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番外その1  王国協賛謝肉祭競馬レース

馬順

1番  ナンデモイチバン / 2番  オヅラキャップ / 3番  マカナイテイショク / 4番  ンードーデショー / 5番  ナチュラル / 6番  オオモリツユダク / 7番  オマカセカクテル / 8番  ヤマノオトーサン / 9番  エターナルフォース / 10番 ハクエンバンチョー / 11番 ドラッグチャンポン / 12番 トッカンテツヤオー / 13番 エンドオブデステニー / 14番 ウイニングビクトリー / 15番 キューティクルモンスター / 16番 ファステストブレイク / 17番 ミレニアム / 18番 ディアーフレンド / 19番 スンゴイショーゲキ / 20番 ツギハギパラダイス


馬券

カナタ 3-6 / シア 5-12 / アイシャ12-19 / フューラ7-11 / リサ  3-14 / ジリー 3-7

 「号砲と共に各馬一斉にスタートを切りました。先頭を行くのは5番の「ナチュラル」。それを追って8番「ヤマノオトーサン」と10番「ハクエンバンチョー」と続きます」

 「このレースは普通の競馬とは違い、とにかく距離が冗談じゃなく長いです。なにせ王都を三周ですからね。なので序盤から飛ばすこのあたりの馬は、後半間違いなく歩きます」

 「まるで校庭十周をペースを考えずに最初から全速力で飛ばす小学生を彷彿とさせますね。そしてランナーですが……おおっと!? まさかまさかの唯一の女性ランナー、服役囚のジリーさんがいきなり先頭を快走しております!」

 「間違いなく後半歩きますね」

 「あはは、わたくしもそう思います」


 「さて馬の先頭集団は南大通を抜けて南西の広場へと向かいます。ここは道は広いですが左右に振られるので、位置取りを間違えると早速の落馬の危機となります。先頭は先ほどと変わらず5番「ナチュラル」。二位集団に8番「ヤマノオトーサン」10番「ハクエンバンチョー」も変わらず、四位以降はごっちゃりと固まっておりますが、ここで1番の「ナンデモイチバン」が出てきました」

 「この馬はとにかく一番が大好きだとの事で、勝てないと見るやレースを棄権する事すらもあるそうです」

 「競走馬としてそれはどうなんですかね」

 「私は結構好きですよ。ちなみにですが兄弟馬には幸運持ちや狂うと書いての狂走馬などもおり、中々個性的な一族のようです」


 「先頭集団は南西広場を右折。ここで第一の難関、狭い道へと入って行きます」

 「前年はここで先頭が詰まって大荒れでしたからねー」

 「そうですねー。さて先頭は相変わらず5番「ナチュラル」。さすがに速度を落としてはおりますが、これは狭い道だからでしょう。……おおっと!? ランナーの先頭を快走していたジリー選手がまさかの馬の最後尾集団に追いついた!」

 「これだけ飛ばして汗ひとつかいていませんよ。これはひょっとしたらひょっとするかもですね」

 「ひょっとしますかね? っておーっと! 最後尾を走っていた16番「ファステストブレイク」がジリー選手に気を取られ落馬!」

 「ファステストでブレイクしちゃいましたね」

 「なるほどファステストを、ではなくファステストで、だったんですね。あーちなみにこのレースは落馬しても乗り直せたならば何度でも続行可能です」

 「あージリー選手が止まって手を貸していますね」

 「しかも頭を下げています。自分のせいで焦らせちゃったという事でしょうか。この行動には正直わたくし驚いております」

 「私もです」


 「さて各馬団子状態で西大通へ。ここから北大通までは上り坂が続きます。さあ早速快走していた5番「ナチュラル」の足が鈍り始めたぞー!」

 「まだ一周もしていないんですけどね。とはいえ馬を一旦休ませる戦法かもしれません。なにしろここまでコースが長いと全力で一周なんてどれほど強心臓の馬でも不可能ですから。それを三週。一体誰なんですかね? こんなコース設定にしたのは」

 「過去の王様でしょうけれど、資料が残っていないんですよね。なにせ……おっと先頭変わって1番「ナンデモイチバン」が来ました。これで名実共にお前が一番だ!」

 「二位には価値なんてありません。一位にならなきゃ意味ありません。偉い人にはそれが分からんのです」

 「全くです」


 「一方ランナーはと言いますと、相変わらず快走のジリー選手の後ろは……ずーっと離れて優勝候補のアンペア選手とヨー選手が競っていますね。そこから他の選手とはもう百メートル以上離れていますでしょうか」

