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第六十九話  苦手な人

 ――魔族領ファーマスの町。貴族屋敷。

 ”普通”を寄せ集めて出来上がったような見た目の魔貴族、マーシル=カタルビ・タジ・タイケさんに導かれ、彼女の住まうお屋敷へとやってきた。

 そのお屋敷だが、港のすぐ近くにあった。徒歩十分ちょいかな? 海から磯の香りがほんのりと漂う、とてもいい場所だ。

 外観は二階建ての赤レンガ建築であり、正面と左右にドーム状の屋根を持つ……簡単に言えば東京駅のミニチュア版だ。

 「立派なお屋敷ですね。いつ頃の建築なんですか?」

 「さあ? 私は元々この町の出身ではありませんし、興味もございませんので」

 あっさりスルーされた。するとアイシャに突付かれたので耳を近づける。

 「……私苦手」

 「見れば分かる」

 小声で返す。そして俺もこういう”ですわ”系統は得意なタイプではない。


 屋敷内は……なんだろう、何かが変。構造は一般的なお屋敷であり、装飾も豪華なんだけど、調度品がチグハグというかタイケさんには合わない感じ。目利きも何もなく適当に買い漁ったという雰囲気ではなく、かといって特定のテーマに沿った収集という感じでもない。違和感の塊だ。

 こういうのはリサさんが強いか。

 「リサさん」「しっ」

 おっと、静かにしろと。……と思ったら頷いた。俺の言わんとしている事はもう分かっているのか。さすがは本物の王女様。

 通された先は応接間。当然か。

 「どうぞ」

 「失礼いたします」

 無言の連携でリサさんの動きに合わせる事にした俺たち。リサさんも俺たちの意図は分かっている様子なので、ここはすべてお任せしてしまおう。


 「改めまして、私はこのカタルビ地方を治める貴族、マーシル=カタルビ・タジ・タイケと申します。皆様方の事情はミダル様よりお伺いしております。私もこの戦争には反対の立場を取る身ですので、このカタルビ地方での皆様方の身の安全を保証致しましょう」

 さてアイシャさんの番だが……こっち見んな。

 「えーと?」

 「あ、すみません。こういうのに慣れていなくて。あはは。……?」

 だからこっち見んな! と軽く睨むと、次はリサさんに目線が行った。

 「申し訳ございません。わたくしが説明をさせていただきますね。こちらの小人族が勇者のアイシャ・ロットです。ときに、現在魔族領を取り仕切っている魔王様が、偽者であるという話はご存知でしょうか?」

 「先日ミダル様の使者から伺いました。私は現在の魔王様にお会いした事がありますので、その容姿などはよく覚えております。――勇者様よりも小さな子供でした。角のない、人間族の子。その力は確かに強大ではありましたが、私にはどうしてもその方が本物の魔王様であるとは思えなかったのです」

 「なので反対の立場を取った?」

 「……厳密にはそれ以外の理由もありますが、この疑念により反対の立場を取るに至った事は間違いございません。そして現在、皆様方のおかげで私の判断は間違っていなかったと確信する事が出来ました」

 リサさんはアイシャに確認の視線を送り、アイシャはそれに頷いた。


 このタイケさんは実際に偽魔王と会い、それが偽者であると見抜いた。

 ドッボも会っているはずだが、奴は恐らく魔王が本物か偽者かなんてどうでもよかったんだと思う。

 ナーシリコに駐在していたドッボが何を見たのかは想像するに余りあるが、戦争を起こし大陸の人間に一泡吹かせ、そして自分を評価してくれる人物であれば誰でも構わなかったのだろう。


 「こちらの要求はただ一つ。魔王の居城がどこにあるのか、その所在をご教授願いたいのです」

 さてリサさんより本題が切り出された。

 「ええ、もちろんそれは構いませんとも。我ら魔族を出し抜き戦争へと駆り出させようなど言語道断ですもの」

 意外とあっさり話が通った。

 「ただ……」

 うわー、と思ったのは俺だけではない様子。その証拠に、この一言の後、俺たちの顔を見てタイケさんは顔を背けて吹き出し笑いそうになっている。

 「……んんっ、失礼。ただですね、魔族ではない皆様方にしか出来ない事を一つ、片付けていただきたいのです。何、半日もあれば済む話ですのよ」


 さーどうしようかと各々目線を交差させる。……んで結局全会一致でアイシャに判断を委ねた。

 「はあ……まずは内容を教えてください。私たちにだって出来る事と出来ない事がありますし、魔族の人たちに印象が悪くなるような事は避けたいんです。私たちはあくまでも穏便に偽魔王のところまで行きたいので」

