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第六十八話  知りたい事、知らなければよかった事

 ――魔族領ティトナの町。

 入港翌日、俺たちが来たという知らせを聞いてか、魔貴族のミダルさんから会いに来てくれた。

 「お久しぶり……というほどでもありませんね。……プロトシア様は?」

 「えーと……」

 どう言おうか迷った様子で人に視線を向けるアイシャ。全く仕方がないな。

 「事情があり、モーリスと一緒にお留守番してもらってます。その事情なんですが……ここではちょっと」

 「……承知致しました」

 現在俺たちはオープンカフェで朝食中なのだ。さすがにこんな人通りのあるところであの話は出来まい。席は俺・アイシャ・ミダルさんとフューラ・リサさん・ジリーで分かれているが、横の三人もしっかり聞き耳を立てている。

 恐らくだが、ミダルさんはこの少しの会話で俺たちの目的に気付いた。ミダルさんは優秀な人だ。


 「ミダルさんにお願いしてた事はどうなってますか?」

 俺よりも先にアイシャが切り出した。あくまで世間話の一環としてだな。

 「交易と亜人族の一団とモーリスさんの親御さんですよね」

 しっかり覚えてもらえていた。ここは言い出したアイシャに任せるかな。

 「まず交易についてですが、順調です。現在こちらに来ている船は全て勇者様の出身国なのですよね?」

 「はい。現在の貿易ルートはポートエルダンからの単一ルートだけで、私たちの船もそこから出航しました」

 「なるほど。……正直に言いまして、両者とも緊張の中取引をしている状況です。なにせ敵同士ですからね。しかしそれのおかげで問題が起こっていないとも言えます。本番は両者がより歩み寄り、交じり合った後でしょうね」

 「……実は嫌いだったとか言い出すんじゃないかって事ですか?」

 「ええ」

 さてこれは難しい話だぞ。アイシャはどうする?

 「んー……このまま少数の交易だけじゃ特権だと問題になるし、多数になると良からぬ人も紛れちゃいますもんね。どうしましょう?」

 投げた! こいつミダルさんに問題を丸投げした! ミダルさんはそういう交易には素人だって言ってたからなー。

 「なんちゃって。こっちにはそういう事に強い人が味方にいるんですよ」

 「そ、そうですか。……あ、以前仰っていた方ですか?」

 「はい。別の国の女王陛下なんですけど、貿易大国なので専門家なんですよ。ね? ジリー?」

 食事中にいきなり話を振られたジリー。でも話の流れから来ると予想していたのか、軽く手を振るだけで済ませた。一方それを見たミダルさんはほっとした表情。

 「承知致しました。私も一度大陸へ渡らなければと思っていましたので、その際にはその女王陛下への謁見も予定に組み込みましょう」

 ミダルさんの表情を見て、アイシャも微笑んだ。


 「次に大陸から連れてこられたという亜人族の一団についてですが、見つかりました」

 「おっ!」

 と反応したのは俺だけ。それだけ俺の中ではペロ村の人たちは大きいんだな。

 「しかし、やはり上位貴族に囲われておりまして、私は一切手を出せません。所在地も西側なので……」

 「いえ、それが分かっただけでも大きな収穫です。ありがとうございます」

 偽魔王を撃破後はペロ村の人々を救出したいな。俺の次の目的だ。

 「そしてモーリスさんの親御さんですが、こちらは進展なしです。モーリスさん自身は白くて目立つ方でしたが、親御さんは恐らく普通の方でしょうからね。それにモーリスさんの人となりを鑑みるに、例え見つけたとしても認知しない可能性もあります」

 いっそシアに「モーリスの両親、出てこいや!」と言ってもらうほうがいいかも。しかしそうするとシアを復活させなければいけないし、そうなるとアイシャが……まあ無理だな。