 「驚くべきはジリー選手ですね。足の速さもありますがあの体力。普通の女性ならばあれだけ飛ばせば今頃息が上がって止まっていますよ。なのに表情ひとつ変えずに快走です。まるで魔法ですね」

 「ははは。えーちなみに資料によりますと、ジリー選手は一切魔法が使えないそうです。周囲からの補助も不可能である以上、あれが実力である事は疑いようのない事実です。山頂監獄で鍛えられたんですかね?」

 「ランナーは山頂監獄で鍛えるという風習が生まれる可能性」

 「ははは、ないない」

 「ですよねー」


 「西大通から北西の広場までは幅も広く一直線ですが、その代わり所々に斜度の大きい坂があります。毎年、三週目には全馬歩く場所ですね。それでも歩きながらも小さく競り合いをするのが見所でもあります。早速1番「ナンデモイチバン」が一つ目の急坂に突入。続いて二位争いの「ハクエンバンチョー」「ヤマノオトーサン」「ナチュラル」と続きます」

 「この四頭は一周もすればバテて実況に上がらなくなります」

 「でしょうね。それよりも後続は2番「オヅラキャップ」が従えています」

 「たてがみがカツラではないかという疑惑のある馬ですね。まさに帽子のようにカツラをかぶっていると。そしてこの馬の特徴ですが、牝馬が前にいるとすぐ抜きたがる事と、朝が元気だという事ですね」

 「朝から元気ですぐ抜くんですね」

 「お盛んですね」

 「ですね」

 「残念ながら今回はジリー選手以外全員男ですし、昼間です」


 「さあ各馬坂に差し掛かりました。やはり体力重視と速度重視とで分かれます。2番「オヅラキャップ」と4番「ンードーデショー」、そして9番「エターナルフォース」が上がってきました。前方で快調に飛ばしていた5番「ナチュラル」は既に歩いています」

 「4番の馬は国内唯一「ン」から始まる馬名を持っています。実況として呼びにくさはありますか?」

 「んーどーでしょー?」

 「言いたいだけですね。そして9番「エターナルフォース」は一言で表せば馬鹿です。冷たいのが大好きで、客がアイスをほおばっているとレースを忘れてねだりに行くほどの馬鹿です。ちなみにこの世界にもバスはないので答えはゼロ人ですね」

 「はいここメタパロ発言です。では戻りましょう」


 「坂を一番に突破し北西の広場に到着したのは8番「ヤマノオトーサン」。続いて1番の「ナンデモイチバン」がのぼり切りました。以降「オヅラキャップ」「ンードーデショー」「ハクエンバンチョー」「エターナル馬鹿」と続きます」

 「優勝候補と見られている各馬は三周目に本気モードに入ると思われるので、順当といえば順当でしょう」

 「さてランナーは……この坂をもろともせず、唯一の女性ジリー選手が猛烈な勢いで駆け上がっています!」

 「馬よりも体力あるんじゃないですか?」

 「ジリー選手、一体何馬力なんだ!」

 「一人力でしょ」

 「……いや、まあそうなんですけど」


 「さあ北西の広場を右折すると北大通へ、そして北大通を若干南下して北東の広場までのこの区間、ずーっと幅の広い直線的なコースとなります。ここをどう扱うかでジョッキーの頭脳も試されます」

 「飛ばして一気に差を付けるか、逆にペースをセーブして体力消耗を最小限に止めるか。最初から飛ばしていた馬はここで休憩するのがセオリーです。恐らくはランナーのジリー選手も一息入れるんじゃないですかね」

 「ではここで改めて現在の順位をおさらいしましょう。一位は8番「ヤマノオトーサン」。以下「ナンデモイチバン」「オヅラキャップ」「ンードーデショー」「エターナルフォース」「ハクエンバンチョー」が先頭集団を形作っております。そして七位以下は6番「オオモリツユダク」を先頭に11番「ドラッグチャンポン」20番「ツギハギパラダイス」が並び、13番「エンドオブデステニー」14番「ウイニングビクトリー」が続きます。少し離れて一度落馬した16番「ファステストブレイク」がこの位置。後方は未だ団子状態で18番「ディアーフレンド」19番「スンゴイショーゲキ」3番「マカナイテイショク」……そしてランナーのジリー選手がいた! 馬群に混ざる若い女性! しかも物凄く足が速い! 何なんだ彼女は!?」

