第二十三話 王都襲撃 南
ジリーの移送直前に起こった何者かによる王都襲撃。
俺たちは急ぎ庭へと出て状況を確認。街の東側から黒煙が上がっており、やはり大砲のような兵器が使われている事がうかがえる。
「……誰が、こんな……」
「といっても心当たりは一人しかいないけどな」
モンスターとの戦闘には慣れていても、市街地での対人防衛戦となると不安顔を覗かせるアイシャ。
一方のトム王はさすがといった感じで勇ましかった。
「攻撃は街の東側からのみか。急ぎ全軍向かわせろ!」
「待った! 念の為王宮に親衛隊くらいは残すべきだ。それに陽動の可能性も捨てきれない」
「……よし、最低限の防衛人数は残せ!」
俺の懸念を理解してトム王はあっさりと命令を変更した。この切り替えの早さこそが若き王の長所か。
さて次はこっちだ。
「俺はフューラとリサさんを捕まえる。アイシャはジリーを連れて前線だ。着いたら前線兵士の指示に従うように!」
「分かった!」
「ジリー、お前はアイシャの指示に従え。暴れてもいいが死ぬなよ!」
「わーった!」
アイシャとジリーはそこに居合わせたテレポーターの手により前線方面へ。俺はまずリサさんを捕まえる事にした。
――アイシャの家。
「リサさん!」
アイシャの家に着いたらすぐさまリサさんが飛び出してきた。
「カナタさん、何が起こったのですか!?」
「俺も良くは分からないけど、とにかく襲撃だ。リサさんも戦う事は出来ますよね? 申し訳ないが、手を貸してもらいますよ」
「えっと……」
ここに来て人を攻撃は出来ないと言いたそうなリサさん。仕方がない。
「救護ならばなんぼでも出来るでしょ? 今自分に出来る事を見つけて動いてください!」
「……そうですね。今更臆している場合でもなさそうですし、みなさんには恩義がありますもの!」
よし、表情が変わった。あとは文字通りの最終兵器フューラだな。
――フューラの工房。
「おーい!」
「分かってます!」
声をかけるなりすぐさま出てきた。服装は白衣だが、フューラの場合はすぐ戦闘体勢に入れるか。
「……けれどですね、僕がここで戦果を挙げるのは少しまずいんですよ。技術と同じく歴史干渉だと判断されてしまう。そうなれば僕は棒立ちです」
「何だ扱いの難しい奴だな。ならば上空からの偵察! お前ならどうせ大砲に撃たれても平気だろ?」
「まあ、確かに平気ですけど……分かりました。どちらにしろ迷ってる時間はなさそうですからね」
言い終わると例の水着戦闘服になり飛んで行くフューラ。
最後に俺だな。転送屋まで走り、前線まで飛んだ。
――街の東側、襲撃前線、南側。
到着すると逃げる人の波。それをかき分け先へと進む。
上空を見ると見た事のある狐さんが飛んでいた。そして隣には水着の娘。相変わらず二人は仲がいいな。
人の波を突破し前線兵士を発見。
「助太刀に来ました。状況は?」
「詳しくは分からないが、相手兵力は少数のようだ。しかしあの大砲が邪魔で中々敵陣に近づけないんだ」
アウトレンジ戦法という奴か。芋スナ許すまじ。
「こっちに遠距離武器は?」
「街の中だぞ? せいぜい弓程度だ」
使えねーな! 対物ライフルくらい用意しとけっての! なんて無茶言ってる場合じゃないか。
「勇者さんは?」
「知らん! ここは最後尾なんだ。混乱していて情報なんて入ってこない!」
すっかり統制はズタズタか。
俺はあくまで慎重に前進開始。といってもこちらはサブマシンガン。なるべく足や腕を狙うつもりだが、それでもかなり強いはずだ。
移動中、左前方に水柱が上がった。あれはアイシャだな。いや、何となく。ならば俺はもう少し右手側から攻めるか。
この王都は王宮までの大通りが東西南北に伸びている。そしてアイシャは東大通りの北側。つまり俺は東大通りを挟んだ南側から敵地へと向かう。
道中砲撃による被害はあるが中々敵さんに出会わない。どういう事だ? 大勢がアイシャ側に向かったか、またはこちら側には極少人数で来ているか。……ともかく、今は前進あるのみ。
「……あれがそうだな」
遠くに大砲を発見。さすがにここからは狙えないが、場所が分かればどうにかなりそう。と、後方からフューラが来た。
「砲手が一基につき三人、それが三基なので九人、剣士が十五人、魔法使いが三人で構成されていますね。これだけ派手にやるにしては少人数なので、別の意図があると考えるのが妥当でしょう」
「種族と配置は?」
「僕が見た限りでは全員魔族でした。ただし普通の人が角を着けている可能性はあります。配置は圧倒的に北部アイシャさん側に固まっています。恐らくは先ほどの水柱が、文字通りの呼び水になったのかと」
なるほど。それも含めての水柱だったりして。
「……しかし解せない事がひとつ。この時代の大砲にしては、命中率が妙にいいんです。リサさん曰く魔法での補正は可能だとの事でしたが、それにしては……っと狙われてますね」
俺からは大砲がこちら方面を向いている事くらいしか分からないが、フューラは俺たちが狙われていると断言した。こいつも目がいいんだな。
急ぎ移動開始。すると思いっきり至近弾!
