725 招待 下
「まあ、まずはお茶でもどうぞ。それともお酒にしますか? コノメノウ様が作ったお酒がありますよ」
部屋にお酒がないと知ると忽然と消えた酒カスさん。自分が作ったものには興味がないのか、それとも飲ませたいのかわからないけど、わたしの部屋の棚に置いていくのよね。溜まって仕方がないわ。
「コノメノウ様が?」
「はい。最近、お酒を作る趣味に目覚めてたくさんあるんですよね。帰りにお土産としますね。身内やお知り合いにでも配ってください。効能やご利益はありませんけど、守護聖獣が作ったお酒なら喜ばれるでしょう」
コノメノウ様が作ったお酒として売れば儲けられそうだけど、神殿と揉めたくはない。手土産って形なら文句も言わないでしょうよ。
「……そ、そうか。では、ありがたくいただこう」
「数種類ありますので、まずは最初に作ったものをお味見ください。これがコノメノウ様の原点ですので、知っておくのもよいでしょう。原点を飲んだ者がいないので感想を聞かせていただければ幸いです」
さすがに最初のは自分で味見したけど、そこから樽一つ分は拝借させてもらったわ。なぜ初を残してくださらなかったのですか! って文句を言われたときのためにね。
「……それは、畏れ多いな……」
「ただ、コノメノウ様の原点を飲んだ者としてコルディーの歴史に残るだけですよ」
初めて作った清酒をお猪口に注いでルゼット様の前に置いた。
「恐ろしいことをサラッと言わんでくれ。マルビオ家をどうするつもりだ?」
「侯爵まで登り詰めたらおもしろいな~と思っているだけですよ。戯れ言として受け流してくださいませ」
「…………」
あらやだ。戯れ言として受け取ってくれてなさそうな顔だわ。まあ、どう捉えられても構わないのだけれどね。
「まあ、そんな戯れ言はこのくらいにして、ようそこわたしの館へ。歓迎致しますわ」
「こちらこそ突然の申し出にも関わらず受けてくれたことに感謝する」
「感謝するのはこちらのほうですわ。令嬢でしかないわたしの元へ来てくださるなど畏れ多いことなのですから」
「そんなもの今さらだ。もはやコルディーでチェレミー嬢を軽く見るものは情報に疎い者か先を見る目を持たぬ者くらいだ。あるていど要職につく者や地位のある者はチェレミー嬢の動きを見ている。チェレミー嬢なら言わなくともわかっているだろう?」
「そうですね。その辺のことはメイベルに任せていますわ。誰の目かよく調べてくれてますわ」
「メイベルがか?」
「今や町の裏を牛耳っているのはメイベルですよ。あの娘にあんな才能があったとは夢にも思いませんでした。あとで聞いてみるとよろしいですよ」
ほんと、人の才能とはわからないものよね。スパイを見つけてはどこの目か聞き出しているわ。まあ、わたしの付与魔法を施したものを使っているから可能なんだけどね。
「……メイベルがな……」
まあ、父親としては複雑でしょうけどね。




