表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/195

第六十話   王女VS魔王

 魔王復活の儀式、その最中に乱入しあっさりと全員の身動きを封じたわたくしは、シアさんを叱るモーリスさんを見届けました。

 モーリスさんからは魔族の恥さらし、魔王失格などの言葉が浴びせられ、その反応でシアさんの目的が、魔王という肩書きから逃亡し身を退く事であると確信いたしました。

 だからこそ、わたくしは今ものすごく腹が立っているのです。


 「あなたは魔王失格というモーリスさんの言葉に、ともすれば安心したような表情を見せた。……わたくしから言わせれば、失格などという言葉では足りません! 民を見捨て王という責務から逃げ出した大馬鹿者です!」

 我ながら感情的になってしまっています。それほどまでにわたくしはこの魔王を許す事が出来ないのです。

 「モーリスさんは聡慧ですね。一番言いたいであろう言葉を押し殺しています。分かりますか?」

 (……)

 分かっているのに反応しないおつもりですね。

 「正解は、”裏切り者”ですよ」

 (っ……)

 「あなたは魔族であるモーリスさんの立場から見ても裏切り者となった。そしてそれはわたくしの目線からでも同じ。あなたは人類側、魔族側、そしてわたくしたちすらも裏切ったのです」

 裏切り者という言葉に少しは反応いたしましたが、それでも目線を外し聞こえていないふり。


 「シアさん……いえ、魔王プロトシア。あなたは彼女、シオンさんが呟いた一言を知るべきです。彼女は今にも命を奪われかねない状況において、あなたに命を捧げる事に対して”それもいいかな”と仰ったのです。つまり! 大陸出身でありそれほど魔王崇拝の思想に染まっていない彼女ですらも、あなたに命を捧げる事を是としたのです! あなたにはそれに対してはっきりと、明確に答えを示す義務がある! しかし今のあなたは何ですか? 何もかもから目を背け逃げ続け、進むどころか前を向こうとすらしていない!」

 ようやくうなだれ始めました。しかしまだまだ反省というには程遠いでしょう。

 「よく見なさい。あなたが裏切った人を」

 (……)

 また目を背けました。さすがにわたくしの堪忍袋の緒も切れます。

 「いい加減にしなさい! あなたは一体誰を裏切ったと思っているのですか! あなたは現代を生きる魔族だけではなく、あなたに付き従い命を賭した過去の英霊すらも裏切ったのですよ!!」

 (! ……うん)

 明らかに反応しました。つまりそれは、こんな簡単な事にまで思考が回っていなかったという事。余計に落胆します。

 「今回のあなたの自分勝手な行動は、あなたのために命を落とした過去の仲間や民を侮辱し嘲笑したも同然! それがどれほど下劣で醜悪な行為であるのかは明々白々。そしてそれはわたくしたちに対しても同様です。わたくしはこういう言葉は好かないのですが、敢えて言わせていただきます」

 ゆっくりとわたくしを見上げる魔王。

 「この、クズ!!」


 「こちらは終わりました。そちらは?」

 おっと、シオンさんの側は満足した様子ですね。

 「こちらはまだ。モーリスさん、シオンさんを連れて先に脱出しておいてください」

 (うん)

 手を繋ぎ転送魔法でいなくなるお二人。

 これでここには身動きの一切取れない方々と、物理的にボコボコにされて動けない教祖、そして精神的にボコボコにしている最中の魔王プロトシアと、そしてわたくし。


 シアさんも過去への侮辱という言葉にさすがに反省モードではありますが、しかしこの問題は反省しただけでは済まないでしょう。

 「いいですか? わたくしは過去、ローザクローフィという事件を起こし、敵味方共に多数の死傷者を出してしまいました。しかしわたくしはその事と向き合い、人を助ける魔法の開発に生涯を注ぐ覚悟を決めたのです。それこそがわたくしに出来る贖罪であると、自らそう決めたのです」

