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9話

ーーーーーーーーーーーーーーーーー





「ねぇケイ!みんなの洗濯もの終わったよ。何か手伝うこと無い?」




「元気はええけどそろそろ休み?動きっぱなしやん」




「でも手伝いたいの!何か無い?」




「本当に?」




「本当だよ!」





夢を見ている。

これが夢だと最初からわかっている夢だ。




「手伝わないと不安なんじゃなくて?」




「...!!」




「分かるで。新しい環境でさ、自分の居場所作らなあかんって思ってんやろ?怖いよなぁ」




「わ、私は...」





「な。俺の前でくらいゆっくりし。会ったばっかりやし、気許せんの分かるよ。でも....」





白い髪の女の子と、その頭に手を置く茶髪の男。

場所は多分ヒリアの孤児院。





「俺は君の味方やから」






その言葉の後、場面が切り替わる。

孤児院の同じ場所であるが、今度は周囲が慌ただしい。






「ケイ。恐らく場所はランクトルムだ」





「あのへんかぁ。オッケーオッケー準備出来てるよ」





出て行こうとする男の裾を、先ほどの少女が掴んでいる。

ようやく霧がかかったようだった頭が冴えてきた。これは俺だ。過去の俺。

相手はサラ。サーちゃんだ。





「........」





「どしたん。今日は甘えんぼやね」





「......行っちゃやだ」





「そかそか。ほらおいで。ギューってしたろ」






いつもは逃げていく彼女だが、この時ばかりはされるがままで抱擁を受け入れた。

強く強くしがみつくサラに今回のお願いは本気だと悟る。





「...やだ。やだよぉ。死んじゃうかもしれないんでしょ...?行かないで」




「心配しーやねぇ。だーいじょうぶ!知ってるやろ?俺ってば色々出来るからさ。なんとかなるよ」




「...ほんと?」




「ほんとほんと」




「じゃあなんであんなにご飯置いていくの...。お金も、あんなにたくさん。ずっと受けてたお仕事も止めたって....」




「....よー見てるねぇ」





懐かしい。

サーちゃんに引き止められた時のことだ。





「嘘はやめよか。本当はさ、結構危ないねん今回」




「じ、じゃあ行かないで!逃げようよ...」





「それはダメ。だってな、大切なもんは...自分で守らないと簡単に壊れちゃうねん」





辺りを見渡す。





「みんなのこと好き?」





「....うん」





「みんな傷付いて欲しくないやんね」





「........うん」





「俺も同じよ。あいつらも、ここも...みんな守りたい。サーちゃんは特にやで?全部大切で、なーんも手放したくないんよ」




「ぅ....で、でも...」




「ん?」




「ケイくんがいるなら...私、なにも要らないよ」





大胆な告白に、その真面目な表情に、ただ幼い彼女のそれが微笑ましくて笑みが溢れた。





「ぷ...ふふ....」





「笑わないで!本気なの...」





「じゃあ尚更やね。俺頑張ってくるから。みんなのために。サーちゃんのために。だから...いつものお願いよ」





「.....」





「.....だめ?」





「....いってらっしゃい...ケイくん」





「うん。ありがと!行ってきます」





「でも....絶対、帰ってきてね....っ!約束だよ!」






ボロボロと涙を流す彼女を背に、手を振ってその場を後にする。

彼女はその場に膝をついて、ずっと...ずっと泣いていた。





「おかえりって言うから!待ってるから...!!ずっと.....ひぐ...待ってるから....ぁ....!!」




子供の感性とは時に鋭い。

何か違う空気感を感じ取っていたのだろう。




俺がもう戻らないことも、分かっていたのだろうか。




やがて背景が徐々に明るくなり、強烈な光に視界が塗りつぶされる。

眩しさに目を覆った瞬間、体が重力を感じ目を擦った。






「朝か....」




呟く。

朝日が顔に直撃していたようだ。


健康的な目覚ましだが、目覚めの悪い俺は布で顔を覆って二度寝の態勢。

