【番外編】 とあるお昼休みの雑談
私の名前は結崎 唯 既にご存知かもしれませんが結崎 空の妹です。現在、彼氏はいません。でも、好きな人はいます。そう、私はお兄ちゃんが大好きです。ですが、世の中は私に厳しく、なかなか思うようにはいかないのです……。特にいのりさん——蓮水 いのり あの人は強敵です。いっつもお兄ちゃんとくっついて羨まし——けしからんです‼︎
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午後12:45分〜昼休み〜
私は4時間目が終わるとすぐに教室を飛び出た。
本当ならお兄ちゃんと一緒にお昼ご飯を食べたいところだけど、今はそれよりも優先しなくてはいけない用事がある。
私はお兄ちゃんの教室の前まで来ると足音を消しそっと教室を覗き込んだ。
「お兄ちゃんは……居ないか……まあ、今日はその方が都合がいいんだけどね」
お兄ちゃんが居ないことはわかったので次は肝心のいのりさんを探す。
「いのりさんは……居た!」
どうやら今日は教室で1人でご飯を食べるみたいだ。ということはお兄ちゃんは男友達と食堂にでも行ったのだろう。
「いのりさん、ちょっといいですか?」
遠慮がちにいのりさんを呼ぶ。返事はすぐに返ってきた。
「あ、唯ちゃん? どうしたの?」
「話……が、あるんですけど……」
「うん、わかったすぐ行く」
いのりさんはそう言うとさっさと弁当をまとめ教室の外まで出てきた。
「屋上で話しませんか?」
「いいよ、行こっ」
屋上に出ると爽やかな風が私たちを出迎えた。今日はここ数日間で最も良い天気だ。暖かな日差しを浴びただけで自然と心が落ち着く。お兄ちゃんと来られなかったのがまったく残念でしかたない。
私が感慨にふけっているといのりさんがいきなり本題に切り込んで来る。
「それで、今日はどういう話なのかな」
私はいのりさんにベンチに座るように促し話し始めた。
「実は、お兄ちゃんのことで……」
「あー、空くん? どうかしたの?」
「えーっとですね……ズバリ言うと、いのりさんはお兄ちゃんのことはどのくらい好きなんですか?」
「凄い唐突だね……」
「す、すいません、でもどうしても今、訊きいておきたかったので」
「そうだねぇ……空くんね……もちろん幼馴染だし他の男の子とは比べられないくらい特別な存在だからね……どのくらい好きかって言われると表現に困るけど、まあ1つ確実に言えるのは唯ちゃんには負けないくらい好きってことかな」
「そうですか……」
つい暗いトーンでリアクションしてしまった。
——マズイ。変な緊張感でのどか乾く。私はおもむろに水筒を手に取りお茶を飲んだ。
「じゃあ、逆に唯ちゃんはどう?」
「ゲホッゲホッ」
いのりさんの逆質問に驚き思わず飲んでいたお茶が気管に入りむせてしまった。
驚いたのは予想してなかったからではなく寧ろ予想していたことが起きてしまったからだ。だがやはり動揺を抑えられず少し返答が遅れてしまった。
「も、もちろん好きですよ」
「それはどのくらい?」
「そうですね……とりあえずいのりさんには負けないくらい好きですね」
いのりさんは目を見開き一瞬驚いたような表情を見せたが、わかったような顔をすると
「ふ〜ん、空くんも罪な男の子だね」
と天を仰ぎながら言った。
「はい、本当に……どうしてくれるんですかね」
いのりさんの返事はなく、しばらくの間静寂が続いた。今後の展開を想像しているのだろうか、ずっと空の一点を見つめている。
いのりさんとはその後は特に目立った会話もなく、お互い淡々と昼食を食べ終えた。休憩が終わるまでまだしばらくは時間に余裕がある。
特に何をするでもなくボーッとしているいのりさんにふと気になったことを尋ねてみることにした。
「あ、あの……いのりさん、ちょっと気になったことがあるんですけど……いいですか?」
もしかしたら返事が返ってこないのではと心配だったが意識はしっかり保っていたようで返事はすぐに返ってきた。
「ん? なにかな?」
「いのりさんってお兄ちゃんと中学校一緒でしたよね?」
「うん、そうだけど?」
「その時はお兄ちゃんと付き合ったりしようって思わなかったんですか?」
「うーん、あんまりそういうのは考えてなかったな……というより考える余裕が無かったって言った方が正しいかな……なんせ部活がハードだったからね」
「そういえば、何部だったんですか?」
「テニス部だよ」
「えっ、本当ですか? 私もテニス部だったんですよ!」
ひょんな事からいのりさんとの思わぬ共通点を発見してしまった。と、そこでまた新たな疑問が浮かんだ。
「そういえば、お兄ちゃんは何部だったんですか?」
家でお兄ちゃんは学校のことをあまり話してくれないので、未だに何部に入っていたのかすら知らないでいた。
「たしか……」
いのりさんは記憶を辿るように右斜め上の空を眺める。
「たしか、バスケ部だったと思うよ」
「バスケ部か……」
もしお兄ちゃんもテニス部だったら一緒にテニスをして遊べるなぁと半ば期待していたがその願いは儚く散った。バスケットボールは授業でしかやった事がないためお兄ちゃんの相手にはなれないだろう。運動神経の良いいのりさんなら話は別だと思うが。
「今もしかして、テニス部だったら良かったのにって思った?」
心の中を読まれているような気がして少し身震いした。
「思い……ました」
「やっぱりね、実は私も中学生の時に同じように思ったんだ。もし空くんがテニス部だったら私たちの人生はどういう人生になってたんだろうなって……もしかして付き合ってたりしたのかなって。一緒に練習したり試合したり、日常生活じゃ経験できないようなことも出来たのかなって色々考えてたよ」
どうやらさっきのエスパーじみたことは自己体験からの推測だったようだ。
「そうなんですね……」
「もしもの世界があるんだったら、見てみたいなぁ」
「確かに、もしもの世界があるとしたら興味はありますけど、ちょっと怖いですね」
「死んでたりしたら大変だもんね」
「シャレになりませんよ本当に」
とここで昼休憩の終わりを迎える予鈴が鳴った。
「そろそろ、教室に戻らないとだね」
「ですね」
そう言い、私たちは昼休みを共に過ごしたベンチに惜しみながら別れを告げ立ち上がった。
「もう、要件は残ってない? すぐ答えられることなら今答えるけど」
「あ、はい、大丈夫です、元々訊きたかったのは最初のだけでしたので」
「そっか、じゃあ、またなんかあったらいつでも言ってね。もしかしたら、私から訊きに行くかもしれないけど」
それだけ言い残し私に手を振りながら教室に戻っていった。
お兄ちゃんが居る時は最悪な敵だけどそれ以外の時のいのりさんは昔と変わらずやっぱり優しかった。いずれお兄ちゃんもあの魅力に惹かれ虜になってしまうのではないかと考えると恐怖心と対抗心で胸がいっぱいになった。
覚悟を決め教室へ戻る一歩を踏み出したのと昼休憩の終わったことを知らせるチャイムが鳴ったのは同時であった。




