# 第23話 白炎、昇華す
紫電を纏った一閃が、煉の身体を貫いた。
いや――貫いたのではない。
その刃は、煉の肉体には一切触れることなく、彼の内側で絡み合う洗脳の核と黒炎の呪詛だけを、正確に断ち切っていた。
「が……あぁ……!」
煉の全身を包んでいた禍々しい黒炎が、まるで嘘のように消えていく。黒鋼爪から立ち上っていた漆黒の気配が、静かに鎮まっていった。
煉の身体が、力なく崩れ落ちる。
「煉くん!」
葵は、刀を鞘に収めることも忘れて駆け寄った。
「……あ、お、い……?」
濁っていた瞳に、確かな光が戻っていた。
「煉くん……!」
「俺、は……」
煉は、震える手で自分の身体を見下ろした。機械化された右半身、そして消え去った黒炎の名残。
「俺、何を……お前に、酷いことしなかったか……?」
「ううん。大丈夫。もう、終わったから」
葵は、涙を堪えながら微笑んだ。
「それより……ヴォルケナーの、言ったこと……本当、なのか」
煉の声が、深い悲しみに沈んだ。
「俺の家族を殺したのが、あいつらだって……」
「うん……本当だよ」
「そう、か……」
煉は、拳を強く握りしめた。悲しみと怒りが、その表情に複雑に交錯する。
「でも」
葵は、静かに煉の手を取った。
「あなたは、もう一人じゃない。私たちが、ずっと隣にいるから」
煉の瞳から、堪えきれない涙が溢れ出した。
「葵……ありがとう……本当に、ありがとう……」
その時、煉の右半身――黒鋼爪だった手甲が、微かな光を帯び始めた。
「……なんだ、これ」
煉が驚いたように自分の手を見つめる。
黒く沈んでいた金属の意匠が、まるで浄化されるように白銀の輝きへと変わっていく。葵の紫電の残滓と、煉の中に残っていた炎の力が、静かに触れ合い、調和していた。
「これは……」
葵も、その変化を息を呑んで見守った。
黒炎でも、赤耀でもない。全く新しい、清らかで力強い白の炎が、手甲を包み込んでいく。それは、後に『赫耀』と呼ばれることになる、真の相棒の証だった。
「――白炎」
誰かが呟いたその言葉が、まるで新しい名前を与えるように、煉の手甲に宿った力を定義した。
「これが、俺の……新しい力……」
煉は、白く輝く拳を握りしめ、その感触を確かめるように、ゆっくりと開いた。
「葵の紫電と、俺のこの力……なんか、通じ合ってる感じがする」
「うん。……私も、そう思う」
葵は、微笑んだ。
「これからは、本当の意味で、一緒に戦えるね」
「ああ」
煉が、久しぶりに、あの豪快な笑みを見せた。
「今度こそ、お前の隣で戦わせてくれ」
紫電と白炎。かつて離ればなれになった二人が、真の相棒として、再びその隣に並び立った瞬間だった。
感動の再会も束の間、壁面のモニターに、再びヴォルケナーの姿が映し出された。
「実に、興味深い」
その声には、驚きと、どこか歪んだ好奇心が滲んでいた。
「洗脳を解いた上に、黒炎を浄化し、新たな力へと昇華させるとは。……雷帝殿、あなたの紫電は、私の研究以上の価値があるのかもしれないな」
「ヴォルケナー……!」
「だが、まだ終わりではない」
ヴォルケナーが、不敵に笑った。
次の瞬間、要塞全体が、地鳴りのような振動とともに、不気味な光を放ち始めた。
「なに……!?」
「この鋼鉄要塞こそ、私の最終計画の完成形。……私自身が、その核となる」
「まさか……!」
葵と煉は、顔を見合わせた。
「これで、終わりじゃない」
葵は、雷切・建御雷を強く握り直した。
要塞全体を揺るがす不穏な気配の中、最後の、そして最大の戦いの幕が、今まさに切って落とされようとしていた。