 「何か一つでもヒントがあればいいのですけどね」

 「んー……人の心が読める特殊能力持ちって以外は何も分からないので、モーリスに関しては二の次でお願いします」

 「……個人的には私の業務を置いてもどうにかしてあげたいのですけどね」

 冗談だと言わんばかりに笑うミダルさん。でもこれ絶対本音だ。



 ――食後、港。

 移動し、深い話の出来る場所としてセプテンブリオスの船室を選択。

 船員たちは誰も居らず、ジリーが漁協で聞いたところによると、漁村の四人組はなんと地元の漁師と一緒に漁に出ているとの事。すげー。

 「――偽魔王についてですよね?」

 いきなり当てたという事は、もう分かっていたんだな。ここからの話も全てアイシャ任せにする。

 「はい。大陸側の情勢が変わってきたので、多分近いうちに本格的な戦争になります。だからその前に手を打つ事にしました」

 「小競り合いで済んでいる今のうちに、頭を潰してしまおうという事ですか」

 「はい。なので戦力として不安のあるシアとモーリスは留守番にしました」

 顎に手を当て、少々考えるミダルさん。

 「……魔王の居城はどこかと?」

 「はい」

 そしてやはり正解。さすがは地方の長。


 「申し訳ありませんが、私は魔王城に出向いた事がないので、詳細な位置は存じ上げません。ですがここから船で北に三日ほど進んだ先にある、ファーマスという港町を仕切る貴族ならば知っているはずです」

 ちょっと待て、ファーマスって銃の名前だぞ? んー……。

 「貴族……その人は」「戦争反対派ですよ」

 こちらの懸念を言い当てた。まあこれは俺でも分かる。俺たちは戦争反対派の地域を飛び石のように移動しなければならないからな。

 「先に使者を向かわせた上で、私からも紹介状を書かせていただきますので、彼女もあなた方を歓迎してくれるでしょう」

 「彼女、なんですか?」

 「ええ」

 魔貴族って女性が多いのかな? それとも偶然?


 「彼女は少々変わった性格というか……ですが、根は真面目な方なのでご安心を。ちなみに彼女の名前ですが、マーシル=カタルビ・タジ・タイケと言います」

 どこかで聞いた事のある名字だな。まさかここでも狭い世間発動か? アイシャもそれに気付き、慎重に質問。

 「……あの、その方にご兄弟は?」

 「さあ? そこまで詳しくは。以前も申しましたが、現在魔族領に住む貴族には、横の繋がりというものがほとんどないのです。……しかしタイケという名字はそれほど珍しい訳ではありませんよ」

 これまたこちらの考えを当てたミダルさん。といってもそれくらいしか可能性はないか。


 「それじゃあ俺から一つ。そのファーマスという町についてなんですけど、名前の由来はご存知でしょうか?」

 「由来ですか? 確か……開墾した人物の名前だったかと。もしやお知り合いですか?」

 「あーいえいえ。俺の世界にあったとある物がファーマスという名前なんですよ。人名由来ならば関係ありませんね」

 ほっとした。今までも所々にそれっぽい欠片はあったが、町の名前までとなると、もう避けては通れないからな。

 「興味本位なのですが、そのとある物とは?」

 「銃の名前です」

 「……カタルビ地方は良質の鉄が取れるので、鍛冶屋が多いのですが……」

 「あはは、まあ偶然偶然。あはははは」

 事実がどうであれ、偶然として処理させてもらおう。じゃないと夢が壊れるんだもん!


 次に手を上げたのはリサさん。

 「こちらに来る際、ポストキーが使用不可能となっていました。心当たりはございますか?」

 「……いいえ。魔族領内での移動ならば皆普通に転移出来ていますし、私も転移でこちらに来ましたから」

 おや?

 「リサさんごめん、ミダルさんに一つ質問。魔族でも転移魔法が使えるほどには魔力を持っているんですか?」

 「私はアイテム頼りではありますが、その転移アイテム自体は魔族領内でも精製出来ます。ただしどうしても高価になりますけれど。往復セットで一シルバーと五千ブロンズ。頻繁に使う訳にはいかない値段ですね」