 (……)

 「フューラさんも自身の手で世界を壊してしまった。しかし過去を変えるという手段を用いてその罪に向き合おうと努力をし、現在も元の世界に帰る方法を模索し、いつか世界を直そうと必死に努力しておられます。ジリーさんもです。ジリーさんは父親を殺め、未だにその光景を夢に見るそうですよ。それでも正しい道を進もうと一所懸命に頑張っています。アイシャさんもドッボの事で悩んでおられますが、あの小さな体に世界を背負い、前を向いて着実に進んでいるのですよ。モーリスさんなど、奴隷という身分であり、喋る事が出来ないという呪いを受けてもなお、わたくしたちの誰よりも力強く前を向いています」

 (……うん)

 

 「シアさん、あなたには過去と向き合い、そして前へと進む義務がある。それこそがあなたの贖罪であり、あなたが過去、現在、未来にまでも影響を与える魔族の方々に対して出来る、唯一の覚悟であり恩返しなのです。……最も残念な事は、わたくしがこれを説明しなければいけなかったという事実。あなたはいつまで罪から逃げ続けるおつもりですか? いつまで魔族を裏切るおつもりですか? いつまで、英霊たちに醜態を晒すおつもりですか?」

 (……うん)

 シアさんはくちばしで祭壇に何か書こうとしています。

 ……なるほど、「分からない」ですか。どう前を向けばいいのか、どう進んで行けばいいのかが分からないと。恐らくはお二人と一緒にアイシャさんの故郷へ行った際に何かがあったのでしょうね。

 ならはわたくしの取る手段は決まりました。

 「正直に言いまして、今回の事でわたくしの中でのあなたの評価は駄々下がりです。焼き鳥にしてやりたいほどです。しかしですね、遺憾な事にカナタさんやアイシャさんならば間違いなく迷わず手を差し伸べるのですよ。あのお二人は本当にお人よしです。何と言ってもわざわざトム王様を呼び出してまでも、わたくしを救い出すほどですよ?」

 お二人の……いえ、カナタさんの名前を出した途端に顔色が変わりました。非常に腹の立つ事に、シアさんの中ではカナタさんの存在は、わたくしの言葉以上なのですね。

 「……わたくしはあのお二方には返し切れない借りというものがあるのです。なので致し方なく、いーたーしーかーたーなーく! わたくしもあなたに手を差し伸べましょう」

 (……?)

 首を傾げてきました。しかしこれは意味が分からないという事ではなく、裏切った自分を受け入れてくれるのか? という事でしょう。

 「ふふっ、シアさんあなた、誰の前にいると思っているのですか? わたくしはこれでも王女として数十万の民を率いてきたのですよ? あなたと同じ立場にいたのですよ? それをお忘れなく。それに、最早あなたとわたくしたちの縁はそうそう切れるものではありません」

 うっすらと涙を浮かべるシアさん。やはりこの魔王は、王の器ではありませんね。だからこそ……。

 「だからこそ! この先を決めるのは魔王プロトシア、あなた自身です!」


 ……ゆっくりと頭を垂れる魔王プロトシア。

 「お願いします、という事でよろしいでしょうか?」

 (……うん)

 「はあ、仕方がありませんね。……ふふっ、お受けいたしますとも」

 (うん)

 先程よりも深く頭を下げるシアさん。

 「しかしですね、あなたが民を蔑ろにした事には変わりありません。そこは今後ずーっとネチネチと言い続けてさしあげますから、そのおつもりで」

 (うん)

 ……顔を上げず頷くシアさんを見て、一瞬ですが当時のわたくし自身を思い出しました。きっと今のシアさんに必要なのは、今までの自分をゆっくりと見直す事。過去を見直す事で未来が見える事もありましょう。わたくしのように。

  ……しかし、わたくしも随分とあのお二人に毒されているようですね。我ながらチェリノスに帰った後が心配になってしまいます。



 ――仕上げ。

 「さあて皆々様、長々とお待たせいたしました。命のお覚悟は出来ましたでしょうか?」

 ……。

 おや? 力加減を間違えて全員沈めてしまったのでしょうか?

