第三十二話 多国間連携協議(後編)
全く話が進まないので、痺れを切らしたリサさんから一旦休憩の提案。
「私たちも自由行動でいい?」
「他の首脳も話を聞きたがるだろうし、許可するよ。ただし屋敷の中だけ。外には出ないようにね」
「うん、分かりました」
トムからの許可も出たし、この休憩時間私たちは屋敷内で自由行動。
私はまずナーシリコのユン主席に話を聞く事にした。
「あの、お話よろしいですか?」
「……はあ、ろくな情報は出んぞ。そもそもドッボは一国民だったんだからな」
「はい。それでも聞いておかなければいけない話がありますので」
溜め息混じりで嫌々といった雰囲気。それでも話してくれるのならば御の字。
「先ほど少し話に出た、異世界から来た男性の事を探しています。もしかしたらあの魔貴族が何か知っている可能性もあると思ったので」
「知らん」
「ピンクの派手な髪をした十八歳くらいの人なんですけど」
「……知らん。そもそもドッボとはそれほど深い仲ではないんだ。精々たまに顔を見せる程度だし、前回の襲撃から今回までの間は、一度も連絡すらしていない。だから複数の国で襲撃があったと聞き、フィノスや他の国から目を付けられかねないのですぐに屋敷に踏み込んだ。しかしその時には既にもぬけの殻。置き土産は床のほこり程度だ」
これは本当に知らないんだ。
そもそも一度目の襲撃を防がなかった時点で許せる行為じゃないけれど、それを詰問するのはトムの役割。私はここで引こう。
「分かりました。すみません、失礼しました」
他の三人も声をかけたりかけられたり。そうこうしていると、フューラが試射をするというので、みんな集まった。
まず始めにフューラから技術の提供が出来ない事とその理由の話。喧嘩っ早いと評判のフィノス帝国アレクス四世は、それについて早速食ってかかっていたが、駄目なものは駄目と言われ、仕方がなく引いた。
アレクス四世が何故フューラの技術を欲しがるのかは言わずもがな。自国の力として取り込み、大陸制圧や、果ては世界征服を企んでいるんだ。そして他の首脳方も考える事は同じで、口には出さなくてもみんなフューラの技術を欲しがっている。それはトムですらも同じだ。トムは基本的に温厚で争いを好まないけど、苦々しく思っている相手はいる。
……例え相手がトムであろうとも、その動向次第では私の敵になる。私の勇者としての覚悟の中には、そういう部分も含まれている。これは私を選んでしまったトム自身の功罪だ。
準備が整い、フューラが丸いのを取り出した。
「それでは、そこにある剣と盾を破壊します。破片が散る可能性もあるので、これ以上近付かないでくださいね」
フューラは分かりやすいようにか、パチンと指を鳴らした。
黒い矢が飛んでいき、まずは剣を真っ二つにした。上がる歓声。そしてもう一発。
「――はい。両方とも破壊完了です」
「ねえフューラ、今何したの? あの黒い矢が止まったように見えたんだけど」
「はい。止めました。これが僕と襲撃者との違いです。襲撃者のレーザーは止まらず直進しかしません。しかし僕の場合は止められる」
技術云々以前に、何故そうしたのかがどうしても気になった。
「何でそれを見せたの?」
「それはですね、まずひとつ目に皆さん程度ではどう足掻いても僕には勝てないと理解していただくためです。そしてもうひとつが……」
と、もう一発。放たれた黒い矢がまた空中で止まり、進路を変え別の方向へと飛んでいった。そして――。
「うわああっ!」
と声がしたと思ったら、天井裏から人が降ってきた。暗殺者、かな。
「僕の前で血を流すような行為は、全て無力化させていただきます。……分かりましたね? ルーディシュ王国、セ・リーン女王陛下」
前半では何も弱みを見せなかったセ・リーン陛下。まさかこんなのを仕込んでいたなんて。
「……誤解ですよ。私は何も知りません」
うろたえる事はしないか。さすが何を考えているか分からない国の女王だ。