 「それは大丈夫であると断言致します。内容ですが、ここから西へ進んだ先に古代の遺跡があるのです。その遺跡には魔力で動作する仕掛けがありまして、我々魔族はご覧のとおり大きな魔力は有しておりません。なので魔力を持つ皆様方に手を貸していただきたいのです」

 「それって罠としか思えないんですけど」

 「おっほっほっ、それはございません。……これはお話しても構わないでしょう。その仕掛けというのは扉なのですが、魔族の魔力量では十人で一人分の隙間を開けるのが精々なのです。なので皆様方の手を借り、完全に扉を開け放とうと、それだけの話なのです」

 ただ扉を開ける手伝いをしてほしいという事か。確かに危険性はなさそう。

 「……分かりました。でも私たちは魔族領での転送魔法が使用不能にされています。なので乗り物を貸してもらえると助かるんですけど」

 「それくらいならばお安い御用ですとも」

 アイシャの表情から力が抜けた。これで一安心、かな?


 「では最後に一つ質問よろしいでしょうか?」

 「ええ、どうぞ」

 リサさん何をする?

 「失礼を承知の上でお聞きいたします。……このお屋敷の調度品は、どのような趣向で集まった品々なのでしょうか? 年代もテーマも千差万別、というよりは統一性が見られません。無理にその場その雰囲気に合わせようとしているような、それでいてどうにか個性を出そうと試行錯誤をしており、しかしそれらの歯車が上手くかみ合っていない印象を受けます」

 「……」

 おっと、タイケさん苦い表情で固まった。

 「いえ、無理にお聞きするつもりではありませんので、お気になさらずに」

 「……はあ」

 大きく溜め息を吐くタイケさん。

 「どうやらあなた様は、私とは違うようですね」

 半ば睨むような目だが、しかし威圧しているというような雰囲気ではない。

 「やはりそうでしたか。わたくしは異世界の王女です。十三番目ですけれどね」

 「なるほど。本物にはあっさりと見抜かれてしまっていたのですね」

 「ええ。申し訳ありませんが、船に乗り込んできた時点で察しておりました」

 「……ふふっ、私の完敗です」

 二人で曖昧な会話が続き、その他に分類される俺たちは何がなにやら全く分からない。


 「えーっと、リサさん?」

 「そうでしたね。それでは早速向かいましょうか」

 いや、急かす意味ではなかったのだが。……と思ったらウインクされた。

 ほうほうなるほど。今はそれ以上突っ込んで聞かないようにね、という事だな。この忠告はアイシャもフューラもしっかり読み取り、俺たちは先ほどの会話については、何も聞かない事にした。しかしそれを小声で聞いてくるのが約一名。

 「……なにあれ?」

 ジリーは分かっていなかった……。



 ――ファーマス西の遺跡。

 貴族の馬車というから、どんだけ豪華なんだろうかと思ったら、幌つきの荷馬車でした。タイケさん曰く普通の馬車は現在修理中であり、そもそも定員四名なんだそうな。一応は座布団を敷いてくれたのだが、敵視はしないが歓迎もしないといった心情なのかな? と邪推してしまう。

 そして荷馬車を引くお馬さんだが、農耕馬なのか、かなりデカい。足も太くどう見ても競走馬には見えない。確か北海道にこんな感じの馬がいたはず。

 到着した遺跡だが……俺の中ではやっぱりといった感じ。三階建てのショッピングモールにも似た大きな建物が鎮座している。フューラに目をやると、あちらさんも同じ事を考えている様子だ。そして俺たちの表情の変化を目ざとく見つける奴がいるんだこれが。

 「カ……フューラはどう思う?」

 俺かと思ったらフューラに行ったか。……恐らくは船上でのあれのせいだな。フューラはチラッと俺を見てから答えた。

 「まあ、遺跡ですよね」

 「それで?」

 「……罠などの危険性は無いと思いますよ」

 「そーれーでっ!?」

 「あははははー。さあ行きましょうか」「ええー!?」

 笑って誤魔化した!

