8 翼のはなし
「リリー!その翼ってどうなってるんだ?」
きっかけはえどにいのその言葉だった。
ぱぱとままは仕事で違う部屋にいて、ひゅーにいたちに遊んでもらっていた時、徐に私に近づいてきたえどにいがそう言ったのだ。
「俺ずっと気になってたんだよ!それって飛べるのか?」
そう言って私の翼を触るえどにい。「ふわふわだ!」とかなんとか言ってめっちゃ撫でてくる。
手入れをしてなくてもふわふわで真っ白なのは変わらない翼。それは生まれた時からあったものだから、私にはみんなが興味津々な様子で触ってくることに驚いた。
「とべるよ?えどにいたちもとべるでしょ?」
最近少しずつ緊張感?的なものが取れたのかスムーズに話すことができるようになってきた。ちょっと舌足らずな感じはするけど、返事とかだけじゃなくて文章も話せるようになってきたところなんだ。
「え?俺たちには翼はないよ」
「え?」
当たり前に翼はあるものだと思ってきた私にとって、そのえどにいの言葉は衝撃的だった。
え?どういうこと?隠しているんじゃなくて、ないの?
思わず「え?」と返してしまった私だけど、ひゅーにいたちもえどにいと同じように驚いているのを見て、本当にみんなには翼がないことを知った。
「僕たちには、というかこの世界の人たちには翼は生えていないんだよ。雲の上の女神族や天使族は生えているんだけど」
「めがみぞく?てんしぞく?」
初めて聞く言葉に首を傾げる。
「リリーはきっと女神族なんだ。この説明はもっとリリーが大きくなったらするね。
とりあえず僕たちにリリーたちみたいな翼はないんだ。そう言えば昔女神族は翼を自在に操れると聞いたことがあるけれど、本当にそうなの?」
うぃるにいが私にそう質問してくるから、そうだよとコクンと頷くとうぃるにいは嬉しそうに笑った。
「わたしはあんまりれんしゅうしてないからできないけど、もっとれんしゅうすればできるようになるとおもう」
「すごいね、リリー!じゃあ飛ぶことはできるの?」
「ん…わからない…ちゃんととべるようになってからつばさをけしたりするみたいだけどやったことないから…」
そう言えば、私はどうやって練習していいのかもわからない。練習しているところも見たことがない。
急に不安になってきた。これから翼があるだけで何もできないかもしれない。この世界では不必要なものかもしれないけど、それでもなんだか悲しく感じた。
そんな私に気がついたのか、ひゅーにいが頭をポンポン撫でてくれた。
「大丈夫だよ、リリー。僕たちがいるからリリーが練習したいなら一緒に練習しようか。
父上と母上に許可を取ろう」
「うん、ぱぱとままにおねがいする」
「よしじゃあ僕も一緒に行くよ」
そう言ってくれたひゅーにいに連れられて、部屋を出た。
前に私が廊下で寒がったのを覚えていてくれているのか、ひゅーにいは廊下に出るといつも魔法をかけてくれる。
そう言えば雲の上にいた頃寒さや暑さを感じなかったのは、精霊たちが魔法をかけてくれていたんだって。この世界は雲の上とはちょっと違うから最初の頃は魔法がどうしてもうまく使えなくてその魔法を私にかけることができなかったんだって。
それを聞いた時、精霊たちは昔から私のことを考えてくれていたんだっってすごく嬉しくなった。
「父上、母上、お話があります」
そうこうしてひゅーにいはぱぱとままを見つけてくれた。
2人は仕事をしていたみたいだけど、私たちを見つけると声をかけてくれた。それにひゅーにいが答える。
「リリーが翼に関していろいろと練習をしたいそうです。まずは飛ぶ練習から。
僕が付いていてもいいのですが、やはり父上か母上と一緒の方が良いと思うので時間がある時に練習をしても良いですか?」
「ぱぱ、まま、おねがいします」
来る時にひゅーにいに教えてもらった言葉で、ぱぱとままにお願いをする。
すると、ぱぱとままはなんだか嬉しそうに笑った。
「もちろん、いいぞ!一緒に練習をしよう!」
「もう今日の分の仕事は終わったから、リリーがいいなら今からしましょうか?」
すごく乗り気なぱぱとままは机の上にあったたくさんの紙をまとめて、引き出しの中へしまった。そして椅子から立ち上がって私たちの元へ来てくれる。
「うん!いまからしたい!」
「ええ!じゃあ今日はみんなで庭に出ましょう!」
そんなままの提案で急いで作ったおべんとう?を持ってお庭に出る。
初めてだったからちょっと不安だったけど、ひゅーにいが手を繋いでくれたから大丈夫だった。
お庭は、きれいな花がたくさん咲いていて、私の精霊たちが嬉しそうだった。特に土の精霊のネフラは歓声をあげて、お花にくっついていた。他の精霊たちもそれぞれお花の周りに集まる
「リリーの精霊たちすごく嬉しそうだね」
「みんなお花がきれいだから嬉しいみたい」
雲の上の時にはお花を眺めている時間なんてなかったからね。そう考えるとお花が好きな精霊たちは悲しかったのかもしれない。
「よし、リリー。練習しようか。…練習の仕方は知ってるのか?」
「…わからないの」
ずっと逃げていたから飛ぶ練習なんてしたこともないし、練習の仕方もわからない。
どうしよう、と考えていたらふと風の精霊のサフィが飛んできた。
『リリー、私が手伝ってあげるよ!とりあえず飛んでみて!もし落ちそうになったら私が風で支えるわ!』
「…うん、わかった!」
ふわふわと飛んでいるサフィはてのひらサイズから私と同じサイズくらいまで大きくなった。キラキラとした光の粉のようなものが、サフィの周りに降り注いで眩しい。
「リリー!?その子は誰なんだ?!」
「え?」
ふふ、とサフィと笑い合っていたら、ぱぱが大きな声を出した。
その声に驚いてぱぱの方を見ると、ままもひゅーにいたちも驚いたように私とサフィのことを見ていた。
『あ、そう言えばここの人たちは見えてるんだったね!私たちのこと。
初めまして!私風の精霊のサフィよ!』
基本的に底抜けに明るくてコミュニケーションの高い精霊は、普通に話しかけに行く。もちろんサフィも例外ではない。ひらひらと手を振っている。
「サフィは…リリーの精霊なのか?」
『うん!私はアテナの精霊よ!だから今日は私も飛ぶ練習に参加しにきたの!』
「そ、そうか…ありがとう」
なぜか歯切れの悪い返答をしたぱぱはなんとも言えない表情をしながらそう言った。
「(え?リリーの本当の歳はわからないけど、体つきからすると2歳ぐらいだろ?そんな子が精霊の加護を貰ってるなんて規格外すぎる…やっぱり女神族の子の魔力は大きいのか?そうじゃないと精霊の加護なんて受けれないぞ…しかもそれがどんなにすごいことなのかリリーはわかっていない…これからいろんなことを教えて行かなきゃいけないな…)」
アルがそんなことを考えていたなんて、飛ぶ練習をしていたリリーはもちろん知らない。
でも、リヴィ・ヒュー・ウィルは同じことを考えていた。