「分かりました。ならば彼に聞いてみますね」
どちらかと言えば柔らかい表情だったフューラの目が変わった。これは止めなきゃ。
「フューラ、そこまで」
「……分かりました。しかし僕がセ・リーン陛下を疑ったのには理由があります。彼は先ほど、一人になったセ・リーン陛下と密会をしています。僕は色々と性能が良いので、その会話も聞こえていましたよ」
まだ余裕の表情を崩さないセ・リーン陛下。
「ならばどのような会話をしていたのか、お答えしていただきましょうか?」
「いいんですか? この中で四人も狙っていて、今も彼以外に三人潜伏している事、そして報酬が一人五千シルバーだという事をバラしてしまっても」
値段まで……やっぱりフューラは本気にさせると怖いな。
「……ふう、降参です。負けを認めましょう。お前、命を取られない事に感謝して消えろ」
無言で頷き仕方なしにいなくなる暗殺者。
「それで、誰を狙っていたのだろうな?」
「意地が悪い。言わずともお分かりでしょうに」
シャックリ教皇の言葉にミップ首相がチクリと一言。狙われていたのはグラティア・フィノス・メセルスタン・ナーシリコの四つ。理由は簡単。先の四つの国にはそれぞれ何かしら潰したい理由が存在する。そしてラフリエは今後伸びる国であり、先行投資先。小諸国連合のマツァーラ代表に関してはそもそも眼中にない。
「もちろん落とし前はつけていただけるのだろう?」
「まあまあ、今は我々でもめている場合ではないじゃないですか」
「狙われていない小諸国連合だからこそ、そんなのんきな事を言えるのだ」
「それはつまり、狙われるような事をしていると、お認めになるという事ですね?」
「なっ!? 言わせておけば!」
また前半みたいな言葉の応酬が始まった。それを見ていたミップ首相が冷静にこう切り出した。
「魔族との戦いの前に、人類同士で血を流す事になりそうですね。我々の結束は、まるで砂上の楼閣だ。そして今その楼閣は傾きつつある」
余りに冷静な言葉と態度に、周囲も一旦息を整えた。そしてアレクス四世が一言。
「……何が言いたい?」
「我々七勢力の決裂。今回の襲撃の本当の目的はそこではないかと。つまりは人類同士での自滅が狙い。我々七勢力が力をひとつに結束しても勝てるかどうか分からない相手に、疲弊してボロボロになった国々が、一太刀でも浴びせられる可能性はどれほどあるでしょうか?」
みんな一気に冷静になった。そして――。
「我々をはめたという事か。……最も合理性のある答えだ」
ミップ首相の予想とアレクス四世の結論。さっきまでの罵り合いがまるで嘘のように静かになった。
――協議再開。
最初に立ったのはナーシリコのユン主席だった。
「正直こちらとしてはグラティアと手を結ぶのは好かないし、各々も何かしら遺恨はあると思う。しかしそうも言っていられない圧倒的な力の差がある事が、そこの彼女のおかげで分かった。今は世界の秩序を考えなければいけない。よろしいか?」
「言われずとも」
各々に小さく返事をし、協議に本腰を入れる。
陣頭指揮はやっぱりアレクス四世。
「まず、そこの鳥が本物の魔王プロトシアであり、今回の件とは関わっていないという事を確定させる必要がある」
それならば私の出番だ。手を挙げる。
「どうぞ、勇者殿」
「はい。私はシアがこの世界に戻ってきた、その最初の頃からずっと見続けてきましたけど、まず間違いなく人と同じ感情を持っています。それからとある食堂の主人が魔族なんですけど、その人に対してしっかりと対応していました。そして今は廃れた魔族の古いしきたりも知っていた。私が見た限り、この鳥は本物の魔王プロトシアです」
みんなが頷いてくれるのを待ち、話を進める。
「そして今回の襲撃との関係ですけど、勇者としてはっきり断言します。シアは今回の件には関わっていない」
「その理由は?」