 軽く飛んで二階席を覗くと……誰もいません。逃げられた?

 「おぁ、おひょうひゃんやー」

 力の抜けた声がいたしました。教祖ですね。

 「あなた、まさか」「いやいやいやいや!」

 あざだらけで腫れた顔を振り、大焦りで否定しました。シアさんに気を取られていてあまり見ていなかったのですが、シオンさん、これはちょっとやり過ぎのような……。

 「それで? これはどういう事でしょうか?」

 「あ、あにょ、こどもひゃんが、いっひょにてんそうしちょったのぉ」

 「モーリスさんが信者も転送させたと?」

 「うん! うん!」

 わたくしが全員殺すとでも思ったのでしょうかね? しかしおかげで手間が省けました。


 っと男性が一名……あ、わたくしをここに案内した方ですね。彼が戻ってきました。

 「いやーすまんすまん」

 あからさまに不自然ですね。もしや?

 「……あなた誰ですか?」

 「え? あー……いつ気付いたのかな?」

 やはり。

 「二階席に着いた時です。周囲は皆人間族であり、獣人族すらも一人もいなかった。あなたは最初わたくしの顔を確認し、見ない顔だと仰った。つまりその時点でこの耳には気が付いていたはず。何よりもローブで隠していても目立ってしまいますからね。なのにあなたは不審に思う事なくわたくしを儀式の場へとエスコート。おかしいですよね?」

 「ははは……正解。僕はメセルスタンのカルメル派に属する聖十字騎士団、特殊工作部隊所属の諜報員だよ。シャックリ教皇に異を唱える一派の出自でね、ここが実は……あ、やばっ」

 「……ほっほーう。そのような裏があったのですか。ご説明願えますよね? 教祖様」

 これは笑顔を絶やす訳には行きませんねぇ。

 「あ、あわわ、あわわわわ」

 本当にあわわと言う人を初めて見ました。しかしこの動揺振りを見るに、ズー教団の教祖とシャックリ教皇とは裏で繋がっていたのでしょう。つまり……。

 「そういう事ですか。諜報員さん、あなたも悪いお人ですね。わたくしを焚きつける事で、あわよくば目の上のこぶであるシャックリ教皇を失脚させられると、そう目論見ましたね? だからわざわざ戻ってきて、わざと口を滑らせた」

 「あ、あーえーと……」

 目線が泳いで顔を掻くという、あまりにも絵に描いたような反応。そしてここまで来ておきながらはぐらかそうとする言動。

 「どうやらメセルスタンの方々は、とことんまでわたくしを怒らせないと気が済まないご様子。ふっふっふっ、シアさんへの問答で溜まった鬱憤、晴らすべきお相手が決まりました」


 教祖と諜報員の男性とがヒソヒソ話を始めました。

 「のお、わしらとんでもない虎の尾を踏んでしまったのでは?」

 「あ、あはは……どうしましょうね」

 「誰が虎の威を借りた狐ですって!?」

 「いやいや!」「違う違う!!」

 「ふふっ、冗談です。しっかりヒソヒソ声でも聞こえておりましたよ。わたくしの大きな耳は、人よりも数段優れているのですからね。まあどちらにせよ、お二人にはその命を以って罪を償っていただきましょう」

 「ひいいっ!」

 本気のわたくしは、魔王よりも冷酷ですよ。

 「燃やされたいですか? 凍らされたいですか? 感電でもよろしいですよ? さあ、お好きな処刑方法をお選びなさい!」

 ゆっくり目を合わせたお二人は、同じタイミングで頷き。

 「ごめんなしゃあーい!!」「さようならぁー!!」

 全速力で逃げて行きました。


 「このわたくしがそう容易く逃がすとでも?」

 (あ、あのー)「あなたは黙ってなさいな!」(はいっ!)

