第1話 女神様との常識外れの邂逅
「お姉ちゃん、ほら、言ってみて!」
「む、無理です!」
ある自宅での出来事…、その安らぎの空間で俺、広瀬隆はとんでもない危機を迎えていた。
「流石にキモ過ぎですよ!」
「そんな事は無いよ!ほら、1、2、3…はい!」
優しい顔でがん詰めているのは、同じ高校の先輩である風街渚である。
「風街…、姉さん…。」
「違うでしょ!兄妹になったんだから、ちゃんと名前で呼びなさい!」
彼女は俺の通う高校では、全校生徒が憧れる人物である。
品行方正、成績優秀、美人でスタイルの良く誰にでも分け隔て無く優しい二年生。
付いた渾名が女神様。なんとまぁ、相応しい。
学校内外には男女関係無く、沢山のファンが溢れている。
高校に入って早数ヶ月、ご多分に漏れず、俺もその中の一人となった。
「…渚、姉さん。」
「そうそう!やればできるじゃない!」
きっかけは何だっただろう…。確か、委員会で一緒になった時に、声を掛けられた…とかそんなだったような気がする。
チョロ過ぎだと自分でも思う。でも、あの時のあの笑顔を見せられたら、誰でも同じ気持ちになるだろう。
「…もう良いですよね!俺、学校に行きますから!」
その時は、こんな関係になるなんて夢にも思わなかった。いや!思える筈が無い!
「ちょっと待ちなさい!私も一緒に行くから!」
「何でですか!? 恥ずかしいから辞めて下さい!」
「当たり前でしよ?お姉ちゃんなんだから。」
意味の分からない事を言いながら、準備をしているなぎ…、風街先輩を背にドアを開いた。
「行ってきます!!」
それだけ言うと、急いで玄関から飛び出した。
「あっ!ちょっと〜。…もう…。」
「は、は、は…、ここまで来ればもう大丈夫か…。」
自宅から少し離れた公園に俺は逃げる様に身を潜めた。
「ここなら…バレる事もあるまい…。取り敢えず、裏の方から学校へ向かうとするか。」
渋々、遠回りの通学路に歩みを進める。
「まさか、憧れの先輩とひとつ屋根の下で生活する事になるなんてな…。」
そもそもの出来事は二日前に遡る。
金曜日の夜、突然父親からある事を言われのだ。
「隆、ちょっといいかな?」
「何だい、父さん。」
俺の家は父子家庭で、早くに病気で母親を亡くしていた。
「明日、会って欲しい人がいるんだ。」
「明日? 良いけど…随分急だね。」
「まぁ、善は急げと言うからな。家に呼ぼうと思っているんだ。」
正直に話すと、俺は会って欲しい人の検討はついていた。
最近、妙に父さんの顔が明るい。恐らくだが、良い人でも出来たのだろう。
母さんが死んで、もう十年になる。父さんがその気なら応援してあげたいと思っていたところだ。
「了解。予定空けておくよ。」
身に起こる出来事など、考えもせずにふたつ返事で了承した。
「お邪魔します。」
当日になり、件の人物が家に招き入れられた。父さんの話では、相手の家族には俺の一つ歳上の娘さんがいるらしい。
話が上手く進めばこの人と、つまりは歳の近い女性と暮らす事になる。
(き、緊張してきたな〜。)
俺は早る気持ちを抑えつけながらも、ドキドキしていたのだ。
(いったいどんな娘なんだろ〜、何か起こったりして…、いや、家族になるんだ…。でも…く〜、思春期には辛すぎるぜ。)
「貴美子さん、今日は急にすみません。」
「いえいえ。これ、つまらない物ではありますが…、貴方が隆くんね。」
「は、はい。この度はお日柄も良く〜。」
「まぁ、可愛い。私にも貴方と同じくらいの娘がいてね。ほら、入って来なさい。」
そう言うと、玄関のドアに隠れている女の子を連れ出した。
「は、始めまして、風街渚です。」
瞬間、意識が飛ぶ。いや、思考が止まると言った方が正しいかもしれない。とにかく、それ程の衝撃だったのだ。
「か、風街先輩!どうして…!」
どうしてもこうしてもない。この場にこの人がいるという事はもうひとつしかないのだから…。
「あ、貴方は…、確か、委員会で一緒だった…。広瀬くんだよね?」
「は、はい!広瀬隆でございます!」
先輩…、俺の名前を憶えてくれてたんだ…。いや、今はそんな事を喜んでいる場合では無いだろ!
「何だ隆、知り合いだったのか…、同じ学校に通っているとは存じていたが…、まさか面識ごあるなんてな。」
(その話を早く言ってくれよ!聞いて無いぞ!)
「あらあら…、だったら仲良くなるのに時間は掛からないかしら。」
貴美子さんは呑気にそんな事を言っているが、確かに先輩とお近づきになれるなんて願ってたり叶ったりだ。
だが、問題はそこではない。詰まるところ、先輩が姉さんに…そもそもひとつ屋根の下に…。
(駄目だ…。興奮し過ぎて頭が回らない。)
「ちょっと聞いて無いよ!お母さん!」
風街先輩は文句があるのか、なにかを貴美子さんに訴えようとしている。
(えっ、もしかしてこんな奴が弟とか気持ち
悪いとか…?)
「私、楽しみにしてたんだから…!どんな人が弟になるのかって…。そしたら…、」
続く言葉は俺の予想を斜め上を軽々しく飛んでいった。
「まさか私の希望がドンピシャに叶うなんて思わなかった!こんなに嬉しい事は無いよ!」
「希望が叶う?」
頭には?マークが陳列する。
「どういう事ですか?」
恐る恐る尋ねる。
「それはね…、常々より君を弟にしたかったんだよ!」
キラキラ輝く瞳で彼女はそう答えた。
そう、これが先輩お姉さんと後輩弟とのぶっ飛んだ出会いの話になったのだ。
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