# 第11話 雷帝戴冠
九重鳴依、雷門魁という二人の実力者を得た葵は、正式に瑞穂皇国から「雷帝挑戦権」を授かった。
皇国建国以来、最高峰の栄誉とされる称号――『雷帝』。その座に挑む者は、歴代でも数えるほどしかいない。
「葵、緊張してるか?」
控えの間で、魁が静かに声をかけた。
「……正直、少し」
「気張らなくていい。俺たちは、お前の後ろにいる」
「私も、蒼真くんも」
結衣が優しく微笑んだ。
「鳴依さんも、応援に駆けつけてくれてます」
葵は刀を握りしめ、静かに目を閉じた。
(煉くん。見ててね)
行方の知れない相棒への想い、そして仲間たちへの感謝。それらすべてを胸に、葵は決戦の場へと足を踏み出した。
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国中の耳目が集まる巨大な闘技場。その中央に、現・雷帝――鴉杜が悠然と立っていた。
齢五十を超えてなお、その身体からは若者顔負けの覇気が漲っている。数十年、頂点に君臨し続けてきた者だけが纏う、圧倒的な貫禄だった。
「小娘が、この座を望むか」
鴉杜の声は低く、静かでありながら、闘技場全体を震わせるほどの重みがあった。
「私は、雷帝の座を欲しがっているわけではありません」
葵は真っ直ぐに答えた。
「ただ、この紫電が、誰かを救う力になると信じたい。そのために――あなたを、超えます」
「――良い目だ」
鴉杜が、初めて微かに笑った。
「かかってくるがいい」
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開戦の合図とともに、鴉杜の雷が炸裂した。
その威力は、これまで葵が対峙してきた鳴依や魁とも比較にならない。大地が抉れ、闘技場の観客席までもが震動する。
「くっ……!」
葵は即座に弾き飛ばされ、地面を転がった。
(強い……! これが、頂点……!)
立ち上がりながら、葵は歯を食いしばった。序盤から、圧倒的な力の差を見せつけられていた。
それでも、葵は退かなかった。
鳴依との死闘で磨いた「見切り」。魁との対峙で得た「回路を読む精密さ」。これまでの全ての積み重ねを、この一戦に注ぎ込む。
攻防は激化していく。鴉杜の一撃を紙一重でかわし、隙を見て紫電を返す。だが、老練な雷帝はそのことごとくを見切り、逆に反撃を叩き込んでくる。
「まだまだ、青いな」
「……まだ、終わってません!」
何度も倒れ、何度も立ち上がる。全身は傷だらけになり、息は上がりきっていた。
それでも、葵の瞳の光は、消えなかった。
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戦いが佳境に差し掛かった頃、葵はふと、鴉杜の一挙一動の中に、ある「歪み」に近い揺らぎを感じ取った。
(あれは……回路の癖、なのか……?)
長年の激闘で蓄積された、わずかな軌道の乱れ。それは弱点というより、老いてなお戦い続けてきた証のようなものだった。
葵は、その一瞬の隙を見逃さなかった。
残る力の全てを、切っ先へと集中させる。
「――これで、最後です!」
紫電が、これまでにない鋭さで奔った。
鴉杜は防御に転じるが、わずかに反応が遅れる。紫電の一閃が、鴉杜の得物を弾き飛ばし、切っ先が喉元寸前で止まった。
静寂が、闘技場を包んだ。
「……参った」
鴉杜が、静かに膝をついた。
「見事だ。この歳になって、これほどの一撃を受けるとは思わなかった」
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鴉杜はゆっくりと立ち上がり、腰に佩いていた一振りの日本刀を、両手で葵へと差し出した。
歴代雷帝の証、『雷切・建御雷』。
「これより、この刀と、雷帝の座は、お前のものだ」
「……私で、いいのでしょうか」
「実力で示したものを、疑う必要はない」
鴉杜は、初めて穏やかな笑みを浮かべた。
「鳴神葵。史上最年少にして、女として初めての雷帝だ。誇りを持て」
葵は震える手で、雷切・建御雷を受け取った。刀身に触れた瞬間、これまでにない確かな力が、葵の中に流れ込んでくるのを感じた。
「……ありがとう、ございます」
深く一礼する葵に、闘技場中から万雷の歓声が沸き起こった。
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「やったね、葵!」
結衣が涙ながらに抱きついてくる。蒼真も珍しく満面の笑みを浮かべ、魁は無骨に肩を叩いた。
鳴依が、静かに歩み寄ってきた。
「おめでとうございます、葵。……いいえ、雷帝」
「鳴依さん」
「これからは、私たちが、あなたを支える番です」
葵は、皆の笑顔を見渡しながら、心の中で静かに呟いた。
(煉くん。私、雷帝になったよ)
喜びの中にも、行方の知れない相棒への想いは、消えることなく灯り続けていた。
(でも、これで終わりじゃない。あなたを取り戻すまで、私は前に進み続ける)
史上最年少、女性初の雷帝誕生。その栄光の裏で、葵の戦いは、まだ終わっていなかった。
やがて瑞穂皇国は、隣国――剣帝の国ノドリス、賢帝の国ラグナリアとの同盟に向けて動き出す。ヴァルハイト帝国という共通の脅威に対抗するため、世界はより大きな渦へと巻き込まれていくことになる。
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