便利屋という職業
俺の名前は鈴木平、普通の高校二年生だ。
テストは全教科平均点、運動は良くも悪くもない。楽器も、絵も、料理も、裁縫も、なんでもこなすこ とができた。でも、突き抜けてできることは何もない。
比喩でも謙遜でもなく、本当に普通。
得意なことが一つあれば活躍できる世の中で、得意なことのない俺に活躍の機会は訪れない。それが、 俺という人間の人生だった。
そんな俺の人生は、前方不注意のトラックに轢かれて幕を閉じた。
……と思っていた。
目が覚めると、そこには不思議な空間が広がっていた。終わりの見えない、真っ白な空間。状況を飲み込めずにいる俺の前に、神々しい女性が現れる。
「寿命よりも早く人生を終えてしまった悲しき魂よ。あなたには異世界に転生してもらい、魔王を倒してもらいます」
……え?
喋ろうとしたが、なぜか声が出なかった。
待ってくれ、話についていけない。異世界ってどこだ。魔王ってなんだ。
だが、俺の戸惑いなど知ったことではないとばかりに、女性は続けた。
「魔王を倒した暁には、豪華な褒美を授けましょう。では、あなたの旅路に祝福あれ」
その声を合図に、俺はまばゆい光に包まれた。
気づけば、見知らぬ街の中に立っていた。
……どうやら、本当に異世界に転生したらしい。
今まで生きてきた世界とは違った世界。石畳の道、見たことのない生き物、見渡せば剣を腰に下げた人 や、頭に獣の耳を生やした人がいる。ゲームで見てきた「異世界」が本当に目の前にある。
……正直、少しだけ心が躍った。
平凡だった俺の人生が、今ここで変わるかもしれない。
すごい力に目覚めるとか、勇者パーティにスカウトされるとか。
そんな柄にもない期待が胸の奥で膨らむのが分かった。
俺も人並みにゲームをやっていた。こういうときは旅人になりきって、人に色々尋ねたほうがいいだろう。
「すいません。遠方から旅をしてきた者なんですけど、この辺りで冒険者登録ができる場所はあります か?」
「冒険者登録なら冒険者ギルドでできるぞ。そこを曲がってまっすぐだ」
「そうですか。ありがとうございます」
教えられた通りに歩くと、すぐに冒険者ギルドへたどり着いた。
「いらっしゃい! 仕事なら右、宿なら左だよ」
「こんにちは。冒険者登録をしたいのですが……」
「それなら右奥のカウンターに進んでください」
言われるがままカウンターに進む。心臓が、だんだん高鳴っていった。
「こんにちは。冒険者登録ですね。お名前を教えてください」
「鈴木平です」
「スズキタイラさんですね。それでは、こちらの石板に触れてください」
石板に触れると、そこに文字が浮かび上がってくる。
「この石板に触れると、その人のステータスが分かるんですよ。あなたのステータスは……」
石板を見ていたお姉さんの表情が、ふっと固まった。
その一瞬の間が、やけに長く感じられた。
「ええっと、どうしましたか? そんなに俺のステータス、ひどいですか?」
「いえ、悪くはないのですが……。その、全部平均値なんですよ」
「全部……平均値?」
「どんな人でも向き不向きがあり、それに適した職業に就きます。ただ、あなたにはそれがない。正直、私もどうすればいいか分からないんです」
何をやっても人並み。分かっていたつもりだったのに、数値として突きつけられると、思っていた以上に堪えた。せっかく異世界に来たのに、俺は俺のままらしい。
「それじゃあ、俺に適した職業はないんですか?」
「いえ。一応、あるにはあるのですが……」
「それって、どんな職業なんですか?」
「便利屋という職業です」
便利屋。
料理、鍛冶、商売……戦わないことに特化しており、攻撃スキル以外のすべてのスキルを使うことができる。まさに「便利」を絵に描いたような職業らしい。
「確かにすごそうですけど……それ、戦闘の役に立つんですか?」
「一応、おまけとしてパーティメンバーのスキルを使うことができるんですよ」
「それ、おまけにしては強力じゃないですか?」
少しだけ、期待をしてしまった自分がいた。
「ですが、使うスキルは便利屋本人のステータスで発動します。なので、大抵の場合は本来の使い手の劣化になってしまうんですよ」
なるほど、と俺は乾いた笑いをこぼした。
誰かの魔法を借りても、自分の魔力が並なら並の魔法にしかならない。誰かの剣技を借りても、自分の 力が並なら並の剣技にしかならない。
結局、冒険とは無縁の場所で働く人間のための職業に過ぎない、ということだ。
……詰んだ。
異世界転生で覚醒して無双。そんな都合のいい話は、漫画の中でしか起きないらしい。
俺は今日一番の大きなため息をついて、初回無料サービスを使い、宿屋で眠ることにした。
布団に潜り込みながら、天井を見上げる。
向こうの世界でも、こっちの世界でも、俺に与えられる役回りはいつも同じらしい。
……このときの俺は、まだ知らない。
こんな俺が、いや、こんな俺だからこそとんでもない仲間たちと出会うことになることを。