 なるほど。参考にグラティアにある転移アイテムは往復セットで七百五十ブロンズなので、二十倍の値段だ。

 「しかし私のメイドには魔力を多少有している者がおりますので、普段はそちらを使います。今回は彼女が連絡係だったので魔力切れを起こしたのですよ」

 「なーるほど」

 そういえば以前来た時、ジョージさんを呼びに行ったメイドさんはアイテムは使わず転送した。あの人が魔力を持っている魔族か。


 「はい、リサさん続きどうぞ」

 「あ、はい。えー……魔族領内での移動にはポストキーは使えるのですよね? わたくしたちも問題なく?」

 「……自信がないので確実な事は。申し訳ございません」

 軽く頭を下げ謝るミダルさんだが、正直にそれを打ち明けてくれたというのは大きい。もしも大丈夫だと見栄を張られ、実は狙い撃ちされていましたーなんてなったら目も当てられない。

 なんて思っていると、意外にもアイシャが推論を述べた。

 「……もしかしたら、魔族にのみ転送の自由があるのかも。転送魔法って結構色々と制限を設けられるんだ。有効時間の指定だったり、人数指定だったり。普通はポストキー側で制御するんだけど、偽魔王が魔法側で制限をかけていた場合、専用のアイテムがないと実際に飛ばない限りは分からない」

 なんだかんだで学校に通っていただけあって、アイシャは物事を知っている。そしてリサさんの答えは?

 「納得いたしました。わたくしの世界にも転送魔法はあったのですが、特定の地点間しか移動出来ない事や一度に十人程度までしか転送出来ない事もあり、乗り物の普及と共に今では廃れた魔法となっているのです。なのでわたくし自身、魔法研究家ながら転送魔法については疎いのですよ」

 意外な弱点発見。まあリサさんは新魔法の開発中心だから仕方がないのかな? こういう事はモーリスが強そうだ。



 ――三日後。

 セプテンブリオスは北にある港町、ファーマスへと向け出航。ティトナ漁協が海図を複写してくれたので、これで道に迷わずに済む。

 ちなみにティトナで載せた積荷は、自分たち用の調味料を少々と、そして……。

 「いやーついでとはいえすみませーん」

 あの三毛猫娘さんに、ファーマスの町で仕入れをしたいので、案内をする代わりに乗せてほしいとせがまれたのだ。

 「ついでにおいしい話があれば、高く買いますよー?」

 「そっちが本音か」

 「あはははは!」

 商魂たくましい限りだな。


 っと、アイシャが手招きしたので耳を近づける。

 「大丈夫なの? スパイって可能性は?」

 「じゃー試してみるか?」

 「……どうやって?」

 こうやって。

 「あー猫娘さん」「マリって呼んでくださいな」

 麻理? 真理? まあ大方マリリンの愛称だろう。犬ならば逢いたくなるな名前であるが、このネタが通じる人は間違いなくオッサンである。

 「んじゃマリさん。現在魔族領を仕切り、戦争へと向かわせた魔王プロトシアは、偽者です。この話いくらで買いますか?」

 「……ええええっ!?」

 うん、このリアクションはマジな奴だ。文字通り目を丸くして思考回路がフリーズを起こしてる。アイシャは……笑ってる。嫌疑は晴れたな。

 「どどど、えー……どゆこと!? 証拠は!?」

 「あるけど簡単には出せないよ」

 「……あるんだ……」

 驚いてはいるがさすが商売人、ちゃんと情報の信憑性はチェックしている。

 「えーっと……それはうちの手には負えない話ですね。聞かなかった事にします」

 悩んだ様子だが、それが自身のためには一番正しい選択だろう。

 その後猫娘さんはあっちへチョロチョロこっちへチョロチョロ。その動きは猫というよりも鼠だ。



 ――ティトナを出航してから二日後。アイシャ視点。

 また酔いました……。まさか自分がこんなに船酔いするとは思ってなくて、ちょっと凹んでます。ちなみにリサさんは私よりも早くダウン。フューラとジリーはともかく、何でカナタはあんなに平気なんだろう?

 「――!」「――――!?」

 「……ん? なんだろう?」

 船室で休んでいると、外がなにやら騒がしい。まさか敵襲? だとしたら寝ている場合じゃないよね。そうでなくても野次馬したいし。

 甲板に出たら、襲撃があった訳じゃなさそうなのでちょっと安心。というかみんな海の中を覗いて指差してる。


 ……え!? 何あれ? 海から白い塔が生えてる!

