破滅系ヒロインの結末
謹慎処分が明けてからは何事もなく一年生を終え胸をなでおろしていた。
いや、ジルの愛の攻撃は私のライフを激しく削っていく日々ではあったが…。
宣言通りジルはあの日以来、私に対して遠慮しなくなった。
激しいスキンシップに甘い言葉。
休みの日もデートに贈り物にとジル一色の日々を送っている。
流石のヘンリーもドン引きしていたが当の本人は何処吹く風。
これあと一年も続くの?
いや。最悪一生の可能性も…。
そんなことを考えながら上級生になる私は講堂に向かっていた。
「珍しく一人なのね」
話しかけてきたのは謹慎が明けてすっかり元通りになったイザベラだった。
明けた当初は他の令嬢達から色々変な噂を立てられていたが、イザベラの堂々とした立ち振る舞いにいつしかその噂も消えていた。
ちなみにイザベラに誤って毒を盛ってしまった令息は今も投獄されている。
一年間の投獄の刑にヘンリーは「生温い!!」と怒っていたが毒を買ったイザベラが三ヶ月の謹慎処分だけなのに惚れ薬を飲ませようとしただけで一年間も投獄され、挙句に出所した後も恐らく地獄しか待っていない令息には十分な罰だと思う。
しかも彼の癒しだったネズミも薬が切れると同時に無情にもさっさと令息から離れて脱獄してしまった。
そりゃあネズミだしどこからでも逃げられるよね。
令息は「僕を一人にしないでーーー!!」と泣き叫んでいたらしいが…お前ジルに「何とかしてくれ!」と泣きついていたじゃないか。
何とかなって良かったのでは?
「なんだ。ついに破局か?」
回想していると面白そうにヘンリーが割って入って来た。
「お生憎様。ジルに先に行っているように言われたの」
「そう言って他の令嬢と密会とか…」
ヘンリーが茶化そうとするとイザベラの肘鉄がヘンリーのみぞおちにクリーンヒットした。
「それなら先に一緒に講堂に行きましょう」
ヘンリーの言葉を鵜呑みにした訳ではないが…ちょっと心配になってきた…。
イザベラの誘いを断り、私は二人と別れジルを探すことにした。
講堂周辺から学園内を探し回り、学園の裏庭に差し掛かったところで話し声が聞こえて来た。
柱の陰からそっと窺うとそこにはジルと…ルブイン男爵が怒鳴っていた。
「こんな書類は無効です!あの子は血の繋がった私の娘なんですよ!」
縁切り書類の事を言っているのだろう。
二つ返事で娘を捨てたくせによく言うわ。
「その書類は正式な物です。現に今までサラにかかった学費や養育費以上の額をマイスナー公爵から男爵家に支払われたはずです」
義理父がそこまでしてくれていたとは知らなかった。
今度お礼をしたいからイザベラに相談しよう。
「それは娘がウォーロック公爵家の坊ちゃんと婚約するとは知らなかったからだ!」
やはり狙いはそれか…。
自分の父の浅ましさに溜息が出た。
「大方男爵令嬢など身分の低い者とは婚約出来ないと手を打ったのだろう。卑怯な奴等だ!」
「私はサラがたとえ平民だったとしても婚約していました。ですので今回の婚約とこの書類の件は無関係です」
ジルは怒鳴り散らすルブイン男爵に毅然とした態度で接した。
「ならばこの書類を無効にしても問題ないだろう。あの子はルブイン男爵家の娘だ」
「何の騒ぎですか?」
ルブイン男爵の我意な振る舞いに我慢できずに姿を出した。
「おおサラか。こいつが勝手にお前との親子の縁を切れと言ってきたのだ。私に大事な一人娘を手放せとは全くけしからん奴だ」
「あなたと親子の縁を切りたいと言ったのは…私です」
ルブイン男爵の小さな目が見開かれた。
「私は母を捨てたあなたを父と思った事は一度もない。むしろ義理父様に私の養育費等を支払わせてしまった事を申し訳なく思っているくらいです」
ルブイン男爵は屈辱から全身を震わせた。
「お前をこの学園に入学させてやったのは私なんだぞ!」
「私が何も知らないとでも?ルブイン男爵夫人と二人で私の婚約に俗念を抱いていらっしゃったのでしょ。婚約者が見つからなければ卒業後は平民に戻すつもりだった人に偉そうに言われたくありません」
「この小娘が!!」
ルブイン男爵は手を振りかざすもジルに防がれた。
「あなたはマイスナー公爵令嬢に手を上げようとした。これは厳罰に値しますよ」
「何がマイスナー公爵令嬢だ!ただの平民が!!」
「元です。元平民であり元ルブイン男爵令嬢であり、今はマイスナー公爵令嬢です」
ルブイン男爵は眉をひそめて不快感を露わにしていたが構わず続けた。
「そして将来はウォーロック公爵夫人になる者です。敬意を払いなさい」
ジルの目が見開かれた。
「何がウォーロック公爵夫人だ!お前のような小娘がなれる地位ではないわ!」
「ご心配なく。私が付いていますから」
ジルが私の肩を抱き寄せた。
「これ以上この件で揉めるようでしたら正式な場で判決してもらいましょう」
サイン入り書類がある上に私の為に使った費用も支払われている事から正式な場に出ればルブイン男爵に勝ち目はない。
膨大な費用を払い、挙句恥も晒す事になる。
最悪二大公爵を敵に回して貴族の地位を追われる可能性もある。
ルブイン男爵も察したのか押し黙った。
「これ以上私の婚約者を困らせるような事をされるのであれば…覚悟して下さい」
出た!ジル必殺、氷殺無表情!