 「馬もぎょっとした表情で見ていますよ。そりゃー走ってる自分よりも速く走る女性を見たら、こういう反応になりますよね」

 「馬の実況なんてどうでもいいから彼女を追い続けたくなりますが、そこは我慢!」


 「各馬直線コースに入り、ここで後方集団から20番「ツギハギパラダイス」が速度を上げた。一気に先頭に並ぶつもりでしょうか」

 「でしょうね。この馬はとにかく曲がらない馬だそうです。なので飛ばせる時に飛ばしておくという戦法なんでしょう。直線番長というやつですね」

 「なるほど。そしてその直線番長が「ハクエンバンチョー」と並んだ! 番長対決勝つのはどちらだ? っと「ハクエンバンチョー」勝負をしない」

 「勝負は五連ヘアピンでしょうかね? 「ハクエンバンチョー」は排水溝に片足を突っ込むのが得意らしいですから」

 「なーるほど、だから白い毛に黒いたてがみなんでしょうか?」

 「それは知りませんが、豆腐は食べないそうです」

 「親父が泣いているぞ! ハクエンバンチョー!」


 「さて20番「ツギハギパラダイス」が快調に飛ばしている間、他の馬はお互いけん制し合うだけで際立った動きはありません。そしてランナーのジリー選手と二位のアンペア選手までの差は歴然でありまして、ようやくランナーは坂を上り切ったところに対し、ジリー選手は既に北大通を通過しています」

 「最後尾に位置している17番「ミレニアム」が完全にジリー選手に置いていかれていますからね。しかしランナーは一周ですが馬は三周しますから、決して「ミレニアム」が残念な子という訳ではありませんよ。何より駄目な子ほど可愛いと温かい目で見てあげるほうが心に余裕が生まれます。親の顔よりも青画面を見るなんて話もありますけどね」

 「メタいですねー」

 「メタいですねー。だからオマケ代わりの番外編にしたんでしょう。そもそも私とカミマクールさんしか発言しませんし」

 「素晴らしくメタいですねー」

 「ですねー」


 「直線コースも終わり、北東の広場をまずは20番「ツギハギパラダイス」が通過。それを追って2番「オヅラキャップ」が上がってきました。ここから東大通までは下り坂となります。速度が出るわりに道が狭くコーナーも多いので、毎年オーバースピードでコーナーに進入し、曲がりきれずに脱落する選手が出てきます。さて曲がらないと評判の「ツギハギパラダイス」ですが……かなり速度を落としましたね。ここの区間は捨てる気なのでしょうか?」

 「恐らくはそうでしょう。馬にとっては休憩、ジョッキーにとっては神経が磨り減る事になりますね」

 「なるほど。さて各馬コーナーに入って行きます。第一コーナーはやはり皆慎重だ」

 「問題は第三コーナーですよ。直前の坂が他よりも少し急な上にコーナーのアールも鋭いですから」

 「なるほどなるほど。さあ先頭「ツギハギパラダイス」がその第三コーナーへと……ああっと!! 曲がれずにコースアウト!! 馬もジョッキーも無事ではありましたが、早速肝が冷える展開!」

 「ハクエンバンチョーがここに来て飛ばしてますよ。さすがはダウンヒルに強いだけありますね」

 「確かに他の馬よりも速いですね。そして……ああっと! 15番「キューティクルモンスター」落馬! それに釣られて後続も止まってしまった! その横を華麗に追い抜くジリー選手!」

 「ジリー選手これで馬の中にいて十二位ですよ。しかも人なので下り坂も容赦なく飛ばせますから、もっと上に行けるかもしれません」

 「否が応にも期待が高まりますねー」


 「さあ各馬続々と坂を下っておりますが、落馬とまでは行かなくても曲がりきれず止まってしまう馬がいます。そんな中でも快調に飛ばすのが10番「ハクエンバンチョー」。そして意外や意外、下馬評やわたくしたちの予想を歯牙にもかけず、5番「ナチュラル」がここで復活!」

