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いのりのデート FINAL

「ここでちょっと待っててくれないか?」


 俺はいのりにそう告げ1人で雑貨店を物色する。一度は「一緒に連れてってよ」と、せがまれたが俺が真剣な顔で頼み込むとあっさり了承してくれた。まあ、さっさと買い物を済ませるという条件付きだったが。



「うーん」


 俺はある品物のまえで絶賛悩み中である。


「こっちの方がいいかな? いや、でも合わなくね? じゃあ、やっぱこれかな?」


 1人でブツブツ言いながら吟味していると、見かねた女性の若い店員さんが話しかけてきた。


「何かお探しですか?」


「あ、いや、はい……実はこれに合うネックレスのチェーンを探してるんですけど……」


 俺はプラネタリウムで貰ったブローチを見せながら説明した。


「なるほど……そういうことですか」


「はい、なかなか決められなくて……」


 店員さんは手を口元に当て少しの間考え込んだ。


「じゃあ、これなんかどうですか?」


 そう言いながら差し出してきたのは、シンプルな銀のネックレスだった。確かにブローチのイメージにも合うし無難で良さそうだ。


「でも、お金が——」


 なんとこの店員は俺のお財布事情は考慮しなかったらしく5000円の商品を提示してきたのだ。5000円を高いと見るか安いと見るかは人それぞれだろうが、ごく一般的な高校生の俺にとっては即払えるような額ではない。


「じゃあ、半額の2500円でどうです?」


「か、買います!」


 即決だった。2500円なら普段の昼食を我慢すればなんとかなりそうだったからだ。

 これから暫くは『1ヶ月昼食オニギリ1個生活』って感じだろう。もちろん、賞味期限ギリギリの半額のオニギリ。



 とまあ、おかげでネックレスのチェーンを買うことが出来た。早速、ブローチとつなぎ合わせる。カチッという音とともにこの世に1つしかないであろうネックレスが完成した。



「ご、ごめん、ちょっと遅くなった」


 俺は店から出ると即行で謝った。


「もぉ、こんな美少女をよくもこんなに待たせられるわね」


「面目ないです」


「誘拐されちゃったら、空くん恨んじゃうからね」


 いのりに釘を打たれたところで本題に入る。


「実は渡したいものがあるんだ」


 いのりの表情がさっきまでの弛みきった笑顔から引き締まった真剣な顔に変わった。


「これ」


 俺はおもむろにネックレスを取りだした。


「それは?」


「プラネタリウムで貰ったブローチとさっきお店で買ったチェーンで作ったんだ」


「あ、プラネタリウムで貰ったのってそれだったんだ! なるほどね、そういうことだったんだね」


「ま、まあな」


 全て説明せずとも察してくれたようで助かった。


「それ空くんに付けて欲しいな」


「ああ、もちろん。ちょっと髪の毛上げてもらっていいか?」


 俺はチェーンを外しいのりの首に手をまわした。つい1時間前ほどにキスしたばかりだが、いのりの顔が近くにあるとどうしても緊張してしまう。チェーンを繋ごうと首の後ろを覗き込んだ時、いのりのうなじが視界に入った。普段は髪の毛で隠れてしまっていて気づかなかったが、そこは美しい曲線を描き妖艶さを放っていた。

 カチッという音でチェーンがうまく噛み合ったことを認識する。


「よし、出来たよ」


「ありがと、空くん。可愛いね、このブローチ」


「あぁ、本当に……良かった……あと、とっても似合ってるよ」


 ブローチを手に取りキラキラした笑顔で眺めているいのりは一種の芸術作品のようだった。


「ふふっ、それはお世辞? それとも本心?」


「もちろん本心だよ」


「じゃあ、お礼っていう感じになっちゃうのかな? 私からもプレゼント……って言ったら大げさだけど、渡したいものがあるの」


 俺がキョトンとした顔でいのりを見ていると、カバンから紙袋を取り出し手渡してきた。


「こ、これは?」


「開けてみて」


 袋を開け中の物を掴む。手触りは布? 毛糸? おそらくその類であることは間違いない。恐る恐る取り出してみると、それは。


「ま、マフラー⁈」


「へへっ、実は昨日の早朝からずっと作ってたんだ〜」


「あー、置き手紙して早く帰ったのってそれが理由?」


「そうだよ!」


「そっか……わざわざありがとな、大切にするよ。でも、まだ使えないよな、今まだそんなに寒くないし……夏の終わりかけだって言ってもマフラーはまだ……」


「あはは〜確かに私も作り終わったあと思ったけど、まあ作っちゃったしいっかなって」


「そ、そうだな、早いに越したことはないもんな……ははは」


 お互いに笑い合い一気に緊張が解けた。

 だが、こんな楽しい時間もそう長くは続かない。


「でもこれで、今日予定は全部終わっちゃったね」


「そうだな」


「なんか寂しいね……」


「そんな悲しい顔するなよ、明日だってあるじゃないか。一生の別れってわけじゃないんだし——」


「ううん、もちろん空くんと別れるのも寂しいんだけど……今日のこの楽しい時間が過ぎ去っちゃうことが寂しいの……」


「確かに時間は必ず過ぎ去るものだが、思い出はそうじゃないだろ? 明日になったからって消えるわけじゃない。明日だって明後日だって10年後だって覚えてるはずだ。それに……忘れそうになったらまた2人で話せばいいさ。あの時はこうだった、あんなことや こんなことがあったってな。それもまた楽しそうじゃないか」


「……そうだね、きっと楽しいよ。おじいちゃんになってもボケないで覚えててよね。私はちゃんと日記に書いとくから」


「ははっ、流石におじいちゃんになったら大変かもな。でも、いのりが話してくれればきっと思い出せるよ」


「思い出せなかったら殴っちゃうからね」


「年寄りは(いたわ)ってくれよ?」


「空くんがボケなきゃいいんですぅー」


 再び2人の間で笑いが起こった。本当にこの時間が終わるのは惜しい。だがやはり時は非情だ。


「いのり……すまないけど、そろそろ帰らないと唯を心配させっちまうから……」


「うん、そうだね。私ばっかり空くんを独り占めなんて許してくれないだろうしね」


「悪いな」


「帰ろっか、私たちの街に」



 そうして、来た時と同じように電車に揺られ帰路に着いた。帰る時間は行く時間より短く感じた。あっという間に玄関前に着き、いのりに別れの挨拶を告げる。


「今日はありがとう。なんだかんだ言ってすごく楽しかったよ」


「私の方こそ、凄く楽しませてもらったよ」


「じゃあ、な。また明日」


「うん、バイバイ。空くん」


 こうして正真正銘、俺の——俺たちのデートは幕を閉じた。総括すると長くもあり短くもあった2日間であった。しかし疲れは全くなかった。唯一あるのは高揚感と少しばかりの寂寥感だけであった。

お読みいただきありがとうございます。

これからも引き続きどうぞよろしくお願いします。次回は転校生が来るかもしれないし、来ないかもしれないです 笑


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