生命力の強いGをも凍らす恐ろしい技だ。
ルブイン男爵の心臓が止まっていない事を祈るばかりだ。
講堂に向かって歩いているとジルが立ち止まった。
「さっきのサラ。格好良かったよ」
振り返ったジルは優しい笑みを浮かべていた。
「そうかな…」
「うん。特にウォーロック公爵夫人のくだりはもう一度聞きたいくらい」
うぐっ。
「あれは売り言葉に買い言葉と言いますか…」
「じゃあその気はないと?」
悲しそうな顔のジルに嘘は吐けない!
「悪い!?私だってジルと結婚したいんだから!」
次の瞬間、唇に柔らかいモノが触れて固まった。
「全然悪くないよ。むしろ嬉しい」
唇から少しだけ離れた位置でジルが囁いた。
「もう一度いい?」
私は返事の代わりに静かに目を閉じた。
この後、運悪く礼法の先生に見つかりこってり絞られる事になった。
講堂に到着すると私達以外の全生徒は既に着席していた。
「王太子を待たすとはいい度胸しているな」
イザベラの隣に座った私をヘンリーが睨んだ。
一年前は男爵令嬢だった私もマイスナー公爵家の養女になってからは公の場で座る時はイザベラの隣、つまり上流階級席となったのだ。
「礼法の先生に捕まっていたんだから仕方ないでしょ!」
捕まった理由については話せないが…。
ヘンリーに言い返すと教員席に座る礼法の先生が咳払いをしてきたため黙った。
「では今年の首席を発表します」
教員の声が講堂に響き渡った。
懐かしくなり一年生の首席の子を眺めた。
去年の今、私は破滅系ヒロインではないかと怯えていた。
それが今は…。
隣に座るジルを横目で見ると私の視線を感じたジルが微笑み返してくれた。
全てはここから始まった。
今年も頑張るぞ!
「では続いて上級生の首席を発表します」
まあ今年のテストもほぼ満点だったし首席の座は私で決定かな。
「ジルベール・エルンスト・ウォーロック公爵令息。前に出なさい」
んん??
「はい」
ジルが立ち上がった。
え?ジルって四番目の成績だったよね?
ほぼ満点の私より成績が良いとなると…満点だったって事?
「ジル!試験の結果って満点だったの!?」
式が終わると同時にジルに詰め寄った。
「まあそんなに難しい試験でもないからね」
「でも去年は四番目だったよね?」
するとジルは苦笑いを浮かべた。
「ヘンリーがイザベラに良いところを見せたいって意気込んでいたから…忖度した」
お前は政治家か!!
「なのに予想外の所で首席を取っちゃう人がいるから…」
「殿下が意気込んでいたなんて知らなかったし…それに私は忖度しない!」
「うん。だから今年は俺も普通に試験を受けた」
つまり去年の首席もジルだったって事!?
「それに多分イザベラも普通に受けていたら俺といい勝負だと思うよ」
それってつまり…ヘンリーがバ…止めておこう。
「つまりイザベラもヘンリーに忖度したと…」
「というより多分皆王太子よりもいい成績取るのが怖くて力抜いていると思うよ…」
そんな人間が将来の王とか…不安しかない。
「この国は大丈夫だろうか…」
「大丈夫だよ。側近がしっかりしていれば」
それ、完全にヘンリーを操る気でいますよね。
確かにヘンリーは純粋そうだから簡単に操れそうだが…それで本当にいいのだろうか。
まあジルならヘンリーを悪いようにはしないだろうけど。
しかしそんな私もヘンリーの心配をしている場合ではなかった。
教室に入り驚愕の事実に気付いた。
右には優しくも熱い視線。
左には苦々しい敵意の眼差し。
正面は問題児を監視するかのような冷やかな目。
えっと…これはどこを見ればいいのだろうか?
私の苦難はもう一年続きそうだ。
ブクマを励みに最終話まで書ききる事が出来ました。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。