 「……くっくっくっ、とある遠方の国には、狐に悪さをすると呪われるというお話があるそうですが、わたくしを怒らせるとどうなるか……目に物見せて差し上げましょう」

 火と土とを混ぜると火薬になり、爆発属性へと変化します。モーリスさんが使った小爆発もそのひとつですが、中にはあまりにも危険過ぎて人前では絶対に使えない魔法があります。

 「人前では使えない。……ふふっ、つまり人の前でなければ使ってもよいのですよ!」

 わたくしは普段は仕舞っていて使わない魔道書を用意。大きさは……百科事典に匹敵するでしょうか。こちらの世界でも使えるかどうかは分かりませんが、そんな細かい事は知りません。そして魔道書を使うという事は、それだけ大きな魔法という事です。

 (やばっ!)

 わたくしが魔道書を持ち出したのを見て、シアさんが急いで自身に防護魔法を使いました。その選択は正しいでしょう。


 「さあ、世界を抉りなさい! バーストエミッション・マキシマムエクスプロード!!」

 閃光が走り、一瞬の静寂が訪れます。

 しかし次の瞬間には周囲は暴力的なまでの衝撃と熱波に襲われ、岩山は木っ端微塵に吹き飛び、鉄は高音の熱波により容易く溶解。

 その衝撃波により元あった廃村バイズリは跡形もなく消し飛び、周囲の木々は根こそぎ吹き飛び、草の一本をも残さず燃え尽きます。

 爆煙と土煙が去ったそこには、巨大なクレーターしか残りません。


 この長い詠唱を持つ魔法は、爆発属性の最上位魔法のひとつです。

 その威力は術者を中心とした周囲一キロほどを文字通り無に帰すほどでして、坑道の奥にいたわたくしですが、一歩も動いていない現在、青い空を拝む事が出来ております。

 もちろんこれほどの威力を有する魔法がそうそう容易く使えるはずもありません。

 この魔法はこのように非常に危険なために、記述と詠唱という二つの発動方法を同時に使用するという、かなりイレギュラーなものなのです。

 使用する魔力の量も尋常ではなく、今はわたくしの八割の魔力、そしてズー教団所有の魔法障壁に封じられていた魔力を全て使い発動させました。

 わたくしの有する魔力量は、アイシャさんがワインボトル一本だと仮定するならば、ワイン樽の半分ほど、アイシャさん約百五十人分。補助があったとしても、その八割もの魔力を使用するのですから、尋常ならざる魔力消費量である事が分かっていただけるかと。



 ――それから。

 シアさんも衝撃波により何処かへ吹っ飛んで行きましたが、魔王であるシアさんならば無傷で戻ってくるでしょう。

 しかしあの二人はどこに行ったのでしょうね? ああ、教祖諜報員組の事ですよ。一応は肉片一つ残さず消し飛ばす気で魔法を使用したのですが、モーリスさんかシアさんの手引きで生きている事は充分考えられますからね。

 カミエータに乗り上空から捜索いたしましょう。


 うーん、中々見つかりません。本当に殺してしまったのかもしれませんね。諜報員はともかく教祖はそれに見合うだけの罪を犯してはいましたが。

 「リサさあーん!」

 この声は……。

 「ようやく来ましたか。既に全て終わりましたよ」

 「……本当に、申し訳ございません! さっきモーリスさんを見つけて、お隣の魔族の女性から何があったのかをお聞きしました。僕が不出来なばかりに、今回は、本当……なんと言ってお詫びすればいいか……」

 フューラさんは相変わらずですね。ここは優しい口調で接してあげましょう。

 「泣く暇があるならば手伝いなさいな」

 「……はい。すみません」

 しかしわたくしもこれで安心いたしました。全て終わったとは申しましたが、まだ一名潰さなければいけない人物がおりますし、消耗したわたくしとモーリスさんだけでは、魔術師の軍勢に囲まれてしまうと手が出せませんでしたから。


