王立銀行の書類
「リアーノ、あいつにはあまり近寄るな。ただでさえ、料理人の助手だったリアーノが王宮にいることを嗅ぎつけたんだ。あいつ、一体何者なんだ。」
レナード殿下が少しムッとしている。
「わたしはダナン宰相のお屋敷で少しお話しをしたぐらいですが、隣国の王都生まれでダナン宰相の護衛騎士だそうです。」
「…隣国か…。」
レナード殿下が腕を組みながら、なにかを思案している。
「…調べる必要がありそうだな。」
小さく、そう呟いた。
それからは何事もなく、ダーリア殿とライラさまと3人で、ダナン宰相が決裁した書類と睨めっこの毎日です。
もう何日、この作業をしているんだろう…
書類の山はだいぶ減ってきました。
「ライラ嬢、リアーノ嬢、これを見てもらえないかな?」
ダーリア殿がある書類の束を持って来られました。
「何か見つかりましたか?」
ライラ嬢がぱぁと明るい表情になる。
「王立銀行が王立印刷局に指示を出している文書とその関連の決裁なんだが…。」
ダーリア殿が数枚の紙を机に並べる。
「これは王立銀行が王立印刷局にお札5ヤーロの原版を作成するように指示している書類と決裁だ。そしてこれが、王立印刷局が原版を作成して、王立銀行に納めた納品書だ。」
もしや…
「これ… 原版の作成依頼の書類だけインクが若干ですが、他の書類と違いますよね。」
「さすが、リアーノ。王立系で使用されているものより、このインクは若干薄い。しかも、王立銀行の書類の通し番号がない。」
「「!!!」」
わたしとライラさまが思わず、顔を見合わせる。
「ということは、5ヤーロの原版の作成依頼書は偽物っていうことだ。」
後ろから声がして、ハッと見るとレナード殿下が立っておられた。
「レナード殿下!」
「すまない。頼み事をしようと思って執務室から出てきたら聞こえてしまったんだ。ダーリア殿、その書類をよく探し当てましたね。」
レナード殿下も一緒に机の書類に目を落とす。
「ダナン宰相がこの書類の決裁しているということは、これについてなにか知っているということですか?」
ライラ嬢がダーリア殿に訊ねる。
「その可能性が高いです。恐らく、印刷局から納品された原版は、王立銀行の誰かを通じて、ダナン宰相が手に入れていると推測されます。王立銀行の何者かが協力者のようですね。」
ダーリア殿が大きな身体でため息混じりに答えると迫力がある。
ちょうどそこにホーシャック室長がおやつだよ〜と、紙袋を手に外から戻って来られた。
「あれ、みんなどうしたの?レナード殿下まで…」
ホーシャック室長のその優しい雰囲気とタプンとしたお腹に雰囲気が和みます。
「ホーシャック室長、大変なことが見えてきましたよ。」
レナード殿下が少し微笑まれて応えられた。
それから、みんなでレナード殿下の執務室でお茶とお菓子を頂くことになった。
ライラさまとわたしでお茶を入れている間、レナード殿下達はなにかを話し合われたようでした。
「ライラ嬢、お願いがあります。」
レナード殿下が少し難しい顔をしてライラ嬢を見る。
「はい。なんでしょうか。」
ライラさまも緊張した面持ちになる。
「王立銀行にしばらく行ってくれないか?」
「いま、王立銀行ではちょうど、事務員を募集しているし、潜入するにはいいタイミングなんだ。ダナン宰相と通じているのが誰なのかをこちらとしては探りたい。」
ホーシャック室長が趣旨を説明をされる。
「わかりました。わたしで良ければ行かせていただきます。」
快諾されたライラさまをダーリア殿が凄く心配そうに見つめている。
「では、ライラ嬢よろしくお願いします。」
レナード殿下の眼鏡の奥の瞳がホッとしたようだった。
今日もありがとうございます。
ダーリア殿は身長が180センチぐらいで筋肉質のため、見た目にも体育会系ですが、内勤の事務仕事では机が窮屈だそうです。