 まあ仕方がないか。これ以上は説明のしようがない。

 「いいから行くぞー」「んもー……」

 お前は牛か!


 内部は……さすがは遺跡。現役時代とは全くの別物であり、ボロボロ。

 「すみませーん! 誰かいませんかー!」

 「――!」

 声がした。場所はこの先だな。

 さて進もう、としたところで袖を引っ張られた。振り返るとフューラの真剣な表情がある。

 「一応は遺跡、ダンジョンですから、気を付けてください」

 「……あー、そうだよな。分かったよ」

 建物の見た目のせいで警戒心が薄れていた。もしもここが本当にショッピングモールであれば、そこには様々な商品が陳列されていたはず。しかし現在は遺跡なので、並ぶのは瓦礫とモンスターのはずである。

 リサさんとアイシャが同時に明かりを点けてくれたので、視界は意外なほど良好。ドンガラ状態で壁もボロボロ、コンクリ剥き出し状態の遺跡を慎重に進むと、中央ホールのような吹き抜けの場所に出た。意外な事に、現在までにモンスターとの遭遇はゼロ。もしや出ない遺跡なのかも。



 ――遺跡、中央ホール。

 ここの担当者と思しき人物を発見。こちらに背中を向けて無防備に作業をしているので、やはりモンスターの危険性はないのだろう。

 さて誰が交渉に……って全員で俺を見るな! はあ、仕方がない。

 「すみません、貴族のタイケ様から仰せつかって来たんですが」

 「はいは……いっ!?」

 そうね、俺ら大陸の人間だもんね。

 「本当にただの協力者なので、警戒なさらなくても結構ですよ」

 「そ、そう言われても……」

 と、後方から足音。最初に振り返ったのはフューラで、最後がリサさん。耳いいんじゃないのかよ?

 やって来たのは……あ、荷馬車の運転手をしていた執事君だ。黒髪の若い青年で、年齢はタイケさんと同じくらい。容姿はギリギリでイケメンの範疇に入るかな? という感じ。

 「すみませーん、タイケ様からあなた方に付くようにと仰せつかっていたのを、忘れておりましたー」

 「そこ忘れないでよ!」

 アイシャのツッコミが決まった。


 担当者への説明は執事君がやってくれた。

 「――なるほど、分かりました。こちらへどうぞ」

 という事で早速移動。執事君は待機するそうな。

 俺の今までの経験上、魔族の人たちは一度心を開いてしまえば結構懐っこい。それはあのドッボにすらも当てはまる。なにせこちらが堕ちた演技をすると、それを疑いもせずに俺を参謀の座に着かせたほどだ。

 ――いや、あいつの場合はただの「ここです」もう到着かよ!



 ――エレベーターホール。

 着いた先は……やっぱりここは俺の知る技術の建物だと、そう悟るには充分過ぎるほどの情報量を誇る、エレベーターホール。なにせ形がそのまま残っているので、今にもチン! と言って扉が開きそうな雰囲気なのだ。