 「ところで、この惨状は?」

 「そこは聞いていないのですね。わたくしが魔法でズー教団の本拠地を周囲の岩山ごと消滅させました」

 驚きの表情で絶句するフューラさん。つまりわたくしはフューラさんをも超える力を持っているのですね。……改めてわたくし自身の危険さを認識いたしました。

 「あ、フューラさんには人を探せる機能がありますよね? シアさんが吹き飛ばされて、ついでに二名ほど埋まっているはずなのですが、分かりますか?」

 「えーと……状況がいまいち把握出来ないんですけど、とりあえずあちら方面に反応はありますよ」

 「では行ってみましょう」


 クレーターの外縁付近まで来ました。

 「ここらへんですね。えーっと……あれですかね?」

 「……ええ」

 やはりシアさんが二人を庇っていました。よくあの一瞬で庇えましたね。そこはさすが魔王といったところでしょうか? ともかく降りてシアさんとお二人を回収いたしましょう。

 「さあお二人さん、起きなさい」

 「……んにゃっ!?」「……んはっ!?」

 ほぼ同時に目を覚まし、ほぼ同時に周囲をキョロキョロ。そしてわたくしの顔を確認した途端、震えながら二人抱きつきました。

 「ひえええぇ」

 「おーやおや、わたくしとした事が殺し損ねてしまいましたか。しかしこの距離でならば確実に……」

 「お、おおおおたすけえぇええ!」

 本気で怯えています。

 「ふふっ。なんて、冗談ですよ。シアさんが庇った命ですから、今更殺す事などいたしません。しかしですね、特に教祖様。あなたには重い刑罰が課せられる事と承知しなさい」

 「は、はひいいっ!」

 「そしてそっちの! よくもまあわたくしに煮え湯を飲ませる真似をしてくれましたね」

 「ぼ、ぼくは悪くは」「あの世で詫び続けさせてあげましょう」「ごめんなさいっ!」

 「……そしてシアさん」

 (ひいいっ!)

 ってあなたもですか。

 「はあ、わたくしはあなた方に対してこれ以上事を荒立てる気はございません! はい、分かったら諜報員は教祖を連行する事。シアさんもいい加減普通にしなさい!」


 わたくしの指示に従い諜報員は教祖を転送にて連行。シアさんはわたくしに恐れつつ、助けを求めるようにフューラさんの肩へ。

 「……帰りましょうか」

 「いいえ。今回の首謀者がまだです。シャックリ教皇、あいつがズー教団の教祖と手を組みわたくしたちを陥れたのです。なのでこれから」ぐううぅぅー……。

 ……は、恥ずかしいっ……お腹が鳴ってしまいました。

 「はうぅ……」

 「あの、とりあえずはモーリスさんたちと合流しませんか? 僕からも話がありますから」

 「……分かりました」

 何も言わないでおいていただくと、逆に恥ずかしさが……。

 ともかく、おかげで頭に上っていた血が収まりました。やはりわたくしは自身の行動をもっと律しないといけませんね。

 ぐううぅぅー……。



 ――合流。

 お二人は爆心地から五キロほど離れた小さな廃村におりました。ここは廃棄されてから日が浅いようで、朽ちた様子はありません。

 「お二人とも無事で安心いたしました」

 (――――!)