「行方不明になった異世界の男性と常に行動を共にしていたんですよ。しかも私たちの見える範囲だったり、どこかに行っても誰かしらの目があった。そんな中、言葉を発せない鳥の姿で指示など出来るはずがない」
「……なるほどな。納得したよ。そちらの鳥は本物の魔王プロトシアであり、今回の件には一切の関わりを持たない。よろしいな?」
各々頷く。これひとつ安心。
「では次に、現在行方不明だというその男性が絡んでいる可能性は?」
カナタの事か。あり得ない。けど私の知識だけじゃ……。
「それについては僕が。行方不明の男性、カナタさんでは今回のような芸当は不可能です。何故ならば襲撃者はカナタさんの知りうる技術よりも進んだ武器を保有していました。もしも疑うのであれば、カナタさんではなく僕を疑うべきです」
「うーむ……貴公を疑う余地か。我々の知らない技術を用いて他者と連絡を取っている可能性はあるが……」
アレクス四世は他のみんなに意見を求めるように目をやった。
「少なくとも、あの武器への対処法を我々に教授した時点で、疑う必要はないのでは?」
ここでトムだ。そして他の首脳も頷き、これでカナタと私たちの疑いも晴れた。
「という事は全てドッボとかいう魔貴族の仕業か。ユン主席、奴に関して見聞きした事を全て話してはくれまいか?」
「そう来ると思っていた。まずドッボ家だが、そこの魔王の右腕だったそうだ」
するとシアは首を横に振った。私が通訳しよう。
「実はそれ嘘らしいんです。シア自身が話せないので全ては分かりませんけど、少なくともシアはドッボ家は知らない。なので後になって一族に箔を付けるために嘘を吐いていたんじゃないかと思います」
「……いきなり私は嘘を吐かれていたのか」
落ち込むユン主席が少し可哀想になってきた。
「はあ……気を取り直して先に進むぞ。六千年前の戦争、魔族側から見た真実を知った。魔王プロトシアは人類との交易をするために、人類側に拠点を欲した」
するとまたシアは首を横に振った。
「なんだまたか」
「あ、えっと……シア自身がそうしたんじゃなくて……少し話を巻き戻しますね。シアは自分から魔王になった訳じゃありません。誰かにそうなるように仕向けられたんです。そして、その仕向けた人物こそが、六千年前の戦争の黒幕です。そして人類側はその挑発行為にまんまと乗ってしまい、人類側からの侵攻という経緯を辿って戦争が始まった」
一区切りごとに頷くシア。
「過去についてはこの程度だ。後は……そうだな、ここ半年ほどで人が変わったようになったな。以前は気のいい奴だったが、唐突に私との距離を置き始め、一度目の襲撃も、その兆候を捉えて私から問いただしてようやく吐いた。そしてそれ以来会っていない」
「それは恐らく、偽者が現れたからでしょう」
ざわつく周囲。ここはトムに任せよう。
「半年前に偽の魔王プロトシアが現れ、我がグラティア王国の王都コロスを欲した。だからそれを悟られまいと、ユン主席とは距離を置いたのです」
「……そういう事か! 実は一時期ドッボの屋敷に他の魔族が出入りしているという話があった。魔族同士の友人が出来て、それで私と離れたんだと思っていたが、まさか偽魔王だったとは」
あ、これカナタの話と少し違う。
「あの、またひとつ。カナタが魔貴族から聞いた話では、偽魔王は角がなくて子供の格好だったらしいんです。それでも強力な魔法で数千の兵を一瞬で服従させたとか」
「いや、私は確かに魔族だと聞いた。という事はドッボ以外にも偽魔族に従う魔族が大勢いて、ドッボは単なる人類側へのパイプ役だったのか」
なんか、雲行きが怪しくなってきた。
アレクス四世が口を開いた。
「そのドッボというのが姿を消したという事は、奴らは作戦を次の段階へと進めたと考えて間違いないだろう」
”奴”ではなくて””奴ら”って言った。
「つまり複数の魔族が人類側への侵攻を企て、既にその準備は終わったという事」
嫌な予感嫌な予感嫌な予感!
「なれば我々の辿る道はひとつ! 魔族との全面戦争!」
やっぱりそうなった! 止めなくちゃ!