 「いえこれは元々遅くなっていたので楽に下ってるだけですよ」

 「そんな姿もナチュラルでいいんじゃない!」

 「それが言いたかっただけですね。とはいえ事実速度の強弱に苦しんでいる他の馬を尻目に、軽やかにコーナーを曲がっていきますね」


 「北東の坂を下ると一旦直線コースとなり、その後東大通へと出ます。先日襲撃があり幾つかの家屋が被害に遭いましたが、コースは例年通りのままです。東大通から南東の広場までは緩い下りと緩いカーブが連続し、北東とは一転しての高速バトルへと発展します。ちなみにわたくしの実家もすぐそこです」

 「被害は大丈夫だったんですか?」

 「ええ、どうやら大砲の射程外だったようなので。っと言ってる間に10番「ハクエンバンチョー」が東大通へと下りてきました。二位に20番「ツギハギパラダイス」、三位に1番「ナンデモイチバン」と2番「オヅラキャップ」が並走。五位には11番「ドラッグチャンポン」がつけています」

 「この11番「ドラッグチャンポン」ですが、なんと酒屋で飼われている馬でして、ビールやワインも行ける口で、むしろお酒が入っているほうが速く走るとの事です。そして一番好きなのが色々なお酒をチャンポンして飲む事。ウォッカやテキーラ、果ては養命酒すらもチャンポンするという、とんでもない馬ですね」

 「道交法では馬も軽車両なのでジョッキーが飲んでいると飲酒運転になりますが、馬自体が飲酒しているとどうなんですかね?」

 「お答えしますと、馬が飲酒している場合は整備不良にあたります。ちなみに速度違反や駐車違反にもなります。もちろんこの世界に道交法はありませんので、人に迷惑をかけなければ大丈夫ですけどね。それよりもカミマクールさんがジョッキーとジョッキをかけなかった事が一番の整備不良だと思うんですが」

 「はっ! わたくしとした事がっ!!」


 「んんっ! えー気を取り直しますと、馬では10番「ハクエンバンチョー」、ランナーではぶっちぎりでジリー選手が一位となっています。残りのランナーですが……一部は既に棄権して近所のお店で呑んでいるようです。そしてアンペア選手とヨー選手は未だに並んでいまして、現在下り坂に差し掛かったところですね」

 「恐ろしいのはジリー選手ですよ。これだけ走ってまだ余裕が見えますからね」

 「っとこちらの声が聞こえたようですね。大丈夫ですかー? ……手を振る余裕があるっ!」

 「そして可愛いっ」

 「否定出来ないっ」


 「先頭集団は南東の緩やかなカーブの連続する区間へ。ここは鈴鹿サーキットの第一からデグナーまでの区間に似て、テンポよく曲がればそれほど減速せずに通過出来ます。コーナーに強い10番「ハクエンバンチョー」にはまたもや得意区間と……おっと? ここに来て「ハクエンバンチョー」がスローダウン!」

 「ずっと先頭集団にいましたからね。そろそろタイヤならぬ足がタレてきたんでしょう。ピットで足を交換する訳にはいきませんから、これで優勝争いからは脱落ですね」

 「もうメタなんて気にならなくなっている我々です」

 「所詮オマケ、所詮番外ですから」

 「はい。さて話を戻しますと、10番「ハクエンバンチョー」が首位争いから転落。現在の一位は20番「ツギハギパラダイス」です。しかしカーブが苦手な馬なのであまり速度が出せない様子。そして1番「ナンデモイチバン」と2番「オヅラキャップ」が仲良く「ツギハギパラダイス」との差を縮めています。四位以下は再び隊列が組まれており、ずーっと目立たずにいた18番「ディアーフレンド」が四位集団の先頭を走っております」

 「この「ディアーフレンド」ですが、何故か鹿と一緒に育てられた馬でして、文字通りの馬鹿です。そして鹿は英語でディアー。つまり”友達へ”という意味ではなく、”友達は鹿”という意味の名前だそうです。9番「エターナルフォース」は冷たいものに目がない馬鹿でしたが、この「ディアーフレンド」はただの馬鹿だそうです」