 えー……っと「やり過ぎ」でしょうか。いの一番にモーリスさんに叱られてしまいました。確かにあの魔法を使うのはオーバーでした。反省です。

 「すごかったですね。モーリス君が気付いて急いで逃げたんですよ。あれがなかったら私たちも爆風に巻き込まれていたかも」

 「申し訳ございません。思わず怒りに任せて最上位魔法を放ってしまいました……」

 「えー! あれがそうなんですか! いやー……気を付けてくださいね」

 「はい。深く反省いたします」

 吹き飛ばしたバイズリ村ほどの廃村ならば、モーリスさんやシオンさんにまで被害を出していたかもしれません。……帰ったらわたくしからカナタさんに報告いたします。


 「ズー教団の信者たちはメセルスタンの兵士が来て全員拘束しましたよ。教団の中にスパイを紛れさせてたんですって」

 「ええ。先ほどその方に教祖を拘束させました」

 「あー、じゃあさっきの人とは会ったんですね」

 会ったというか、吹き飛ばしたというか……はい、ごめんなさい。

 「だけど捕まってからすぐ出られたのは私にとっては幸運でしたよ」

 「そうですね。わたくしたちも……あれ? フューラさん、あれからどれほど経っているのですか?」

 「……二日です。なので今頃ジリーさんが帰ってきているはずなんですよ」

 ど、どういたしましょう……。

 「でもアイシャさんとカナタさんには既に事情を説明してあります。なので僕の代わりにカナタさんがポートエルダンに向かいました。僕たちは王様への報告が先ですね」

 ……カナタさんならば、いっそわたくしたちよりも良かったかもしれませんね。

 「あ、そうだ。さっきモーリス君に頼まれたんですけど、私も皆さんに同行してグラティアの王様に謁見します。そしてモーリス君の専属教師にさせていただきます」

 (頼みました)

 「なるほど、そうですか。確かに現在はカキア大臣が二足のわらじでモーリスさんの勉強を見ておられますから、元教師のシオンさんが就くのは最適解ですね。ならばわたくしからもトム王様に進言いたします」

 「お願いします」(します)



 ――メセルスタン首府、バルサレツカ。中央府、教皇執務室。

 バアアアン!

 「ぬわっ!? な、なんだ!?」

 「ふふふっ、わたくしですよ。教皇様」

 この際なのでと一度やってみたかった事、足蹴でのドア破りをやらせていただきました。本当ならばドアを蹴り倒したかったのですが、普通に開いてしまいました。ジリーさんならば容易く蹴破れるのでしょうね。

 わたくしの横にはフューラさん、モーリスさん、そしてシアさん。皆さんからの許可は得ておりますのでご安心を。

 「リ、リサ様ではないかー、ははは、驚かさんでくれ。私も歳なのだぞ?」

 「ならばさらに驚いていただきましょうか」

 わたくしが呼び寄せたのは、ズー教団の教祖様ご本人。昼食後、牢に乗り込んで引っ張って参りました。

 「な……」

 「……もう終わりじゃ。この娘さんは知っておる。わしとおぬしが裏で繋がってた事をな。娘さんだけではなく、おぬしに仇なす派閥の連中もじゃ」

 絶句するシャックリ教皇。

 「……私はそんな奴など知らん」

 やはりそう来ますか。

 「ならば勝手に喋らせていただきますね」

 そもそもまともに会話が成立するとは思っていませんでしたので、これくらいは予想の範囲です。


 「シャックリ教皇、あなたの悪事は既に把握しております。ズー教団の教祖様と組み、他の派閥が争う中、ズー教団をその手腕で武装解除、解散させる。そうすればあなたの名声は更に高く轟き、その地位も磐石となり得ますものね」

 苦々しい表情が情欲をそそり……と、出てはいけない部分が出てしまいそうになりました。危ない危ない。

 「あなたの計画が変更になったのは、恐らくはつい最近でしょう。きっかけは二つ。ひとつは多国間連携協議会での魔王プロトシアの行方。もうひとつはルーディシュからラフリエへの陸上貿易航路の開放。陸上貿易航路を開放した事で、何処かの派閥からけん責を受けたのでしょう。そして急遽ズー教団の目的に魔王を探し出し復活させるという文言を差し込んだ。これは本物の魔王プロトシアを復活させ、それを従属させる事で己の誇示を目論んだのでしょう。だからこそわたくしが来た時、違う意味であれほど驚いてしまった。わたくしはあまりにも早く着き過ぎたのでしょうね」

