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私はヒロイン?

 私は蜂蜜色の髪にヘーゼルアイの至って普通の平民出身の平民育ちだ。

 2年前、母が病死した後、父だと名乗る男爵が私を迎えにきた。

 母が亡くなる前に父に手紙を送っていたらしい。

 それ以降男爵令嬢として迎え入れられ最低限のマナーを身に付けさせられた。


 そして16歳になると貴族達が通う学園に入学する事になった。

 この学園は実力別にクラス分けをするため入学前に試験が行われる。

 主に一般教養の試験なのだが正直簡単過ぎて拍子抜けだった。


 そしてこの試験の時に聞いた噂が公爵令嬢を取り巻く男達の話だった。

 今、この国で最も熱い恋愛話である。

 男達は幼少の頃から公爵令嬢に恋心を抱いていたが、その一人でもある王太子が公爵令嬢を婚約者にしたため他の者達は諦めたとか諦めていないとか…。

 この話を聞いた時は自分とは違う物語の世界のような感覚で聞いていた。

 そう、他人事だったのだ…入学式までは…。


 入学式会場は階級別に座る事になっており私は男爵令嬢ということで最後列に座っていた。

 周囲の令嬢や令息達は同級生となる王太子や噂の公爵令嬢を一目拝みたいと色めき立っていた。

 もちろん私も興味があったので入場してきた彼らを皆に紛れて眺めていた。

 入って来た人物達は美男美女揃いで輝いており目が潰れそうだった。

 目を細めながら通り過ぎるのを眺めていると公爵令嬢と目が合った。

 その瞬間の私の感想が『悪役令嬢みたい…』だった。ん?悪役令嬢って何だ?

 首を捻る私の肩を先生が叩いた。

 振り返ると苦々しい顔で「今年の首席はあなただから呼ばれたら壇上に上がりなさい」それだけ言って去って行った。

 ん?首席?………え?えぇーーーー!?

 私が首席ってだってあれ中学一年生レベルの問題だよ!?

 ん?中学って何だ?………ちょっと待って!?

 この記憶って…異世界転生ってやつじゃないですか!?


 という流れで前世の記憶を取り戻した私は頭を抱えた。

 このタイミングでの前世の記憶。

 そして平民出身のサラという名の平凡な名前の男爵令嬢が首席。

 そして悪役令嬢を巡る幼少期からの恋物語。

 この世界ってもしかして悪役令嬢が奮闘する物語の世界なんじゃないの!?

 となると…私は…モブ…の可能性も捨てがたい。むしろモブでありたい。

 一万歩譲って私がヒロインだとしよう…一人の女性を取り合っている男達を攻略していく…ないわ…。

 破滅系ヒロインは大抵、悪役令嬢に惚れている男を攻略しようとして破滅している。

 とにかく関わらなければいいわけだ。

 よし!今日から私は空気だ!

 徹底的に空気になりきる!

 今後の方針が決まると少し落ち着いた。


 それにしてもよりによって何で私なんだろう?

 普通、破滅系ヒロインって当て馬になるように傲慢で自信過剰なタイプが多いのだが…。

 まあ考えても仕方がないか。

 悪役令嬢(仮)が前世の記憶持ちなのかは気になるところだが、下手に関わって破滅しても困るしとにかくこの学園生活を無事に生き残る事だけを考えよう。



 学園生活が一ヶ月経った。

 最悪な事に首席の私のクラスは危険因子のオンパレードだ。

 しかも隣は王太子、悪役令嬢(仮)、そして取り巻き達が並んでいる。

 息苦しい事他ならない。

 廊下がある右ばかり向いているから首と肩も痛いし…。


 一ヶ月も経つとこの面子の人間関係などが薄っすらと見えてきた。

 悪役令嬢(仮)の名はイザベラ・アガーテ・マイスナー。

 王太子ヘンリー・フィリベルト・プロウライトの婚約者だ。

 パープルの綺麗な髪をしている。

 ヘンリーはワインレッドの髪だ。

 そして取り巻きの中でも要注意人物がヘンリーの従弟のジルベール・エルンスト・ウォーロック公爵令息だ。

 コバルトブルーの髪をしたジルベールは幼少期、イザベラに付きまとっていた令息を消したとか…人って消えるものなのか?

