魔王は暇を持て余していた
アイズ・ダーククラウンは隠居魔王をやっていた。
正確にはそう言った肩書になっている、といったものだが。
「そもそも人間たちの国と魔族の間に和平が結ばれたから、勇者も魔王も“隠居”したんだよな。おかげで魔王を選抜するための中学校を卒業した俺は、魔王の称号をもらえたものの……“隠居”になって、こうやって普通の高校に通っているんだよな……」
そう呟きながら、早いうちに魔法薬を作ってしまい暇になった俺は、もう授業は終わったからいいよ、との事で校庭内を延々とランニングしていた。
今は体育の時間であるクラスがなかったので、暇を持て余した俺には丁度良かった。
「すでに図書室の本は読みつくしたからな。下手に魔法を使うと学校が破壊されかねないし、かといってここ周辺のダンジョンは大体制覇したし、することがない。友達作りを目指しても、今は授業中で暇はない。ここを走る以外に何かいい暇つぶしでもないものか……」
そう俺がつぶやきつつ10週ほど校庭を走り回った所で、地面に突如巨大な光の魔法陣が現れた。
あまりにも暇すぎてつい適当にステップを踏んでいたらそこに気づけば魔力が乗り、魔物を召喚する巨大魔法陣が出来上がってしまったらしい。
鈍い音がして、何かがそこから現れる。
それは黒い色をした巨大生物のようだった。
首が二つあるタイプの竜……それも言語を介しないが破壊力のある魔族にとっても危険な魔物だった。
その大きさは、この学校の校舎と同じくらいの大きさである。
適当に走っていたのが悪かったらしい、変なものを召喚してしまった。
やはり、何も考えずに何かをするのは良くないなと俺は思っているとそこで、竜が大きな声で空に向かって咆哮を上げる。
校舎の方から生徒たちの悲鳴が上がる。
一応はこういった魔物でも集団で戦えるよう教育しているはずだし、後者の方にも防御用の魔法がかかっているのでこの程度は問題ないはずなのだ。
だが、実戦経験がないとこんな風になるのかと俺は思いながら、何か魔法を使おうとしているその竜に対して、
「……呼び出した手前悪いが、死んでもらう」
そう呟き、その竜を俺は一撃で倒したのだった。
そんな竜を呼び出して、倒すという行為を行ってしまった俺は、現在まだ授業中ではあるが、この学園の校長室に呼ばれていた。
そこに白髪交じりの頭髪が印象的なこの校長だが、こう見えて俺と同じ“魔王”の称号を持つ。
そんな彼は“魔王”の称号とは裏腹に穏やかな雰囲気を醸し出しながら、
「やあ、アイズ君。今日は“暴れ竜”を呼び出して倒したのだとか」
「はい。気を抜いて適当に走っていたのがいけなかったようで、召喚されてしまいました。今度からそういった魔物が呼び出されないよう極力注意します。……学園のこれから友人になるであろう生徒たちを怖がらせてしまいますので」
「うむ……そうか……こう見えて“魔王”だからな。しかも歴代最強と名高いアイズ君には、ふむ……普通の学園生活は退屈か」
「そうですね。あそこの教育をご存じな校長であればすぐにお分かりになるかと」
「う~む、そうじゃな……」
黙ってしまった校長は、少し考えてからそこで、
「……実は暇を持て余していそうなアイズ君の楽しめるイベントがあるのだが、どうだろうか? ただ場合によっては戦闘関連で下手すると夏休みが幾分かつぶれてしまいそうだが」
そう校長が言い出して、俺は、すぐに反応する。
「夏休みがつぶれるくらいはかまいません。ぜひ、俺の楽しめるイベントというのを教えてください!」
「そんなに今が退屈かね?」
「いえ、これはこれで楽しいのですが、やることが見つからないと今日のように俺は無意識にあんな怪物を呼び出してしまうかもしれないのです」
「……それは困るな」
「はい。この程度で呼び出してしまうとは、まだ自分の能力を制御できず未熟だという事です。それを理解していますが……制御を覚えるには戦闘等をさらに積み重ねた方が効率よく覚えられるのでは、と考えているのです」
俺は本心を校長に伝える。
実践による能力の制御。
ここにいる生徒たちよりはよほど経験はあるが、俺はまだ自分の能力を持て余している。
それらの感覚をうまくつかみ制御したい、平和なこの時代では叶いにくいが、それでも俺には……歴代最強と言われる俺には必要なものだった。
ただ、もしかしたなら戦闘以外で俺のこの力を制御する方法もあるのかもしれないが、今の所有効な手段は思いつかない。
それは今の状況のままでは見つかりにくいものであるのかもしれない。
考え方の切り口を変えねばならないとも俺は考えている。
だから普段俺が自分でできないようなそのイベントという名の暇つぶしを、ぜひしたかったのだ。
そんな俺の熱意を感じ取ってくれたのだろう、校長は二回程頷いて、
「そのイベントは、実は隠居した勇者たちと合同でするものなのだ」
「勇者たちと、ですか?」
「友好のためというのもあるが、やはりどちらも何らかの形で自分の力に実力がある者たちぞろいなのだ。だから魔王と手合わせをしたいといっていたのだが……今空いているその年代の“魔王”はアイズ君くらいしかいなくてな」
「そうですか……」
どうやら同期の魔王は全員上手く日常生活に溶け込んでいるらしい。
俺だけがこんな風なようだ。
そう思うと俺は落ち込むのだがそこで、
「では、どんなイベントなのかを説明しようか」
「はい」
「今回勇者のいる人の国と行う合同イベント。そう、その名も“魔王クエスト”。勇者を一人づつ倒し、最終的に“勇者王”を倒すイベントだ」
そう校長は俺に言ったのだった。
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