 「……知らん!」

 「ならば何故、教皇様から直接手渡されたこの地図の中に、このようなものが紛れ込んでいたのでしょうかね? ”リサ・アスワードをズー教団殲滅部隊長に任命する。メセルスタン中央府、シャックリ教皇”。もちろんそのような部隊は存在せず、そしてわたくしはリサではありますが、アスワードという名字ではございません。ふふっ、わたくしが無事脱出する事くらいは、予測しておかなければいけませんよ?」

 「知らん!」

 「おやおや。……私腹を肥やすためとはいえ、十五年の間、国の長として座している教皇様に敬意を払うつもりでしたが、やめにいたしましょう」


 「こちらの教祖様からお聞きした三つの話、それを披露いたします」

 顔色が一層悪くなっておられますね。

 「一つ、武装カルト宗教であるズー教団の創設者、それはシャックリ教皇、あなたです。理由は前出のとおり、ズー教団を解散させる事で自身の手柄とするため。言わば自作自演です」

 「二つ、ズー教団を武装させた真の理由は、教皇反対派をズー教団を使役して暗殺するため。つまりズー教団という宗教組織は、あなたの私設暗殺部隊でもあったという訳です。想定外だったのは、この教祖様が意外と優秀だった事でしょうね。あなたの手の内で踊るには信者が増え過ぎた。結果、暴走を開始して世界征服などという絵空事を掲げるようになってしまった」

 「三つ、この教祖様と教皇様、お二人は遠縁ながら親戚同士であり、教祖様は家族を人質に取られていた。教祖様は素面でもこの性格や振る舞いのようですが、あなたはそれを利用する事を思い付き、教祖様のご家族を拉致し、彼にズー教団の教祖として立つ事を強要した」


 「……くっくっくっ、だったら何なのだ? 全ては貴様らの憶測に過ぎんではないか! 証拠はどこにある? ないであろう! はっはっはっ!」

 「ありますよ」

 「はっはっ……は!?」

 おや、気付いておられなかったのですか。

 「わたくしたちが教祖様を連れてここに来た。それがなによりもの証拠なのですよ? まさかとは思いますが、物的証拠だけが全てだと仰るのではありませんでしょうね? そのような事は子供さんですら分かりますよ。ね? モーリスさん」

 (うん)

 「それに、教祖様自身が物的証拠であるとも言えます。あーちなみにですが、教祖様のご家族は既に救出して安全な場所にかくまっておりますので、ご安心ください」


 「……そうだ。認めよう。全て認めよう。私がズー教団を作り、暗殺部隊として反対派へと仕向けた。そやつの家族を拉致し、教祖となる事を強要した」

 ようやく吐きましたね。

 「んだから何だというのだ!! その事を知るのは貴様らのみ! 今ここで私自ら息の根を止めてやろうではないか!」

 やはりそう来ましたか。しかしわたくしはともかく、フューラさんにまで勝とうとするとは。

 ……ふっ、愚かな。

 「私が長年かけて会得した究極魔法を食らうがいい! アルティ」「マジックオフ」「バーストー!! ……あれっ!?」

 この御仁、馬鹿でしょうね。魔法に対する知識が圧倒的に足りておらず、しかも才能も凡人です。

 「はあ……あなたね、その魔法は究極でもなんでもない、せいぜい上級魔法の一種です。しかもわたくしの妨害魔法であっさり防げる程度のもの。更に言えばあなた、魔力足りてませんよ」