「待って! それじゃあ六千年前と何も変わらない!」
「臆したか? 勇者殿」
「違う! 私はもっと慎重に――」「アイシャ、もう遅いんだよ」
トムまで!?
「例えこれが誰かの策略であり、六千年前の再現だったとしても、次をのうのうと待つ訳にはいかないんだ。次の襲撃は、数万の正規兵による一斉攻撃かもしれない。いや、規模の拡大や武器の一新を考えれば、それは間違いない。人類と魔族、二つの勢力しかないのであれば、この衝突はもう避けられないんだよ」
違う。違う違う! 私はこんな結論を聞くためにここにいるんじゃない! こんな悲しみを繰り返すために勇者になったんじゃない! 何か、何か別の……。
「ふむ。では決を採る。これより魔族領内へと侵攻、諸悪の根源たる偽魔王の討伐、及び加担した魔族の制圧のため、兵を出してもよいという者は立て」
アレクス四世の主導の下、私たち以外の首脳七名全員が立ち上がった。
「ではこの決定により、我々人類は魔族への全面戦争を開始する!」
最悪だ。私は無力だった。どこで間違えたんだろう。どうすればよかったんだろう。……勇者としての決意、どこに行ったんだろうな。あはは……。
「アイシャさん……」
声の方を見ると三人とシアも心配そうな顔で私を見ていた。そうか、私そこまで本気で凹んでるんだ。本気で勇者してたんだ。……本気で……勇者、やってるんだよね! 勇者の本気、見せないと!
「皆さんにひとつお願いがあります」
「なんだね? 勇者殿」
「もう一度別の道を模索していただきたい」
「アイシャ、もう時間がないんだよ」「ならば私が時間を作る!」
気付けば七人を睨みつけていた。今の私は、いつでもこの七人を敵に回せる。
「はっはっはっ、勇者殿一人で何が出来る? 例え時間を作ったところで、この決定は覆らんのだよ。何故ならば、人類がいて、魔族がいる。この構図である限りは衝突は不可避なのだよ」
私は冷静だ。頭に血が上っている訳じゃない。相手の言い分も理解は出来る。だからこそ、私は最後のカードを切る事にした。
「ならば、私が第三勢力になります。私は人類側にも魔族側にもくみしない。私は勇者だ。例え最初は嫌々やらされていたとしても、今は本気で勇者をやっているんだ。ならば、勇者たる行動を取るまで。私は自分の信じる勇者の道を行きます」
「アイシャ、それどういう意味なのか分かってる!?」
「分かってるよ。分かってるから言ってる。人類は過去二度の戦争を反省せず、より悪い結果へと進み出したんだ。このまま戦争が本格化してしまえば、魔族はますます人類への恨みを重ねる。結果、人類は最悪の選択、魔族という存在自体を壊滅させてしまう。ならば私は、勇者としての私は、それを止める。だから、これからは人類対魔族ではなく、人類対魔族対、私」
私は立ち上がり、拳を握り締める。
「小さな私の命ひとつでどうにかなるだなんて甘い考えじゃない。私は命を奪う覚悟をしたんだ。私は本気だよ。だから、あんたらも覚悟しな!」
驚き戸惑っている七人。誰も私に反旗を翻されるとは思っていなかったんだ。その程度の甘い覚悟で侵攻を開始しようとしていたんだ。呆れる。
「みんながどうするのかは自分で決めて」
シア含めた全員に否定されるかもしれない。カナタにも。でも、私は決めたんだ。たとえ本当に一人になろうとも、第三勢力として存在してやる。
最初に立ち上がったのはフューラだった。そしてその表情は……すごく嬉しそう。
「僕はアイシャさんに付いて行きますよ。でもこれはオーナーのいる機械としてではなく、僕自身の気持ちで決めた事です。僕は戦争を止めるための機械です。その僕が、アイシャさんを選んだ。この意味は皆さんお分かりですよね?」
フューラの脅しとも取れる一言に、首脳陣は固まっている。
次に立ったのはジリー。
「あー……あんまり難しい事は分かんねーけどさ、戦争になればどちらにしろ罪を背負うんだろ? んだったら好き嫌いで決めてもいいよな。あたしはトム王の優しさが嫌いだ。そっちにいる残り六人は全員性格から大嫌いだ! だからあたしはアイシャと行くよ」
「投獄されるかもしれないよ?」
「あっはっはっ! なーにあたしに掛かれば山頂監獄の塀でも一発だ。いつでも脱獄してやんよ!」
面白い人。そして少しだけ、昔の自分を見いている気分になる。だから私はジリーに親近感を抱いている。そして頼りにしている。
次はリサさん。静かに立ち上がり姿勢を正したその姿は、間違いなく王女様だ。
「わたくしは戦争経験者です。そして多くの血を見てまいりました。だからこそ申し上げます。この戦争、最後に笑うのは魔族でも人類でもなく、我々です。そしてその笑顔は邪なものではなく、楽しい笑顔であるとお約束いたしましょう」
そして私の顔を見て笑顔で一言。
「ね?」
このたった一言で意思表明もしたし、私も楽しい笑顔をするんだと背中を押してくれた。
最後にシアだ。どうするんだろう?
