# 第16話 消えた相棒の影
ヴォルケナーの銘板を発見してから、数日が過ぎていた。
蒼真は中央戦線の陣営で、鹵獲した帝国の資料と昼夜問わず向き合い続けていた。
「葵、来てくれ」
呼び出された葵が天幕に入ると、蒼真の目の下には濃い隈ができていた。
「何か、わかったの?」
「……ああ。見てほしいものがある」
蒼真が差し出した資料には、無機質な文字で実験記録らしきものが綴られていた。
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「これを見てくれ」
蒼真が、資料のある一頁を指した。
「日付を見ろ。……煉の故郷が襲撃された日と、完全に一致してる」
葵は息を呑んだ。
資料には、こう記されていた。
『被験体確保に成功。絶望による魔力変質――通称「黒炎化」の発現を確認。以後、経過観察を継続する』
「被験体……」
葵の声が震えた。
「まさか、煉くんの、こと……」
「断定はできない。だが、状況から見て、可能性は高いと思う」
蒼真は、次のページをめくった。
「そして、これだ」
『黒炎化に成功した被験体は、より実戦的な戦力とするため、機械化処置を施し再利用する方針』
その一文を読んだ瞬間、葵の中で、絶望と微かな希望が同時に爆ぜた。
「煉くんが……生きてる? 生きて、帝国に……」
声が、震えていた。
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その場に居合わせた結衣が、葵の肩にそっと手を置いた。
「葵ちゃん……」
「わからない……嬉しいのか、怖いのか、自分でもわからない」
葵は両手で顔を覆った。
「もし本当に生きてるなら……でも、改造されて、機械にされて……そんなの……」
「葵」
律が、静かに声をかけた。
「先輩がどれだけ煉さんのことを想っていたか、僕はずっと見てきました。どんな姿になっていても、先輩なら――」
「必ず取り戻す」
魁が、大剣を担いだまま、低く力強い声で言った。
「俺も、お前に救われた身だ。今度は俺たちが、煉を救う番だろう」
その言葉に、葵は顔を上げた。
仲間たちの、揺るぎない眼差し。
「……うん。そうだよね」
葵は、涙を拭って立ち上がった。
「私、諦めない。ずっとそう誓ってきた。……今度こそ、ちゃんと迎えに行く」
「僕も引き続き、情報を集め続ける」
蒼真が頷いた。
「感情に流されず、確実な情報を積み上げよう。それが、一番の近道だ」
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資料を最後まで読み進めていた蒼真が、ふと手を止めた。
「……待て。これは」
「どうしたの?」
「実験施設の座標らしきものが、記載されてる」
蒼真が指し示した箇所には、ヴァルハイト帝国領内の奥深く、ある座標と施設名が記されていた。
「『第七研究施設』……ここに、まだ何かが……いや、恐らく」
蒼真が、葵の方を見た。
「煉が、まだそこにいる可能性がある」
葵は、その座標を食い入るように見つめた。
「そこに、煉くんが……」
戦争の最中、遠く敵地の奥深くにある一つの施設。そこに、失われたはずの相棒がいるかもしれない。
その事実が、葵の中に、新たな戦いへの覚悟を静かに灯していった。