 と、リサさんに耳打ちされた。

 「ここ、大型のデパートですよね? これエレベーターですよね?」

 一瞬驚いたが、リサさんは車のある時代の人物だ。エレベーターを知っていてもおかしくはないだろう。

 「これエレベーター?」

 「えっ!?」

 更に驚いたのが、アイシャがエレベーターを知っているという事実。

 「エレベーターでしょ? ……なにさー、私だってそれくらいは知ってるっての!」

 「いや、この時代の技術でエレベーターって……」

 「重石載せて滑車を使って上下に動かす。それくらい知ってるっ!!」

 アイシャさんお怒り。そして俺はほっとしている。

 俺たちの知る電動エレベーターがある訳ではなく、アイシャは昇降機全般をエレベーターと称したに過ぎないからだ。

 「はいはい正解。頭撫でてやるよ」

 「なーにそれー。ありがたみないなぁ」

 と言いつつもまんざらでもないご様子。


 その後は魔力ならばとリサさん出動。

 リサさんは扉に手をかざし、そしてその手が淡く光り始めた。するとあっさりとエレベーターの扉が開いた。

 「おおー!」と数名いた作業員から静かな歓声。振り返ったリサさんからはロイヤルドヤ顔をいただきました。

 「あの、もしよろしければもう一ヶ所手を貸してはいただけないでしょうか?」

 「いいですよ」

 あっさり快諾するアイシャ。といっても働くのはリサさんなのだが。


 そして移動した先はまたもやエレベーターホール。しかも何か臭い。

 「この扉だけがどうしても開かないのですよ。申し訳ありませんが、頼めますでしょうか?」

 「ええ、お安い御用です」

 再度リサさん出動。そして……あれ? 指が入る程度しか開かない。

 何かが引っかかっているのかもと思い、扉に耳を当てて音を聴いてみる。

 「……あー動いてはいる。という事は何かが引っかかっているのかも」

 というかこの鼻を突くとんでもない悪臭は何だ?

 「んじゃ、ここはあたしの出番だね。危ないから離れてな。あとアイシャ、頼んだよ」

 「分かった」

 ジリーがアイシャに頼んだのは、もしも中からモンスターが出て来た場合、ジリーは対処が間に合わないかもしれない。なので後ろに控えるアイシャに突っ込んでもらおうという事だ。


 「いくよ。せぇーのっ!」

 さすがは豪腕ジリー、指だけでも充分に扉が開いた。そして股の間からアイシャが内部に侵入。

 「……え? あ……い、いやあああああああっ!」

 何だ何だ!? アイシャが物凄い悲鳴を上げ、真っ青になり腰が抜けたようになりながら、ジリーの股の間から這い出てきた。

 「あ……あれ……ほ……」

 ほ? 「んぎゃああああっ!!」って次はジリーかよ!

 思わずその場から逃げ去ったアイシャとジリー。そして開いた扉の中には……うーわぁ……。

 「何人分だこれ?」

 「ざっと二十人分はあるでしょうかね。老若男女関わらずありますよ」

 相変わらずの冷静沈着過ぎるフューラ。俺の眼前にあるものは、そう。人骨だ。


 「……あーそういう事だったんかー」

 作業員の一人が至極冷静な声を出した。

 「何か?」

 「いやね、ここいら一帯で連続誘拐事件が発生してたのよー。これ、その骨だね」

 「……いや、ちょっと待って。この骨ってつい最近のって事!?」

 「んだねぇ」

 マジか!? ……うわ……ひとつヤバい骨があった。マジだこれ! あの悪臭はこれが原因か!

 「フューラ、後は頼んだ」

 「はい」

 真実を知った途端、猛烈な吐き気。

 思わず俺も逃げ、そしていつの間にかリサさんも逃げていた。



 ――中央ホール。

 四人して脳裏に焼きつく光景に凹んでいると、フューラと作業員たちがやってきた。

 「詳細は」「聞かない!」

 アイシャにとってはトラウマ物だったろうな。何せまだ肉が付いていて蛆虫がわいた状態の部位まであったんだから。

 そして担当者さんがヘルメットを脱ぎつつ頭を下げた。

 「いやー申し訳ありません。こちらもまさかあんなのがあるとは思いもしなかったもので。皆様方の手を借りる仕事はあれだけでしたので、お帰りになられて結構です」

 「分かりました。……あれは仕方がありませんよね。なのでお気になさらずに。それじゃあ俺たちは引き上げます」

 という事で俺たちは足早に荷馬車へと乗り込み、タイケさんの屋敷へ。



 ――ファーマスの町、屋敷。

 到着して屋敷に入ると、何やら美味しそうな香りが鼻をくすぐる。今日は色々なにおいを嗅ぐ日だな。

 「私が呼んできますので、皆様はここでお待ちを」

 執事君に指示され、俺たちは玄関ホールで待機。すぐタイケさんが来たので暇を持て余す事はなかった。

 「ご苦労様でした」

 「やってくれましたね」

 おっ? いきなりフューラが鋭い眼光を向け噛み付いた。どういう事だ? と思ったら俺以外全員が何かしらに気付いていた様子。あれれー? おっかしーぞー?


