第4話 従姉のお姉ちゃんは新しい隣人らしい
「大きくなったわね涼一」
「景香お姉ちゃんも、うん」
「もう高校生だもの、明後日16歳になるわ」
という目の前に居る小泉景香お姉ちゃん、
僕の死んだ母さんの、双子の姉の娘さんだ、
つまりは従姉、同学年で昔は本当のお姉ちゃんみたいな立場だった。
(栃木の農園に行った時だけね)
昔は学校が長期休みのたびに行ってたんだっけ、
そう、小学4年生の夏休み途中までは……あれは思い出したくない、
何があったか誰も知らないはず、当事者以外は、だから景香姉ちゃんも、もちろん父さんも。
「こっちの高校に通うの?」
「同じ高校よ、クラスも一緒になると良いわね」
「えっ」「嫌?!」「びっくりしちゃって、農園は」「もういいの、もう」
……景香ちゃんの方こそ、
何かあったのだろうか、そう、何か。
「涼一、彼女の農園はもう大丈夫だ、長男の奥さんと次男の婚約者が代わりをやってくれる」
「あと伯母さんもいますからね」「ああ、それに面倒見ないといけない弟たちも、もう大きくなっているはずだ」
「ええ、まだちょっと不安だけど、それを言ったらきりがないから、家から一生出られなくなっちゃう」「景香ちゃん、出たかったんだ」
コクリと頷く。
「変な言い方になるけど、やっと青春が来るって感じだわ」
「はは、東京を楽しめると良いけど」「うちは栃木弁とか無かったから多分、大丈夫」
「あっでも、お小遣いとか生活費は」「それについてだが涼一、彼女は私の会社のアルバイトとして働いて貰う」
えっ、と父さんを見たのち景香お姉ちゃんを見る。
「放課後に早く帰ってきて電話番を、平日だけだけどね」
「えっと、じゃあ部活は」「入れないね、助っ人誘われたら行くかも」
「それでいいの?」「涼一のお世話もあるからね」「えっ」「それも込みのバイト代よ」
再度、父さんを見る。
「アルバイト代は月40万円だ」「たっか」
「それで涼一の希望するお世話は何もして貰う」
「何でもって」「何でも言ってね、隣に居るから」
……月40万って愛人契約みたいだ。
「でも景香お姉ちゃんだって、友達と遊んだり、その、デートとか」
「友達とは日曜に遊ぶかな、デートは涼一くん、一緒に行ってくれる?」
「えっ」「それについてはまとめて昼食の時に話そう、それまで荷物の整理をするといい」
部屋を出る父さん、
僕もついて行こう、
そしてなぜか景香お姉ちゃんまでついてくる。
「えっと父さんこれからどこへ」「屋上だ」
「あっ、行ってみたい、って屋上っていいの?」
「ああ、47階住人の特権だ、ついて来ると良い」「私も~♪」
マンションの廊下に出ると、
なぜか僕の腕に絡みついてくる景香お姉ちゃん、
いやこんなに仲良かったっけ、6年前はまあ、確かに。
(いや、お互い大きくなってるんだから)
そして屋上へは階段で上がるのか。
「……ここだ」「うわ、眩しい」「わあ、プール!」
うん、大きなプールがある、
そして隣はバーベキュー場か、
きちんと屋上専用のトイレまであるな。
「プールは7月頭から9月いっぱいまでの限定だ、
年中無休の屋内プールなら下の階にあるからな、全住民供用だが」
「じゃあここは」「47階の4世帯限定、バーベキュー場はいつでも構わないがどっちも前日までにフロントで申請だ」
使用料とかかかるのかな、
プールだって水道代がめっちゃかかるだろうし。
「あの先は」「太陽光パネルだが、そっちまで行くと風が凄い」
「えっとじゃあプールとバーベキューエリアまでと」「そうなるな」
「涼一、ちゃんと線で区切ってあるわ」「あっほんとだ、あとミニ公園もあるね」
木製のリクライニングチェアまである、
ここで夜空を見上げるのも悪くないなぁ。
「では戻るぞ、あと41階には無人コンビニがある」
「全てセルフですか」「監視カメラばっちりだから盗んだらバレるぞ」
「涼一、後で一緒に行こう」「うん、あともっと下の階の設備も見ないと」「何でも揃っているぞ」
と言う父さんの先導で家まで戻る、
いやほんと夢のような生活が待っているな、
本当に良いんだろうか、これ勉強とか頑張らないと。
「戻った」「遠藤さん、もう昼食の準備が整いました」
「そうか田中君」「はい、ダイニングに集合させましょうか」
「そうだな、涼一」「はい父さん、食べちゃいましょう」「じゃあ私は涼一の隣ね」
ということでダイニングへ行ったのは良いが……!!
(知らないお兄さんが、座ってるううううう!!!)
いや誰よこれ?!
「あ~、涼一さ~ん、これ私の弟です~」
「ええっと、野沢さんの?」「はい~、高校卒業したてで~」
「涼一、彼の名前は野沢大、我が社のアルバイトだ」
ちょっと陰キャっぽいお兄さんが会釈だけしてくれる。
「えっと、じゃあこの人も一緒に」
「いや、登記上の会社に住んで貰う、こことはまったく別だ」
「えええ、会社に住むって」「オフィスはこっちにするにしても、荷物の受け取りや来客対応は会社でしないといけない、その留守番だ」
それで住むのか、
いや良いのかそれ、
事実上のオフィスがタワマンの住居で、登記上のオフィスがこのお兄さんの住居で。
「一度~、ご案内しますよ~」「野沢さんが?」
「私はちょっと~」「私が案内してあげる」「橋本さんか~」
「お待たせ、私が最後ね」「丸瀬さん、肩に小さい脚立かけて」「これで高い所の物を取るのよ」
こうして食卓に全員並んだ、
料理を前にいただきますだ、
ここは父さんがみんなを見回す。
「では今日から息子を、涼一を頼んだ、ではお茶で乾杯!」
「「「「「「「かんぱぁ~~~~~い!!!!!!!」」」」」」」
さすがに9人で食卓を囲むと、
ちょっと窮屈かな、でもいいや、
昔、景香お姉ちゃんの実家で頂いた夕食を思い出して、ちょっと懐かしい。
(さてお味は……うん、美味しい)
そして昼食を頂きながら父さんが。
「さて、これから大切なことを言う、涼一」「んぐ、はい」
「お前に婚約者を用意した」「え、ええっ、えええ???」
「相手はこの中に居る」「と、いうことは」「涼一くん♪」
隣で微笑む景香お姉ちゃん。
「では発表しよう」「はい父さん」
「涼一の婚約者は」「はい、僕の婚約者は」
「ここに座っている、女性全員だ」「……はい?!」
いったい、
何を言っているのだろうか、
この父さんは……ぜ、ぜっ、全員?!?!?!