 ちなみに私が髪の色しか特徴を伝えられないのは察して欲しい。


 話をしているのを聞いている限りではヘンリーはイザベラを溺愛しており、ジルベールはそんな二人を見守っている感じだ。

 表情や仕草を見てないから全員がどういう感情を抱いているかまではわからないが…。

 今のところ私の思惑通りあちらさん達も私に関わってこようとはしていないためこのまま何事もなく卒業出来ればと願うばかりだ。



 放課後になり私はお気に入りの場所に向かうべく中庭を歩いていた。


「ちょっと」


 私の進路を塞ぐ令嬢’s。


「あなた元平民なんでしょ。首席なんて生意気なのよ」


 出たよ。イビリー’sどもめ。


「そう仰られましても学園が決められた事ですので…」


 笑顔を崩さず返答したのが気に入らないのかリーダー格の令嬢の後ろの取り巻き令嬢が私を突き飛ばした。

 バランスを崩し尻餅をついた。


「あなた男爵令嬢でしょ!礼儀がなっていないわよ!!この方は伯爵令嬢なのよ」


 はあ、そっすか…としか答えられない。

 別にあんた達に迷惑かけた覚えもないが…これ以上絡まれるのも面倒だ。

 私は立ち上がると私を突き飛ばした令嬢を突き飛ばした。

 初めこそ呆然としていた令嬢’sも状況を理解すると私を非難してきた。


「あなたご自分が何をされたかわかっているの!?お父様に言いつけて罰してもらうわよ!!」


 私はキョトンとした表情で首を傾げた。


「これが令嬢の挨拶の仕方ではないのですか?私はてっきりそうだと思って礼儀を尽くしたつもりでしたのに…」

「あなた…本気で言っているの…?」


 リーダー格の令嬢が信じられないものを見るような目で見た。


「だってまさか貴方方のような高貴なご令嬢達が元平民のしかも男爵令嬢の小娘を辱めるようなくだらない真似はなさらないでしょ?」


 笑顔で返すと令嬢達は顔を真っ赤にさせた。


「あれ?それとも本当に辱めようとしていたから『お父様に言いつける』と仰ったのでしょうか?その場合、元平民の男爵令嬢の小娘ごときにやられた事も報告しなければいけなくなりますが…」


 顎を少し上げて不敵に微笑むと今度は顔を真っ青にして立ち去って行った。


「おとといきやがれ」


 立ち去る令嬢達の後ろ姿にベーっと舌を出した。

 はあ、すっきりした。

 気を取り直してお気に入りの場所に向かったのだった。



 お気に入りの場所は学園の裏にあるのだが、高い塀を越えなければいけない。

 どうやって飛び越えるかって?木に登ってでしょう。

 制服のスカートを捲り上げて木によじ登ると木から塀に飛び移った。


 塀の上から見るお気に入りの場所は木々に囲まれた小さな平地のスペースがあり、近くには川が静かに流れている。

 この場所を見つけたのは一週間前だった。

 一人になれる場所を探して学園内や学園周辺を探索している時に見つけたのだ。

 校門を出て塀を伝って行けば辿り着くのだがかなり歩く必要があり、木から飛び移った方が断然近道であるためこのような方法で移動しているのだ。


 平地に飛び降りると早速素足になり大の字で寝転がった。

 心地よい風がそよそよと吹いており、川のせせらぎの音をBGMに私は眠ってしまった。



 少し肌寒く感じて目を覚ますと自分の物ではない制服の上着がかけられていた。

 制服は男物でありかけてくれたと思われる人物は既に近くにはいなかった。

 ただ一つ分かる事は…誰かに私の秘密の場所を知られてしまったということだ。

 正確には私のではないが…。

 とにかくこの制服の人物を探して上着を返さないと。

 私は上着を畳むと学園に戻ったが、この日上着を着ていない男子を見つける事は出来なかった。



 翌日、持ち主不明の制服の上着を持ってはきたが上着を着ていない男子はいなかった。

 そりゃそうだ。この学園に集まっているのは金持ちの貴族令息令嬢だ。

 上着のストックの一枚や二枚…いや即日で用意させる事もわけないだろう。

 とりあえずまた秘密の場所に来るかもしれない事を想定して放課後、上着を抱えて待ってみた。

 しかし待てど暮らせど人が来る気配が全くしない…。

 今日は諦めて帰ろうとした時、川の方から猫の鳴き声が聞こえてきた。

 川に向かうと子猫がどんぶらこっこ…じゃない!明らかに溺れてる!?

 私は直ぐに川に入り子猫を救出した。

 しかし岸に戻ろうと振り返ったところで足を滑らせ転んでしまったのだが、転んだ先がよりにもよって流れが速く深い場所だったのだ。

 流される!

 私は子猫だけでもと近くの岩の上に投げると子猫は無事着地。

 私はそのまま流されて…。


「何やってんだよ!!」


 誰かに脇を抱えられながら怒鳴られた。

 そのまま岸まで引っ張り上げられると水を飲んでしまった私はむせて咳き込んだ。


「あ…あの…ありがとうございます…」


 お礼を言いながら顔を上げるとそこにいたのは恐怖のジルベール・エルンスト・ウォーロック公爵令息だった。

 消される!!!!!

 寒気なのか恐怖なのかわからない震えが私を襲った。

 ジルベールは私が持ってきた持ち主不明の上着を投げて寄越した。


「これでも着てろ。風邪引くぞ」


 着てろって…私の上着ではないので…。

 ジルベールはいつまでも羽織ろうとしない私の前に立ち上着を分捕ると私にかけた。


「この上着私のではないので!」


 脱ごうとするとジルベールは上着のボタンを留めた。


「知ってるよ。それ俺のだから」


 震えが完全に止まった。

 昨日、ここに来たのはこの男なのか!?

 え?何で?もしかして監視されてる?


「お…お返しします!!………洗ってから…」


 私は留められたボタンを外し、上着を差し出すも上着から滴り落ちる水滴を見てそっと引き戻した。


「別にいいよ。それよりそのままじゃ風邪を引くから浴室に連れていってやるよ」


 これ以上関わりたくないし、何よりこの男と一緒にいるところを誰かに見られたりでもしたら…。

 身震い再び。


「大丈夫です!私、頑丈ですから!!お構いなく!!」


 ここは逃げるが勝ちだ!

 ジルベールに背を向けると脱兎の如く走り去ったのだった。


 



読んで頂きありがとうございます。

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