 「あの遺体、あなたの仕込みですね? 遺跡自体は本物であると推測されますが、あの遺体には共通点が見られなかった。普通、連続誘拐事件というものは何かしらの共通点があるものです。子供だけを狙ったり、女性だけを狙ったり。しかしあの遺体は老若男女千差万別でした。更に言えば、あの中には体格のいい成人男性の遺体も含まれていました。あの方を誘拐するなど、有り得ません」

 すらすらと言葉が出てくるフューラ。次はリサさんが口を開いた。

 「タイケ様、あなたは恐らく、自らを狂人と偽っておいでなのでは? 失礼ながらタイケ様は、普通の方でいらっしゃいます。邪推ながら、貴族である事に窮屈さを感じているのでは? もしくは自分はその器ではないと卑下しておられる」

 何だ、この二人すげーな。と思ったらまだまだ次がいた。

 「確か今の魔貴族って仲が悪いって話だったよね。あんたミダルに汚名を着せるつもりだったんじゃねーの? ミダルがあたしらを紹介した。そんであたしらが何かをやらかせば、大陸に向けて開港したミダルの責任にも出来るって寸法でさ」

 ジリーも意外と鋭いな。さて最後は?

 「はっきり言わないと血の海にするよ?」

 おいおい。アイシャらしいといえばらしいが、それじゃー解決にならんだろ。


 「……おおおーっほっほっほっほっ!!」

 やけくそになったか? タイケさんは大きく高笑い。

 「正直に申し上げましょう。あの遺体は私の仕込みです。そして私は狂人などではございません。ミダル様から皆様方を紹介された時、この計画を思いついたのも正解。しかしそれ以外は全てハズレ。私の勝ちですのよ!」

 「いやそれ勝ちって言わないから」

 思わず冷淡に突っ込んでしまった。タイケさんもアイシャたちも、全員ポカーンとしてしまった。なんだこれ。

 「とりあえず全てを話してくださいね」

 「……そうですね。しかし立ち話もなんですので、食堂へどうぞ。晩餐をご用意してあります」

 それでこのいい香りか。



 ――食堂。

 やっぱりどこか違和感のある調度品に囲まれた、しかし絢爛豪華を絵に書いたような食堂である。

 出された食事は……普通のと言っては失礼だが、ちゃんとしたコース料理だ。

 「どうぞ召し上がれ」

 「それでは遠慮なく頂きます」

 ……うん、さすがは貴族の屋敷、美味い。グラティア王宮と比べても遜色ないな。といっても趣向が若干異なっているので、並べて評価は出来ないか。

 「それで?」

 いつものアイシャの聞き方だ。するとタイケさんは軽く右手を挙げ、一旦執事やメイドを全員退室させた。食堂には俺たちとタイケさんのみ。


 「……はあ。貴族をやるのも息が詰まるんですよ」

 はっはー、なーるほど。これが本当のタイケさんか。さっきまでの雰囲気が一変、本当に普通の人の声と表情になった。

 「私、元は隣町にある一般的な肉屋の娘なんです。この地方って貴族は一代限りって決まってるんですよ。なので引退する貴族は後代を指名します。普通は地方の有力者を選ぶんですけど、なーんでか私になっちゃったんです。それで、貴族として他の連中にはナメられないように! って事であーいう役を演じているんです」

 「貴族と言えばこういうのだろうな、というイメージだけでキャラクターを作っていたと?」

 「はい、そのとおりです」

 だからあんなベタな高飛車お嬢様だったのか。


 「そもそも私って色んな人と関わるというのが苦手なんですよ。だから……今回の事は、皆様方との縁を作らないようにと思っての事です。気分を害してしまい、本当にごめんなさい」

 わざわざ立ち上がり頭を下げるその姿勢に、ミダルさんの言っていた”根は真面目”がよく見える。

 「ではあの遺体は?」

 「……食事中にはちょっと」

 「あっ……」

 まずいといった表情のフューラ。もちろん既にアイシャにはこれ以上なく睨まれまくっております。もちろんあの悪臭を嗅いでしまった俺も睨む。せっかく美味しい香りで鼻が満たされていたのに、臭いを思い出してしまう。