しかしやけに鮮明な夢の情景に頭が周り、眠りには付けず体を起こした。

何処を見ても木、木、木。文字通りの森の中の風景が広がっている。





昨日は牢屋を脱走し、取り敢えずは縁が出来たヒリアの街へ走った。幾つも山を越えるので近いとは言えないが、俺の足ならば行けない距離でも無い。


俺の能力の元になっているゲームはオープンワールドだったこともあり、俺自身の移動能力もそこそこのものである。

高い跳躍力。

2段ジャンプ。

早く持続可能なダッシュ。

落下が緩い空中ダッシュ。

多少の段差はものともしないパルクール。



ダッシュで走っているだけでも馬より俺の方が早いのだ。そりゃもう快適だ。極力そうなるよう設計されたのだから当然か。

加えて、どんな悪路だろうとその動作は失敗しない。いや、失敗しない...ではなく失敗が存在しない、の方が正しいか。

ゲームではダッシュを失敗するというモーション自体が無かったためだ。方向さえ間違わなければ直線で突っ切ることもできる。

地図だけ道すがら買って、今回もそのように走り抜けた。





「焚き木見ながら寝ちゃうとか...テント使わんねやったら街入った方がよかったかな」




地図によればもう少しでヒリアの街だ。昨日は8時間程走ったが、結局手前で眠気が来て野宿してしまった。

飲み歩いて寝ようとした帰路で襲撃、取り調べと色々あったからな。



走るのはアッシュ達がいる王都方面でも良かったが、やめた。魔王の角を破壊するだけならそれが最短ではあったが、やはり1ヶ月と期限を決めて色々行きたいところへ行ってみようと決めた。

神様もゆっくりして来いと言っていた。使徒としてのお仕事はしたいが、リミットを決める事で自分なりに楽しもうと思ったのだ。


そう思えたのは、あのお弟子さんに出会えたところが大きい。この街のみんなが今どうなっているのだろうと楽しみになった。見てみたくなったのだ。






「よいしょよいしょ....はいパンパンと」




使用したかけ布を払い、アイテムBOXへ仕舞う。

テントや焚き木等の野宿セットも同様に。





「じゃあ出ますかぁ」





数秒伸びをして、方角を確認。

そして、また走り始めた。

流れていく景色に、ちょうどいい場所を見つけては眺めてみたり、ついでに魔物を倒してみたりと今度は寄り道をして少しずつ進む。


眠気に追われた昨日よりは周囲を楽しむ余裕がある。

サボろうと思えばどこまでもサボれてしまう性格上、一点に留まるのは5分程度と決めて次へ、次へ。




ヒリアの街が見えたのは昼前になってからだった。

全く違った様相になっていたエゼ村とは違い、こちらは見慣れた建物。見慣れた道で些か安心する。




俺がいたのは確か...14年ほど前になるのか。




ここに居た期間は約3年ほど。

つまり最初にこの街に足を踏み入れてから17年の月日が経っている。




「2つ前ってだけでまぁ懐かしいよなぁ」





この地での仕事は、若くして領地を継いだ領主が標的で...と言っても当時で恐らく小学生から中学生ほどの年齢。まぁ子生意気な坊ちゃんが相棒で、その子と周囲とのいざこざが主だった。



辺鄙な所にあったのに、あの有能な領主様が強めの原産品を見つけてしまった事が発端だ。

強度が高く魔力伝導率の良い新種の鉱石。現在はアダマンタイト鉱石と言われるもので、これはアッシュやヴォドさんの防具にも使われている。



周囲を縄張りにしていた魔獣の討伐。

牛耳ろうとする犯罪組織との抗争。

利権を手に入れたい教会との政争。

力尽くで手に入れに来たお隣領主との戦争。




それ以降は死んでいたので知らないが、あれからも色々あったのだろう。

街の外壁はあの時より強固になっている。

領主のお膝元として相応しい見た目だ。




「...ま、来たんだしとりあえず行くか」




一瞬知り合いに会おうか会うまいか考えたが、そこまで厳密に決めなくても良いだろう。面倒を避けるため見られないようにはするが、気付かれてしまったらそれはそれで別に良い。

深く考えず気楽に楽しんでみようじゃないか。



正門の場所は変わっていないのかな?

どこから中に入れるだろうか。





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