 「お、アイシャも来たね。体調は?」

 「うん。……あれ何?」

 「ここの海域には古代の町が沈んでるんだってさ。あの白い鉄塔はそのうちの一つだろうね。ほら、アイシャも見てみな」

 ジリーに抱えられつつ私も海を覗く。

 「……これって、本当に町? だとしたら、コロスの何倍もあるよね」

 「だろうね。でもあたしがいた町もコロスよりも広かったんだよ」

 みんなと居ると、この世界が一番遅れているってのがよく分かる。けれどもこの町は、何かがおかしい。……そうだ、カナタに聞けば……って、カナタもすごく驚いた表情をして固まってる。


 「ねえ」「おうっ!?」

 「あはは、驚かせてごめん。……どう思う?」

 「んー……」

 そう一言唸ったまま、カナタは結局何も答えなかった。いつもとは明らかに違うその反応に、やっぱりこの町は何かがおかしくて、そしてカナタは何かを知っている。そう感じた。

 ……ならば揺さぶってみよう。方法としては、カナタの技術を分かってるフューラに聞いてみるのが一番。

 「フューラはどう思う?」

 「そうですね。年代的には……っと、んー分かりません!」

 「何それ?」

 と思ったら理由が分かった。カナタがフューラを睨んでた。私の思ったとおりだ。


 「なんでフューラを止めたの?」

 「何でもいいだろ」

 「……言ってくれないとー!」

 なんてけしかけてみたんだけど、カナタからの視線がすごく冷たい。海の底みたいに冷たくて、心を閉ざしたような感じ。今までこんな目をされた事ないよ。

 「……ごめん」

 「いや、謝る事じゃない。……そうだな、帰りにどうせまたここを通るんだろうから、その時に教えるよ」

 「うん」

 ……なんか居た堪れなくなっちゃった。船室に戻ります。



 ――ティトナを出航してから三日後。

 フューラに呼ばれて甲板へ。フューラはふらふらのリサさんを抱えてます。

 「……着いた?」

 「はい。ここがファーマスの町ですね」

 眼前に広がるファーマスの町は、赤茶けたレンガ造りの建物が斜面に広がっていて、結構高い場所まで建物がある。一見して山が紅葉しているようにも見えるかな?