 「なるほど。その割には結構まともに走っていますね。……と言った傍からなにやら……お食事中の方にはお見せ出来ない物体を放出中です!」

 「走りながらとは、さすがですね」


 「先頭変わりまして1番「ナンデモイチバン」が南東の広場を通過。ここから南大通に出て二周目に入るまでは幾つかのクランクと直線道路を結んだカクカクした区間となります。一ヶ所道が極端に狭くなっており、毎年のようにここで落馬や棄権があります。特に一周目はまだ速度が出ており、しかも馬群が形成されたままなので何かが起こります」

 「昨年は一周目でいきなり四頭棄権しましたからね。今年はどうでしょうか」

 「さあ各馬その狭い道へと……ああっと! 早速18番「ディアーフレンド」が落馬! それに巻き込まれ一番人気の3番「マカナイテイショク」と14番「ウイニングビクトリー」も落馬!」

 「あーこれはまずいですね。ジョッキー踏まれたんじゃないですか?」

 「これは……落馬した三名から棄権の白旗が振られました。残念ながら18番「ディアーフレンド」3番「マカナイテイショク」14番「ウイニングビクトリー」がここでレース棄権です」

 「一番人気が一周も出来ずに消えるとは、荒れますねこれ」

 「ですね。あーみなさん馬券のポイ捨てはおやめください! 馬券売り場にての回収にご協力ください!」


 「さてまずは一周目が終わります。一番で南大通に現れたのは……1番「ナンデモイチバン」! その名前の通り、一周目の一位を掻っ攫いました!」

 「すっかり満足げな表情ですね。あーこれ一周レースと勘違いしてるパターンですよ」

 「あ、本当ですね。このレースは三週ですよー! 後二周残ってますよー! ……いやマジですから!」

 「あはは、大焦りですね。ペース配分がおかしくなっているのでこれで「ナンデモイチバン」の優勝も消えたでしょう」

 「三日天下ならぬ半周天下でしたね。さて後続で最初に来るのは……2番「オヅラキャップ」だ。そして間を置いて20番「ツギハギパラダイス」が来た」

 「実は過去百年間で、一周目を三位以内で通過した馬が優勝した事は一度もありません。そういった良くないジンクスもあり、それを知る馬は一周目から飛ばす事はしないんですね」

 「という事はこの三頭の未来は閉ざされたのか? はたまた運命に抗いきるのか? 注目ですね。さて後続ですがおおっと!! まさかまさか四位にジリー選手が来た!! なんという事だ! 人が馬を越える瞬間がやってくるとは!!」

 「信じられませんね。一見して息が乱れた様子もありません」

 「ここでジリー選手ゴール! ……あージリー選手、ランナーのレースは終わりですよ! 一周ですよ!! 馬が三周、人は一周です!」

 「という事は三周するつもりであのペースだったんですね。本当に何者なんでしょうか」

 「さあ? 資料には山頂監獄の服役囚としかないんですよ。もしかして本当に山頂監獄で鍛えられた?」

 「後でご本人にインタビューしてみましょう」



 「さあ馬群は二周目へ。さすがに各馬ペースが落ちてきていますが、その中でも意外と元気なのが2番「オヅラキャップ」。女性からの黄色い声援に何かが敏感に応えております。さてここからはダイジェストでお送りいたします」

 「メタいですねー」

 「ええメタいですねー」


 「二周目南大通から西大通までは各馬順調に走り動きはありませんでした。そして西大通からの急坂。ここで一気に抜け出したのはまたも山に強い8番「ヤマノオトーサン」。ワーニール出身馬で山登りには慣れているからこそでしょう。そしてもう一頭13番「エンドオブデステニー」が一気に上位集団へ。この時点で上位集団は「ヤマノオトーサン」「エンドオブデステニー」「オヅラキャップ」「ツギハギパラダイス」の四頭です」

 「意外なのが13番「エンドオブデステニー」ですね。馬主が中二病という特殊な精神病に臥せており普段は放置プレイであり、馬主のおばあちゃんが秒間数万枚焼くクッキーを食べての出場と、七難八苦の人生、この場合馬生を送ってきています」

 「よく心が折れませんね」

 「とっくに折れているのかもしれませんよ。だからこれ以上折れない。この馬の強みはそこかもしれません」

 「はあー、なるほど。そしてここでランナーのアンペア選手とヨー選手が仲良く手を繋いでゴール。もうお前ら結婚しちまえよ」

 「しかし男同士だ」


 「さて坂を上ると北東の広場までは直線コースです。ここでも一周同様に20番「ツギハギパラダイス」が激走を開始、二位以下を大きく突き放します。そしてここで何故か15番「キューティクルモンスター」が棄権します」

