726 形 上
「ほぉう。美味いな」
やはり初めて飲んだものでも美味しいと感じるものなのね。
「それはなによりです。こちらはさらに改良を加えたものです」
コノメノウ様、わたしのヒントから基本の四種類は把握したみたい。あの情熱をどこかに……向ける必要もないか。あの方が動くと大変なことになっているからね。
……主にわたしに迷惑がかかっているけどね……。
「うん。確実に洗練されておる。これはいい!」
マルビオ家にもメイベルを通してブランデーは贈っている。飲んでいるはずだけど、好みは日本酒みたいね。
「では、帰るときまで用意しておきます」
「すまんな。チェレミー嬢には世話になってばかりだ」
「いえ、これからお世話になるなはこちらのほうです。このくらいではお返しになりませんわ」
話を戻せるチャンスをいただいたので、ロッカルの養子問題に向けさせてもらった。
「突拍子もない娘だとは昔から思っていたが、まさか婿を取るとはな」
「周りがわたしに向ける目くらいわかっております。この火傷くらいでは跳ね返せない圧力を受けるだろうというくらいはわかっておりました」
「そうだな。チェレミー嬢の功績は多すぎる。もはや、存在そのものに価値がある。火傷など気にしていられんだろうよ」
それだけわたしの名が高位貴族の間で広まっているってことか。困ったものだわ。
「動かれる前に婿にしてもいい者が現れて助かりました」
「それだけの者なのか?」
「まだ可能性の段階です。けど、素質はあるとわたしは見ます。ただ、貴族の価値感を持っていないのが問題ですね」
「貴族の価値感か。それを身につけられるのは長いこと貴族をやっていないと身につかんだろうな。わたしも若い頃は甘い考えを持っておったかな……」
「突き詰めると、貴族は損得でしか動けなくなります。誇りなどなく、家を残す道具となりますからね。若い方には納得できないでしょうよ」
貴族という社会を回す歯車となってしまう。反発心が強い者には受け入れられないでしょうね。
「それが理解でき、納得する者はそうはいない。ましてや若い身で辿り着ける答えでもないんだがな」
呆れの笑いを見せるルゼット様。苦悩してきたことがよくわかるわ。
「人が社会を形成する。それは、なにかの形にはまならないと社会では生きて行けないことを意味します。それは獣でも同じです。そこから外れたら生きてはいけなくなるだけです」
貴族には貴族、庶民には庶民の役割がある。そこが嫌だからとその上に移ったところで別の役割を果たさなければならなくなるだけよ。
「わたしは貴族という形が結構気に入っております。ただ、だからと言ってすべてを受け入れられるわけではありません。受け入れられないものは絶対に受け入れたくありません。なら、その形に嵌まる方法を探します。ないのなら形が壊れないていどに変えるなり増やしたりしますわ」
わたしは手段を大切にする。無理やりは形を壊すだけだからね。だからってその形は永遠不滅ってわけじゃない。少しなら形を変えられるのものなのよ。
それにはマルビオ家が必要ってことなのよ。




