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異世界千夜一夜  作者: 大西平洋(ヘイヨー)
~いろいろな小話~
103/1003

~第102夜~「ひとりぼっちのドラゴン(その2)」

 人間の親友ができたと思ったのに、裏切られてしまったドラゴンのマロンケッツァー。逆恨(さかうら)みで、人間たちを滅ぼすことに決めます。

 日々、鍛錬を欠かさず、日に日に能力を増していくマロンケッツァー。ついに「ヨッシ!これで、人間どもに復讐ができるぞ!」と決心できるだけの力を身につけました。


 街にいた1人の商人が、空を見上げます。突然、太陽が雲にさえぎられ、辺りが暗くなったからです。いえ、日の光をさえぎったのは雲ではありません。空を(おお)うように巨大な翼を持った1匹の生き物でした。


「なんだ、アレは?」

「飛行船?」

「いや、生き物だ。羽をはばたかせている。鳥だ!巨大な鳥だ!」


 街行く人々は空を見上げながら、口をあんぐりと開けて驚きました。

 …と、その瞬間、巨大な鳥とおぼしき生物は、美しいオレンジ色の炎を口から吐き出しました。

 まるで美術館で傑作を眺めるかのごとく、ボ~ッとその光景を眺めていた人々は、そのまま獄炎の炎に舐められて、命を終わらせました。恍惚(こうこつ)の表情のまま骨まで溶けてしまい、苦しみを感じることすらなかったでしょう。

 美しい景色を鑑賞しながら死ねたというのは、ある意味で幸せなコトだったのかも知れません。


 が、次の瞬間には、生き残った人々が状況を理解し始めました。

 あちこちで起こる叫び声。街は、巨大なドラゴンの吹き出す炎により、燃え落ちていきます。木造建築はもちろんのこと、レンガだろうが大理石だろうが、ドロドロに溶けてゆくのです。


 人間族の逃げ(まど)う姿を眺めながら、マロンケッツァーは満足でした。

「そうだ!これだ!これこそが望んでいたモノなんだ!一族を滅ぼした人間どもを、今度は僕が滅ぼす。これぞ、自然の摂理。淘汰の歴史!」

 そう叫びながらドラゴンの王は、恍惚感にひたっていました。失禁してしまいそうなくらい心地よい快感です。

 無力な生き物を蹂躙(じゅうりん)する快感。それは、かつて神ですら味わったことのある感情(もっとも、神様はそんな行為、数え切れないほどこなして、とっくの昔に飽きてしまっていますけどね)


 誰も勝てない圧倒的な力の前に、マロンケッツァーは酔いしれていました。

 けれども、そんな優位な状況がいつまでも続くはずはありません。奇襲攻撃ならばいざ知らず、防備を固めた人間族の前に、やがてドラゴンの王は苦戦するようになっていきます。


「クッソ!なぜだ!なぜ勝てない!僕はドラゴンの王ではなかったのか!?『一族の中でも突出した才能の持ち主だ』って、みんな言ってたじゃないか!あんなに努力だってしたのに、結局、人間族の持つ力には対抗できないのか!?」


 そうして、マロンケッツァーは、再び深い山の奥の洞窟に引きこもって暮らすようになりました。

 今度はビクビク、ブルブル震えながら生きていたわけではありません。それでも、人間たちの前に姿を現すのには慎重になっていました。

 何年か、何十年かに一度、人間たちが油断した隙を狙って襲撃をかけるのです。

 こうして、マロンケッツァーは「死のドラゴン」として、人々から恐れられるようになります。


         *


 さて、一体何百年の時が経過したでしょうか?

 人間たちを襲うことにも飽きてしまったマロンケッツァーは、“死”を考えるようになりました。


「このまま生きていても仕方がない。かといって、自ら命を絶つのも何かが違う気がする。どこかの誰かがやって来て、この命を終わらせてはくれないだろうか?たとえば、神様とか、魔王とか、人間の勇者とか…」


 けれども、その願いがかなえられることはありませんでした。

 ただ、ひたすらに悠久にも思える時が流れるだけです。


 そこで、マロンケッツァーは旅に出ることにしました。

「世界は広い。もしかしたら、僕が見たことも訪れたこともない土地に、この命を終わらせてくれる者が住んでいるかも知れない。そんな存在を見つけるための旅に出よう」


 こうして、孤独なドラゴンは、世界を飛び回って移動し続けました。

 その都度、目についた物を適当に食べながら、時に人間やドワーフやエルフなどと戦闘になりながら。決して負けることはありませんでしたけどね。


         *


 どれほどの時が過ぎたでしょうか?

 どれほどの距離を移動したでしょうか?

 マロンケッツァーが最後にたどり着いた場所。そこに待っていたのは「自らの命を終わらせてくれる存在」ではありませんでした。むしろ、その逆。「新たな生命を誕生させてくれる者」でした。

 そう!それは、1匹のメスのドラゴンだったのです。


 メスドラゴンの名は、ブランラーキス。

 マロンケッツァーは、一目見てブランラーキスに恋をしてしまいました。彼女の方も、1匹で寂しく暮らしていたこともあり、マロンケッツァーの想いを受け止めます。

 こうして、2匹は仲むつまじく暮らし、多くの子孫を作りました。

 その時になって初めて、ドラゴンの王は、かつて共に暮らした人間の気持ちを理解したのです。


「ああ、そうか!そういうコトか!あの人間…ハーティアは“これ”が欲しかったのか!そして、僕が滅ぼしてきた人間たちの多くも、これと同じモノを手に入れていたのだな」


 マロンケッツァーは、人間の気持ちを理解すると同時に、後悔もしていました。

 恋人や家族といった大切なモノを持っていた人々を、無残にも惨殺してしまったことに。そうして、その後は、世界を滅ぼすのではなく、人々の幸せのために力を尽くしたと言います。


 さて、今夜もお時間となったようです。

 それでは、次の物語は、また明日の晩といたしましょう。

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