 と、後ろからドタドタと大人数の足音が。

 「教皇様!」

 メセルスタンの兵士の皆さんですね。

 「来たか! そいつらは逆賊! 即刻捕らえて打ち首にせい!」

 ……。

 「何をしておる! 私の言葉が聞こえんのか!」

 ……。


 「魔法というものは本当に便利なものですね」

 「な、何を……」

 「おやおや、本当に気付いておられなかったのですか。この部屋での会話は全て、この街全体に聞こえているのですよ。つまりシャックリ教皇様、あなた様がお認めになられた数々の悪行の全てが、街の人々の耳に届いております」

 「な……」

 見事な絶句顔と称しましょうか、お口あんぐり目も見開かれ、言葉を失っておられます。さて放送は終わりにして、締めと行きましょう。

 「わたくしは異世界の王女として、私腹を肥やし民を蔑ろにする貴方のような存在は断固として許す事は出来ません! わたくしたちにした行いも含め、今ここで骨の髄まで燃やし尽くして差し上げたいほどです。しかしこの国にはこの国の法律というものがあります故、後の事は彼らに任せ、わたくしは退かせていただきます」

 道を開け、兵をお通しいたします。

 「……教皇様。いえ、シルベスト・クルコバル! 多数の宗教違反及び国家反逆罪、誘拐罪等により、逮捕する!」

 「や、やめい! 貴様ら私を誰だと思っている!」

 一瞬身じろぐ兵士たち。やはり教皇の権力とは大きいのですね。

 「うろたえるな! こいつは最早ただの犯罪者だ!!」

 「な……」

 この一言が効いたのでしょう、シャックリ教皇は抵抗を止め、大人しく捕まりました。……しかし名前のどこにもシャックリという言葉はありませんでしたね。恐らくは教皇としての愛称のようなものだったのでしょう。



 ――その後。

 シャックリ教皇は逮捕され……まあ宗教国家ですからね。後味は決してよいものではありませんでしたが、ズー教団に関する一連の騒動には幕が下ろされました。

 わたくしたちですが、メセルスタン内での取調べなどは一切なく、全員無事に? 我が家へと帰宅する事が出来ました。

 「あ、おかえりー」

 「ジリーさん! あー、迎えに出られなくて申し訳ありませんでした」

 「あはは、いいよいいよ」

 その後聞いた話では、カナタさんはセプテンブリオス号の船員たちとトム王様に謁見した後、アイシャさんの村へととんぼ返りしたそうです。


 わたくしたちもトム王へと謁見。シオンさんには手前の広間でお待ちいただいて、先にわたくしたちの話を済ませました。

 「――そうか。無事で本当に良かったですよ。もう無茶はしないでくださいね?」

 「はい。肝に銘じておきます」

 ええ、それはそれは深く深く刻み付けておきますとも。

 「それとひとつお願いがあります。よろしいでしょうか?」

 「聞きましょう。何かな?」

 丁度いいタイミングでモーリスさんがシオンさんを連れてきました。シオンさんは自身の角を見せた後、ひざまずきました。

 「初めてお目にかかります。私はメセルスタンで教師をやっていました、シオン・タイケと申します」

 「ああ、巻き込まれた方ですね。……教師、ですか」

 ちらっとトム王様がわたくしとモーリスさんの顔を見ました。つまり既に気付いておられるという事。あのシャックリ教皇とは大違いですね。

 「そうだ、突然の申し出で悪いのですが、よろしければあなたに王宮つきの教師をお願いしたい。いかがでしょうか?」

 「お、王宮つき!? そ、そんな」「駄目ですか?」「いえいえいえいえ! 滅相もない! 喜んでお受けいたします!」

 トム王様も中々に強引な方ですね。


 こうしてズー教団、メセルスタン、シオンさんの三つの事柄は全て終わり、翌朝にはカナタさんとアイシャさんも帰ってきました。

 ジリーさんとセプテンブリオス号による新規航路の開拓も上手く行きましたし、これでようやく一歩前に進めたといった感じでしょうか。



申し訳ありませんが、今後一ヶ月ほど休養に入らせていただきます。

十二月の早いうちに状況を報告させていただきますので、なにとぞご了承くださいませ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