……あはは、私にほお擦りしてきた。くすぐったいなぁ、もう。
「私と一緒に来てくれる?」
(当たり前!)
あはは、一番心強いかも。
「という事なので、私たち四人と一羽は、これで皆さんとは相容れない者となりました。今後ともよろしく」
「よろしくお願いします」「よろしくー」「お願い致します」「ヒューッ」
こうして勇者と魔王と異世界人たちは、世界の選択に反旗を翻しました。
――協議終了。
私たちの宣言も終わり、半ば強制的に協議を終了させました。
……でも帰りはトムと同席なんだよね。
「……」
うん、無言。
――転送され、王宮、玉座へ。
さあーて、私たちはどう怒られるのか、はたまたこの場で剣を向けられてしまうのか。
玉座のトムは、これでもかと不機嫌そう。まー当然だよね。
「ぶふっ!」
「……えーっ!?」
いきなり吹き出しやがりましたよこの王様。
「いやー、スカッとしたね。昔のアイシャを見ているようで面白かったよ」
「いやいやいやいや、ここは文句言って怒る所じゃないの?」
「あはは! 正直言ってオレも戦争したくないからね。でもあの場でそれを言う訳にはいかなかったんだよ。それこそ国を守るために悪役を買って出たんだよ。国だけじゃなくて、みんなを守るためにもね」
そうか、トムは私たちも騙してくれたんだ。
「なにせあそこにいた六人は全員、最初から戦争をするつもりだったからね。戦争をして勝ち、魔族領を手に入れる。その絶好のチャンスなんだよ。それこそ六千年前の戦争でも人類は同じ事を考えたはずだよ。だからアイシャの考える、歴史を繰り返すというのは正しい。そして繰り返させてはいけないというのも正しい」
「でも、止められなかった」
「違うよ。オレの選んだ勇者が、それをこれから止めるんだ」
私に希望を見出しているトム。ならば私は、その希望を叶えるまで。
「しかしだ。王宮からの依頼や支援はもう与えられないよ。それは他国から裏切り行為とみなされかねないし、そうなれば次に狙われるのはこの国だ」
「うん、分かった」
「それと、国内での行動制限はしないけど、国外に出れば犯罪者まがいの扱いを受けてもおかしくはないんだ。それこそメセルスタン以外でも捕まって死刑執行となる可能性もある。今まで以上に気を付ける事」
頷く私たち。そしてトムは大きく溜め息を吐いた。
「はあ……アイシャ、後悔はしないでくれよ」
遠回しな言い方だけど、それはつまり私たちを心では応援し、門出を祝福してくれるという事。
「当たり前じゃん。私を誰だと思ってんの? トムが選んだ勇者、アイシャ・ロットだよ」
私は笑って見せた。もしかしたら、これがトムに見せる最後の表情かもしれないから。
……いや、絶対にそうはさせない。私は何度でも笑顔を見せてやるんだ。
それが、私の選んだ勇者の道だから。