 貴族のお屋敷は……分かんない。


 ……あれ? 港に入る前に船が止まった。

 「どうしたのー?」

 とジリーに聞いたら、近くの船員さんが答えてくれた。

 「停船しろって発光信号が来たのよ。まー検閲だろうね。うちらが本当に危なくないかの確認」

 「よくある事なの?」

 「グラティアの船がナーシリコに入港する時は毎回やられるよ。んでもってお役人さんが積荷の一部をワイロとして寄越せってね」

 あそこの国らしいや。


 小さなボートが一隻近付いてきた。それを見て船員さんが縄梯子を降ろし……当たり前だけど魔族の、男性が二人乗ってきた。

 「大陸からの船だな? 船長は?」

 「あたしだよ」

 舵の前から動かず、声だけ出すジリー。そっちから来いって事だよね。男性のうち一人がジリーの元へ。もう一人は甲板上の物を目視で確認してる。

 私はジリーの会話に聞き耳を立ててみよう。

 「ファーマスへようこそ。貴族様から話は聞いているが、念のため積荷を改めさせてもらう。よろしいか?」

 「ああ構わないよ。マリさん!」「はーい」

 ティトナからの乗客で、ファーマスの町を案内してもらう予定のマリさんがジリーに呼ばれた。

 「はい、積荷」

 「積荷さんでーっす」

 いきなりだから検閲官が困ってる。


 ジリーが状況を説明中。

 「おええええ」

 そしてリサさんは奥義ロイヤルリバースを披露中。フューラはそんなリサさんの背中をさすってあげていて、カナタは……上の空。

 「カナタ?」

 「……」

 「カナタ!」「んおっ? なんだ、いたのか。小さくて見えなかったぞ」

 ツッコミたいけど、でも今は後回し。

 「ねえ本当に大丈夫? やっぱりカナタは船員さんと一緒に待ってるほうが」「大丈夫だっての!」

 「大丈夫には見えないから言ってんの!」

 思わず強く言っちゃった。だって――。

 「一端でもいいから聞かせてくれない? じゃないと私だって不安だもん」

 「……はあ」

 溜め息を吐いて、ようやくカナタの表情が普段に近付いた。

 「知らなければよかった事ってあるだろ? 例えばおしどりは頻繁にパートナーを変えるとか、赤い食紅は虫から出来てるとか、牛のと殺風景とか」

 「極端過ぎ!」

 「ははは。まあ……そいうのがあったって事だよ」

 「それ以上は聞くなって事?」

 「相変わらずスッポンみたいな奴だなお前は。ちゃんと帰りに話すよ。……だから、気にするな」

 それは無理な相談。だけど、カナタはこれ以上は何も喋らないはず。ここは退こう。

 「分かった。でも絶対に帰りには話してよ? 絶対だよ!」

 「はいはい、もう分かったっての」

 本当かなぁ? 怪しい。……なんちゃって。



 ――入港、接岸。カナタ視点。

 どうにかアイシャは諦めてくれた様子。さすがにこれは、俺の中でも整理が付いていない状態で話すという訳にはいかない事案だ。しかし切り替えも大切。陸に足を着けたら、帰りにあそこに行く時まで、一旦頭から消し去っておこう。


 検閲官のうち、ジリーに話を聞いていた側はそのまま船に残り、下船の指示をしてくれるそうだ。もう一名は一通り目視した後、一人でボートに乗り戻っていった。

 セプテンブリオスは港の中でも入り口に一番近い桟橋に停泊する様子。

 相変わらず見事なミアさんの操舵で、目印ぴったりに停船。俺がスクーターでやってももう少しずれるんじゃないかな。

 「皆さんは一旦船上で待機を」

 「はいはい。全員聞こえたな!」「おう」「はあーい」

 無理はしませんとも。

 特にここで得るべき情報は、この旅の最も重要なものだ。もしも相手の機嫌を損ねてしまえば、それは旅の失敗と本格的な戦争の開始を意味する。俺たちだけではなく船員もみんなそれくらいは分かっている。


 しばらくして、もうそれはそれはあからさまに「私は貴族ですのよ」という服装の女性が来た。恐らくは彼女がファーマスの町にいる貴族だ。

 ……あーこういう人なのね、と一瞬で分かるドヤ顔で、魔法を使い浮遊しながら船に乗り込んできた。ミダルさんが”変わった性格”と評しただけはある。

 「ようこそファーマスへ。私はマーシル=カタルビ・タジ・タイケ。タイケとお呼び下さいませ。おーっほっほっほっ!」

 うん、なんというか、絵に書いたような高笑いだこれ。

 そのタイケさんだが、かなり若く見える。高校生だと言ってもおかしくない。容姿は……普通。本人を目の前にしてなんだけど、普通。顔普通・背丈普通・胸も普通。角も普通サイズのが二本普通に生えている。

 服装は貴族らしくきらびやかであり、赤いドレスにふんわりスカート、日傘を持った……貴族と言えばこれだよね、という普通に思い浮かべる中世貴族のイメージそのまま。髪型は綺麗な金色で……縦ロールって本当に居るんだな。しかし高飛車な貴族と言えば金髪縦ロールが普通じゃね?

 ともかく、普通の女性に普通の貴族の格好をさせると完成するのがこのタイケさんだ。


 さてこちらも名乗っての交渉開始なのだが……なぜかアイシャはリサさんを引っ張った。アイシャはこういうタイプ苦手なのか。しかし船上でその選択は失敗だと思う。という事で助太刀。

 「あの、本題に入る前に船から降りてもよろしいでしょうか? 船酔いしているのがいるもので」

 「……それならば仕方がございませんね。私の屋敷までご案内いたします」

 リサさんがほっとした表情をした。それを見てアイシャは失敗したという表情。分かりやすくてよろしい。

 と、マリさんが申し訳なさそうに頭を掻いた。

 「あーそうしたらうちはここで。乗せてもらっといてごめんなさい」

 「気にしないでいいよ」

 こうして俺たちはマリさんとは別れ、偽魔王の居城の情報を得るために、この普通の貴族であるタイケさんの屋敷へと向かった――。



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