 「下り坂での落馬が響いたようでして、ジョッキー判断でのレース棄権ですね。後の検査でやはり落馬のせいで精神的ダメージを負っており、それが原因でキューティクルを劣化させたのが棄権の理由のようです」

 「なるほどさすが「キューティクルモンスター」、たてがみの美しさは何にも勝るという事ですか」

 「プロ根性ですね」

 「しかし走りに対するプロ根性は持ち合わせていない様子です」


 「各馬直線コースを終え、問題の下り坂へ。一周の事があったので各馬慎重になっています。しかしそんな中やはり10番「ハクエンバンチョー」のダウンヒル最速伝説が炸裂、順位を三位にまで上げます。そしてここでも一頭棄権。4番「ンードーデショー」が特に見せ場を作る事もなく落馬し、メークドラマ失敗」

 「賭けていた観客からは「お前プリティだろ!」なんて罵声も飛んでいますね。実際はどうなんでしょうね?」

 「さあ?」

 「……」

 「なんですかその目は? またあれを言えと?」

 「んーどーでしょー?」

 「もういいですね。はい次」


 「南東地区に入り、順調だった先頭集団が次々にスローダウンし、一気に先頭の顔ぶれが変わります。二周目を終えた時点で一位に二番人気の12番「トッカンテツヤオー」が躍り出まして、二位に19番「スンゴイショーゲキ」、三位に7番「オマカセカクテル」がつけます。以下6番「オオモリツユダク」16番「ファステストブレイク」17番「ミレニアム」と続きます。そしてここで勝てないと悟ったのか1番「ナンデモイチバン」が一番中途半端にレース棄権」

 「一周レースだと勘違いしていたのが痛かったですね。それがなければ上位完走していたでしょう」

 「実力はあったはずなのに、惜しい」



 「三週目に入り、南大通から西大通へ。各馬疲れが見えますが、ここでの脱落者はいません。例年この区間ではペースを崩す馬が多いのですが、今年は一周目の16番「ファステストブレイク」以外は何事もなく通過出来ました。そして三度目の上り坂へ。ここはやはり例年通り各馬歩きます。このスローペースの競り合いでは馬の目線がよく分かるので、どの馬がどの馬をライバル視しているのかが一目瞭然となります。そんな中やはり8番「ヤマノオトーサン」が一気に順位を上げます」

 「さすがと言いますか、上りに関しては出走二十頭中でも断然トップですね。ただし平均的に見れば他よりも一段劣る速度です」

 「だからこそこの坂に全てを賭けているとも言えますね」

 「そうですね」


 「坂を上りきった時点で一位12番「トッカンテツヤオー」、二位に一気に躍進した8番「ヤマノオトーサン」、以下19番「スンゴイショーゲキ」7番「オマカセカクテル」と続きます。そして北大通を挟む直線区間では、二周目までは後方に待機していた有力馬が一斉に速度を上げ、前半飛ばしていた馬たちを置き去りにしていきます。しかしここで意外な伏兵が現れます。それがスタートと同時にいきなり全力で飛ばした5番「ナチュラル」と、対照的にずっとビリだった17番「ミレニアム」の二頭」

 「5番「ナチュラル」は前半飛ばす事でレース全体のペースを崩し、かつさっさと体力温存する事で自身は楽に走るという戦法を取ったんでしょう。これが大はまりです。そして17番「ミレニアム」は最後尾からのんびり走っていたのでここぞという時に力を発揮出来たんでしょうね」

 「なるほど。ここに来てようやくまともな解説をいただけたところで先頭はダウンヒルへと突入します。一周目二周目とぶっちぎりだった10番「ハクエンバンチョー」ですが、既に先頭集団からはかなり離されており、ここからの巻き返しは厳しいと言わざるを得ません」

 「8番「ヤマノオトーサン」や20番「ツギハギパラダイス」のように要所要所だけ飛ばす戦法ならば上位にも入れていたでしょうが、前半から先頭グループに混じっていましたからね。あとは掟破りの地元走りでもしない限りは無理でしょう」

