# 第10話 黒雷の狂剣、雷門魁
鳴依との一戦から、幾日か過ぎたある日。
ギルドの緊急依頼として、一枚の書状が葵たちの元に届いた。
「――黒雷を撒き散らす狂った剣士、目撃多数。討伐、または鎮圧を求む」
「黒雷……?」
葵が眉をひそめる。蒼真がすぐに資料をあたり、険しい表情で報告した。
「対象は、雷門魁。瑞穂皇国でも名の知れた大剣豪だ。属性は本来、黒雷。……だが、直近の目撃情報では、明らかに正気を失っている」
「回路の異常、ってこと?」
「恐らく。何らかの原因で魔導回路が歪み、制御を失っているんだと思う」
結衣が扇を胸元で握りしめた。
「危険な依頼ですね……でも、放っておけません」
「行こう」
葵は静かに、しかし確かな決意を込めて頷いた。
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指定された渓谷に着くと、そこには既に荒れ果てた光景が広がっていた。
抉れた岩肌、なぎ倒された木々。そしてその中心に、黒い雷を纏った巨躯の男が、大剣を振り回していた。
「うおおおおおっ……!!」
雷門魁。武骨な顔立ちには、理性の光がまるでなかった。全身から迸る黒雷が、大剣・黒剛に絡みつき、触れるものすべてを焼き尽くしていく。
「結衣、結界を!」
「はい……! でも、この威力……!」
結衣の結界が、魁の大剣の一撃で軋み、罅が入る。
「くっ……!」
蒼真の長槍による牽制も、魁の圧倒的な膂力の前ではほとんど効果を発揮しなかった。
力任せの猛攻。葵たちは防戦一方を強いられていた。
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「……この人を、倒すんじゃない」
葵は刀を構え直しながら、静かに呟いた。
「救う」
鳴依との死闘で得た確信があった。精密に、正確に。狙うべきは、魁の肉体でも命でもない。
(回路の、歪みそのものを断つ)
「葵、無茶だ……! あの威力を受けたら――」
「大丈夫。私の紫電なら、届く」
葵は地を蹴り、魁の猛攻の中へと飛び込んだ。
「うおおおおっ!!」
大剣が振り下ろされる。紙一重でかわしながら、葵は魁の全身を流れる魔導回路――その歪みの気配を、精密な感覚で捉えていく。
一撃、また一撃。かすめるような攻防を繰り返しながら、葵は魁の懐へと、確実に距離を詰めていった。
「――そこ!」
紫電を纏った刀が、閃光となって奔る。
狙うのは、魁の心臓でも、首筋でもない。彼の胸の奥、乱れきった魔導回路の中心にある、ひときわ歪んだ結び目。
「はああああっ!!」
紫電の一閃が、その歪みだけを正確に断ち切った。
肉体には、傷一つつかない。
だが、魁を包んでいた黒雷が、まるで嘘のように鎮まっていった。
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「……あ」
魁の瞳から、狂気の色が消えていく。
「俺、は……」
膝から崩れ落ち、大剣が地面に突き刺さった。
「ここは……俺は、何を……」
抉れた岩肌となぎ倒された木々――自らが荒らし尽くした渓谷を見渡し、魁の顔が青ざめていく。
「まさか、俺が、この谷を……こんな有様に……」
「大丈夫」
葵が静かに歩み寄った。
「もう終わった。あなたの中の歪みは、断ち切った」
「歪み、だと……?」
葵は、自分の中でようやく形になった確信を、言葉にした。
「私の紫電は、人を傷つけるためのものじゃない。……回路の歪みや、洗脳を、正すためにある」
それは、これまでの戦いを通して、葵がようやく辿り着いたロジックだった。
魁は、しばらく呆然と葵を見つめていたが、やがて、深く頭を下げた。
「……恩に着る。俺の大剣、好きに使ってくれ。この命、お前に預ける」
武骨で不器用な、けれど確かな感謝の言葉だった。
ただ、なぜ自分の回路がこれほどまでに歪んでしまったのか――魁自身にも、その原因に心当たりはなかった。
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「魁さん、これから一緒に戦ってくれますか?」
葵が手を差し伸べると、魁は少し戸惑いながらも、その手を握り返した。
「……ああ。俺にできることなら、何でもする」
こうして、頼もしい大剣豪が、葵たちの仲間に加わった。
蒼真が小さく息を吐いた。
「これで、九重鳴依、雷門魁……葵の周りに、頼れる剣が集まってきたな」
「うん。……でも」
葵は自分の刀を見つめた。まだ、紫電は完全に制御できているわけではない。それでも、確かな手応えがあった。
「次は、瑞穂皇国最強の存在――現・雷帝への挑戦。私の目指す場所は、まだ先にある」
仲間たちの視線が、静かに葵に集まった。
雷帝戴冠への道は、いよいよ最終局面へと差し掛かろうとしていた。
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