 「……ミダル様に汚名を着せるというつもりは毛頭なく、皆様方に対しても敵対的な感情はありませんし、そのような姿勢を取る気もありません」

 それを聞いてこっちも安心。

 「本当にただ」と話の途中で扉がノックされ、お爺さん執事が入ってきた。

 「お話の途中申し訳ございません。そろそろデザートをお運びしてもよろしいでしょうか?」

 「……ええ、よろしいですわよ。この続きは後ほど。おっほっほっ」

 大変だろうな、これじゃあ。



 ――食後。

 俺たちは屋敷で一泊する事に。ついでなので町を散策がてらもう一泊しようかなんて話も出たが、アイシャが保留にした。

 そして現在はタイケさんも含めた全員がアイシャの部屋に集合。

 「ごちそうさまでした」

 「いえいえ、お粗末さまでした」

 誰にも見られていないところでは、本当にタイケさんは普通の娘さんだ。普通に器量のいい娘さん。

 「それではあの遺体の全容を、お教え願えますか?」

 立ち会っていたからなのか、フューラが切り出した。

 「はい。連続誘拐事件があったのは本当で、あの遺体はその被害者です。被害者は全員が身寄りのない方々でして、その犯人こそが大柄の成人男性なんです。しかし遺体をあの遺跡に隠した事までは推測出来ていたのですが、犯行が突然終わってしまい、そして肝心の犯人も身を隠してしまったので、未解決になっていたんです」

 「つまり僕たちがあの遺体の山を見つけたのは偶然であり、そこに犯人と思わしき遺体があったのも偶然だと?」

 「可能性はあると思っていました。しかし本当に遺体を、そしてまさか犯人をも発見してしまうとは……。なので、遺体が私の仕込みであるというのも、その可能性を生んだという意味での事であり、私があそこに遺体を用意させた訳ではないんです」

 「だったらさっきそう言ってくれれば」「分かっています。でも……人に見られていましたから、下手な格好は出来なかったというか……。本当に、申し訳ありませんでした」

 そういえば玄関にもメイドさんがいたような。

 ――自分に課したノルマに押し潰される構図か。昔よく見たなー。


 「それじゃあ一つ聞きたい事があるんですけど、なんであの遺体を犯人だと決め付けたんですか? ”犯人をも発見してしまうとは”って仰いましたけど、まだあの遺体がそうだとは決まった訳じゃないでしょ?」

 アイシャは気付いたが、俺はそのままスルーしそうになっていた。

 「連続誘拐事件は二十一件あり、誘拐された人の中には大柄の成人男性は含まれていません。そしてあそこで見つかった頭蓋骨は合計二十二。一番上にあったのが大柄の男性であり、誘拐犯も大柄の男性であるという証言があります」

 「でもそれって状況証拠だけなんじゃないの?」

 「はい。しかし三日に一回起こっていた誘拐事件が突然なくなり、そしてこのような状況が現れたのですから、間違いないと思います。それに、物的証拠はこれから探し出せばいいので」

 アイシャがちらっと俺を見た。と思ったらすぐ視線を戻した。

 「一度調べたところに証拠があるかもしれませんよ。私たちも何度かそういう事があったので」

 「……ええ、分かりました」

 突っかかるかと思ったらアドバイスを送ったのか。驚かせるなよ。


 最後にアイシャが確認。

 「私たちに対して、これ以上の何かを仕掛けるという事はないんですよね?」

 「はい、ありません。お約束します」

 「……ならば……んー、さすがにあれを見ちゃったら水に流して「はい終わり」とは言えないかな。でも、話は分かりました。貴族のお仕事、頑張ってください」

 さすがは我らが勇者様。最後の一言にタイケさんは随分と感動なされたご様子。

 「本当に、心から感謝いたします」

 これで俺たちはカタルビ地方でも本当に自由な行動が可能となった訳だな。

 「……あ!」

 「ん? どした?」

 「本題! 偽魔王!」

 「ははは、すっかり忘れてたな」

 という事でタイケさんに目線が集中。

 「明日お教えします。今日はもう遅いので」

 「……分かりました」

 こうして俺たちは各々の部屋へと分かれ、就寝した。



 ――翌日。

 ちょっと早く起きてしまったので屋敷の周囲を散歩。そして帰ってきたら、俺はとんでもないものを見てしまった。

 「――うん。お願いね」

 「任せて。……マーシル、そんな顔しちゃ駄目だよ」

 「うん。でも不安で――」

 ……あの執事君、タイケさんの事を名前呼びしている。これが偽魔王の情報を一晩保留にした理由か。

 「ほら頑張って。僕の貴族様」

 「……うん」

 そして二人は抱き合い唇と唇を……って事はあの二人、恋仲なのか! 貴族と使用人の恋なんて本当にあるんだなぁ。

 ……さあーて、俺は何も見ていないので、もう一回りしてくるかなーっと。



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