、別の世界に暮せばいいじゃないか。こことは別の世界に!私の能力を使えば、それができる!」
クロガネの言葉に「あ!」と、みんな声を上げます。
そう!クロガネの能力は空間に巨大な穴を開け、別の世界へのトンネルを作るというもの。その力を使って、別世界に移住しようというのです。
「なるほどね。まさに集団移民というわけね」と創造神であるナオミも納得します。
「けど、移住先にも人は住んでるわけでしょ?今度はその人たちとイザコザが起きるんじゃない?」と、サタミはまだ不満がある様子。
「当然そうなるだろうな。ならば、その世界でも同じ考えの者同士を移住させてしまえばいい」と、クロガネはさらに提案してきます。
「ええ!?どういうコト!?」と、さらに驚くサタミ。
そこに摂理光輪教の教主檜扇アヤメが補足の説明を入れてきます。
「言いたいコトがわかってきたわ。たとえば、我が教団が、ある世界に移住したとする。そこで教団の考えに合わない人は、別の世界に移住してもらう。たとえば、クロガネさんが住む世界にね。逆に、クロガネさんの世界で考え方が合わない人は、私たちの世界に移住できる。それをいくつもの世界でやるわけね」
「そういうコト!」と、クロガネがうなずきます。
「そんなムチャクチャな!」と、反対する人たちも現れます。
「けど、それっておもしろそうよね。ムチャクチャにおもしろそう!」と、ナオミはノリノリです。
「おもしろいかもしれないけど、きっとどこの世界も大混乱になるぜ」と、クーちゃんこと大島空斗が反論します。
「確かに、1度世界は混乱に陥かもしれない。でも、それさえも時が解決してくれるんじゃない?決めた!私はこの未来を選択するわ!この先、どのような未来が待っていようとも、ここから先は見ない!最終的な決断をくだす!」と、ナオミは皆の前で宣言します。
「よろしいのですね?ほんとうに?」と、天使が念を押してきます。
「いいわ!決めちゃって!この選択で!」
「わかりました。では…」と、天使は答えますが、何も起こりません。
「え?どうしたの?何も変わっていないじゃないの」と、ナオミ。
「何も変わってはいませんよ。ただし、今後変わるコトもありません。未来は確定してしまったのですから。今後は、2度と時が巻き戻ることはありません。創造神様は、すでに選択を確定してしまわれたのですから」
「なるほど、そういうコトね。もっと、バ~ッと光り輝いて魔法が発動するものだと思ってたものだから。重要な決断って、意外と地味なモノなのね」
こうして、未来は確定し、ナオミたちは新しい時間を生きることになりました。
*
それからは、皆、非常に忙しい時を過ごしました。
最初は、世界中の人々の意見を集め、似たような考えの者同士を大きく分類する作業から始めました。
次に移住先の選定です。クロガネの“異世界同士をトンネルでつなげる能力”は、非常に役に立ちました。これまでは、異世界から魔物を呼び寄せるくらいにしか使っていなかったのに、今回は人間の移動に使い始めたのです。それも、尋常ではない人数の人間を!
こうして、全ての準備が終わったところで、最初の移住者たちが旅立つコトになりました。
主なメンバーは、クロガネの一派。サタンの娘であるサタミ。それから、アンアンやケロ吉たち。
アンアンの移住理由は、こんな感じ。
「このままこの世界にいても、元の地球に戻れる可能性は限りなくゼロに近い。だったら、わずかでも可能性の高い別の世界に行ってみるわ。たとえ、そこが元いた世界でなかったとしてもね」
ナオミは創造神として、この世界に留まり続けるコトに決めていました。
ケロ吉は、師匠であるナオミとの別れを惜しみます。
「我輩も新たな世界に挑戦してみたくなったケロ!師匠とは、ここでお別れケロ」
「いってらっしゃい。これは、餞別よ」
そう言ってナオミがケロ吉に渡したのは、例のマジック・ウォッチでした。少しの間だけ、急激に身体能力を上げることのできる魔法のアイテムです。
「こ、これは…!!」と驚くケロ吉。
「あなたが持ってる方が役立てられると思って。なにしろ、スピードには自信があるケロ吉ですものね」
そこにサタミがやって来ます。
「ほんとに行かないつもりなの?ナオミ?」
「ええ。私は私で、この世界で果たすべき役割があるから」
「そう…寂しくなるわね」
「たまには帰ってきてよ。永遠のお別れってわけでもないんだから」
「そうね。気が向いたら、この世界にも戻ってくるわ。向こうの世界がよっぽど楽しくて帰りたくならなければね♪」
「じゃ、行くとするか…」
クロガネを先頭に別世界へのトンネルを進み始める人々。
さて、この続きは、また明日の夜に語るといたしましょう。




