~第102夜~「ひとりぼっちのドラゴン(その2)」
人間の親友ができたと思ったのに、裏切られてしまったドラゴンのマロンケッツァー。逆恨みで、人間たちを滅ぼすことに決めます。
日々、鍛錬を欠かさず、日に日に能力を増していくマロンケッツァー。ついに「ヨッシ!これで、人間どもに復讐ができるぞ!」と決心できるだけの力を身につけました。
街にいた1人の商人が、空を見上げます。突然、太陽が雲にさえぎられ、辺りが暗くなったからです。いえ、日の光をさえぎったのは雲ではありません。空を覆うように巨大な翼を持った1匹の生き物でした。
「なんだ、アレは?」
「飛行船?」
「いや、生き物だ。羽をはばたかせている。鳥だ!巨大な鳥だ!」
街行く人々は空を見上げながら、口をあんぐりと開けて驚きました。
…と、その瞬間、巨大な鳥とおぼしき生物は、美しいオレンジ色の炎を口から吐き出しました。
まるで美術館で傑作を眺めるかのごとく、ボ~ッとその光景を眺めていた人々は、そのまま獄炎の炎に舐められて、命を終わらせました。恍惚の表情のまま骨まで溶けてしまい、苦しみを感じることすらなかったでしょう。
美しい景色を鑑賞しながら死ねたというのは、ある意味で幸せなコトだったのかも知れません。
が、次の瞬間には、生き残った人々が状況を理解し始めました。
あちこちで起こる叫び声。街は、巨大なドラゴンの吹き出す炎により、燃え落ちていきます。木造建築はもちろんのこと、レンガだろうが大理石だろうが、ドロドロに溶けてゆくのです。
人間族の逃げ惑う姿を眺めながら、マロンケッツァーは満足でした。
「そうだ!これだ!これこそが望んでいたモノなんだ!一族を滅ぼした人間どもを、今度は僕が滅ぼす。これぞ、自然の摂理。淘汰の歴史!」
そう叫びながらドラゴンの王は、恍惚感にひたっていました。失禁してしまいそうなくらい心地よい快感です。
無力な生き物を蹂躙する快感。それは、かつて神ですら味わったことのある感情(もっとも、神様はそんな行為、数え切れないほどこなして、とっくの昔に飽きてしまっていますけどね)
誰も勝てない圧倒的な力の前に、マロンケッツァーは酔いしれていました。
けれども、そんな優位な状況がいつまでも続くはずはありません。奇襲攻撃ならばいざ知らず、防備を固めた人間族の前に、やがてドラゴンの王は苦戦するようになっていきます。
「クッソ!なぜだ!なぜ勝てない!僕はドラゴンの王ではなかったのか!?『一族の中でも突出した才能の持ち主だ』って、みんな言ってたじゃないか!あんなに努力だってしたのに、結局、人間族の持つ力には対抗できないのか!?」
そうして、マロンケッツァーは、再び深い山の奥の洞窟に引きこもって暮らすようになりました。
今度はビクビク、ブルブル震えながら生きていたわけではありません。それでも、人間たちの前に姿を現すのには慎重になっていました。
何年か、何十年かに一度、人間たちが油断した隙を狙って襲撃をかけるのです。
こうして、マロンケッツァーは「死のドラゴン」として、人々から恐れられるようになります。
*
さて、一体何百年の時が経過したでしょうか?
人間たちを襲うことにも飽きてしまったマロンケッツァーは、“死”を考えるようになりました。
「このまま生きていても仕方がない。かといって、自ら命を絶つのも何かが違う気がする。どこかの誰かがやって来て、この命を終わらせてはくれないだろうか?たとえば、神様とか、魔王とか、人間の勇者とか…」
けれども、その願いがかなえられることはありませんでした。
ただ、ひたすらに悠久にも思える時が流れるだけです。
そこで、マロンケッツァーは旅に出ることにしました。
「世界は広い。もしかしたら、僕が見たことも訪れたこともない土地に、この命を終わらせてくれる者が住んでいるかも知れない。そんな存在を見つけるための旅に出よう」
こうして、孤独なドラゴンは、世界を飛び回って移動し続けました。
その都度、目についた物を適当に食べながら、時に人間やドワーフやエルフなどと戦闘になりながら。決して負けることはありませんでしたけどね。
*
どれほどの時が過ぎたでしょうか?
どれほどの距離を移動したでしょうか?
マロンケッツァーが最後にたどり着いた場所。そこに待っていたのは「自らの命を終わらせてくれる存在」ではありませんでした。むしろ、その逆。「新たな生命を誕生させてくれる者」でした。
そう!それは、1匹のメスのドラゴンだったのです。
メスドラゴンの名は、ブランラーキス。
マロンケッツァーは、一目見てブランラーキスに恋をしてしまいました。彼女の方も、1匹で寂しく暮らしていたこともあり、マロンケッツァーの想いを受け止めます。
こうして、2匹は仲むつまじく暮らし、多くの子孫を作りました。
その時になって初めて、ドラゴンの王は、かつて共に暮らした人間の気持ちを理解したのです。
「ああ、そうか!そういうコトか!あの人間…ハーティアは“これ”が欲しかったのか!そして、僕が滅ぼしてきた人間たちの多くも、これと同じモノを手に入れていたのだな」
マロンケッツァーは、人間の気持ちを理解すると同時に、後悔もしていました。
恋人や家族といった大切なモノを持っていた人々を、無残にも惨殺してしまったことに。そうして、その後は、世界を滅ぼすのではなく、人々の幸せのために力を尽くしたと言います。
さて、今夜もお時間となったようです。
それでは、次の物語は、また明日の晩といたしましょう。




