梅雨明け前の夕暮れに 第22話
授業終了のチャイムが鳴ると、さゆりは蘭の席へ向かった。
「あの、蘭くん……」
「どうしたの、さゆりさん?」
「その……」
いつもと変わらない蘭の態度にさゆりは戸惑う。
……なんといったらいいのでしょう……。
さきほどの美夏とのやり取りで彼が傷ついているのではないか、と彼女はおもい、彼を元気づけるような言葉をかけようとしたのだが、なんといったらいいのかわからなかった。それに、なぜ、あのとき彼が謝ったのかききたかった。他にも悩みや苦しみ、哀しみなどを彼が抱えているのではないかと彼女はおもっているのだが、それらのことをきくのはなんとなくためらわれた。
「さゆりさん?」
言い淀む彼女に彼は再び尋ねた。
「い、いえ。たいしたことではないのですけれど、今日のお昼は、その、どうなさるかとおもいまして……」
「お昼? 今日はなにも持ってきてないから学食にしようとおもってるけど?」
「そ、そうですか……」
「?」
「あ、なんでもないんです! すみません。お気になさらないでください……」
面をふせる。
そんな彼女を彼は見つめ、
「……それじゃあ、また後でね」
しばしの沈黙を経てからいった。
……ぼくを気遣ってくれているのかな? 今日の東堂さんはいつもに増してきつかったからなあ……。
胸のうちで苦笑しながら席を立ち、彼女に背を向ける。
歩き出した彼は教室を出る前にふりかえり、
「あ、そうだ。後で勉強教えてよ。教科書とか持っていくからさ」
どこか哀しげに面をふせる彼女に、はにかんだ笑みをみせた。
「は、はい! お待ちしています!」
雲間から射し込む一条の光につつまれたような笑み。
その笑みに、痛みをおぼえながら、彼は軽く手を振って見せ教室を後にした。




