6-1
ダンスパーティーの翌日から、エミリアが口を利いてくれなくなった。
婚約解消したいと言われてからも、今までより素っ気ない態度ではあったものの、俺が迎えに行けば仕方なさそうにつき合ってくれたのに。
今は声をかけても氷のように冷たい視線を向けられた後、そっぽを向かれるだけだ。どうやら先日の件で相当怒らせてしまったらしい。
レスターの家に何かすると匂わせたことが悪かったのだろうか。冷静に考えると、自分でもつまらないことを言ったと思う。
しかし、言い訳をするのなら本気でそんなことを考えたわけではないのだ。
ただ、エミリアが俺といる時よりもずっと打ち解けた表情をレスターに見せるのが気に入らず、かっとなって馬鹿なことを口走ってしまっただけで。
「エミリアぁ……」
誰もいない教室の窓からエミリアの姿を見つめ、情けなく呟く。
教科書を持って友人たちと歩くエミリアは、俺がいなくても楽しそうだった。
***
そもそも、この前のダンスパーティーでミアと踊ってしまったことが拗れるきっかけだった。
ミアと踊る前のエミリアは、しかめ面ながらもそれほど機嫌が悪くは見えなかったのに。
俺だってエミリアに婚約を解消したいと言われ、反省していたのだ。今年のダンスパーティーではエミリアが不愉快に思うことは避けようと意気込んでいた。
ミアからダンスに誘われたときも断る気でいたのに、彼女に耳元で囁かれた言葉のせいで承諾せざるを得なくなった。
『クロード様、最近やけにエミリア様と仲がよろしいので妬けてしまいますわ。ついうっかり、以前エミリア様に内緒でクロード様と出かけたときのことを話してしまいそうです』
ミアの言葉を聞いた瞬間、さっと血の気が引いた。
ミアといるとエミリアが嫉妬してくれることに気をよくした俺は、これからもできるだけミアには親しげに声をかけてきて欲しいと思っていた。
ある日、ミアが遠く離れた街まで買い物に行くのに付き合って欲しいと言ってきた。
学園の授業で使う魔道具を探したいのだけれど、自分だけではぴったりの物を探せそうにないので、一学年上の俺に手伝って欲しいのだと言う。
これからもミアにはエミリアの嫉妬を煽るために協力してもらいたかったので、俺はそのくらいならと彼女の頼みを聞くことにした。