 「ちなみに当たり前ですがショートカットはどれだけ些細なものであっても一発退場です」


 「さてそのダウンヒルですが、ここで順位を上げたのが16番「ファステストブレイク」です。最初の落馬の失態を取り返すかのように、まるで流れるように華麗に坂を下ります。そしてここに来て7番「オマカセカクテル」と11番「ドラッグチャンポン」の二頭が絡み転倒。二頭共に棄権となってしまいました」

 「ダブルクラッシュですね。飲んだら乗るな、乗るなら飲むな。自分は飲んで運転しても大丈夫だ、なんて思っている時点で判断力が低下している証拠ですからね。あなたが殺してしまう相手は自分の親かもしれないですよ」

 「はい、いい事言ったので次に進みます」

 「これぞ無常」


 「ここからは現在の様子をお伝えいたします。坂を下り終えたところで一位は12番「トッカンテツヤオー」二位に19番「スンゴイショーゲキ」三位に6番「オオモリツユダク」となりました。ここから先は高速テクニカルレイアウト。優勝を狙えるのはこの三頭のほかに、5番「ナチュラル」16番「ファステストブレイク」17番「ミレニアム」の合計六頭に絞られます。一位集団と四位集団との差はないに等しいのでどの馬にも優勝のチャンスがあります」

 「勝負はこの先クランク区間ですね。特に狭い道をどれだけスムーズに抜けられるのかが鍵になります」

 「一番に南東の広場を回ったのは12番「トッカンテツヤオー」。やはり突貫調教が効いているようです。二位は6番「オオモリツユダク」が来ました。三位以下はほぼ横並びです」

 「この6番「オオモリツユダク」は棄権した3番「マカナイテイショク」の従姉妹筋に当たります。一族の無念を晴らす事が出来るかどうか」

 「おっとここで一気に5番「ナチュラル」と16番「ファステストブレイク」が三位集団から抜け出した! 狭い道に突っ込む12番「トッカンテツヤオー」と6番「オオモリツユダク」の尻にガッチリ食いついたぞ!」


 「さあ狭い道を抜け、あとはクランクひとつと右直角コーナーひとつのみ! しかし12番「トッカンテツヤオー」中々ペースが上がらないぞ?」

 「徹夜テンションが切れたようですね。このままだとゴール前に居眠り運転で事故を起こしそうですよ」

 「ジョッキー懸命に鞭を入れるがまぶたが重い! そして6番「オオモリツユダク」も思ったほどペースが上がらない! 食べ過ぎで胃もたれを起こしているのか? それとも食後にいきなり走るとお腹が痛くなるあれか?」

 「食後の運動の痛み関しては現代医学でも解明されていないそうです。あ、この世界のではなく、現実世界の医学で、ですよ」

 「なるほど。そして12番「トッカンテツヤオー」に後方三頭完全に並んだ! あとは右に直角に折れればゴールだ!」


 「最初にコーナーを抜けたのは12番「トッカンテツヤオー」その次「オオモリツユダク」、間を置かず「ナチュラル」と「ファステストブレイク」。さあ四頭が来た! 来た! 四頭並んだ! 各馬横並びだ! 意地の張り合いだ! 鞭が入る! 鞭が入る!! 鞭が入るっ!!! 今年の謝肉祭レースを制したのは……「ファステストブレイク」だあああっ!!」

 「うわーこれはすごい!」

 「そして二着は……なんと5番「ナチュラル」だ! 一旦いなくなったかと思ったのは作戦で、まさかレースをここまで自分のものにするとは!」

 「いやーここ数年で一番のレースでしたね」


 「優勝した16番「ファステストブレイク」が、同じくランナーで優勝したジリー選手の元へと歩み寄ります」

 「あはは、「ファステストブレイク」がジリー選手を乗せましたよ」

 「自分のせいで落馬したと謝罪していたジリー選手ですが、その落馬した「ファステストブレイク」が優勝した上に、自身もぶっちぎりで優勝してしまうとは、すごい事になりましたね」

 「これだけの長距離レースだからこその展開でしょうね」

 「でしょうね。いやー久々にいいレースでした」


 「さて……続々と各馬ゴールしておりますが、ここで実況を一旦終え、本編へとお返ししたいと思います。実況はわたくしカミマクールと」「解説のバジートフでお送りいたしましたー」



番外なのでちょっとだけはっちゃけてみました。

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