「っぶねえなあおい!」
本当に狙ってやがる、というか、フューラの言うとおり狙いが正確過ぎる。急ぎ家屋の陰に隠れる。
「今のは危なかったですね」
「危なかったけど、お前冷静過ぎ! っていうか盾になるって言っておいて俺より先に逃げてたじゃねーか!」
「あはは、あれならば大丈夫だと分かっていましたので。それに僕は……ね?」
「言いたい事は分かったけど、また狙われるぞ!」
さすがに大砲なので移動が遅く、次弾装填までの速度も遅い。そこを突けば近寄れるだろうな。つまり振り子の如く左右に振りながらか、又は蚊取り線香の如くぐるぐる回りながら中心へと近付けばいい。今回の場合は前者だな。
「フューラは道の反対から進め。もし二人とも狙われているならば、狙いを絞らせなければいい」
「分かりまし……カナタさん危ない!」
フューラの言葉にぎょっとして空を見上げると、完全に俺を狙って砲弾が降ってきた。これ逃げ切れないんじゃねーかな……。ちょっとだけ死を覚悟。
フューラが有言実行、俺と砲弾との合間に入り、盾になった。
……いや、砲弾を受け止めやがった! 六本の角材型飛行装置を巧みに使い、砲弾をナイスキャッチ。それを見て俺には次の作戦が閃いた。
「フューラ、それ投げ返してやれ! 投げてお返しするだけだから攻撃じゃないぞ!」
「えっ……あはは、そういう事ですか。お任せくださいっ!」
俺の考えた手は簡単だ。フューラが受け止めた砲弾をお返しして、相手の大砲を破壊する。これならばフューラの武器で攻撃した訳ではないし、そもそも拾得物をお返ししただけだ。
フューラは砲弾を片手で軽々と持ち、もう片手には飛行装置。
「ターゲット確認。弾道計算完了。……行きます!」
フューラは砲弾を放り上げ、そして飛行装置を両手で掴み、空中にいながら思いっきり振りかぶった。
カキイイーン! というなんともいい感じの音が響き、砲弾は真っ直ぐに大砲へ。
「よしっ!」
フューラにしては珍しく拳を作りガッツポーズ。お見事直撃し、大砲爆破完了。砲手が逃げるのを確認したので、これで一基潰した。
「フューラはリサさん。俺はアイシャの援護に入る」
「了解しました」
早速フューラは高度を取り飛んでいった。俺は移動のために一旦転送屋へ。
――襲撃前線、北側。
転送屋から北東地区に飛び、アイシャを探す。すると砲弾が逆方向へ飛んでいった。あれはアイシャか? いやジリーかも。とにかくあっちだな。
移動中、やはり敵兵と出くわした。雄叫びを上げこちらへと向かってくるそいつには、確かに角がある。六千年前の事を知る限り、無力化で済ませなければ。
「悪いね、片足もらうよ!」
放たれた水の弾丸は敵兵の足に命中。倒れ込み痛みで転げている。……捕虜はとってあるんだろうか? 俺は敵兵の剣を拝借。これで相手の攻撃手段はない。
「おいあんた、これは誰の命令だ?」
「知るか!」
まー、そう簡単には吐きませんよね。
「もしも復活した魔王プロトシアだって言うならば、あれは全くの嘘だぞ。なにせ……」
と本物のプロトシアが来た。
「お前は来るなよ、ややこしくなるってーの!」
(うん)
分かってるならなんで来たんだよ……。
後方から味方兵士が来た。
「こいつを捕虜にしておいてください」
「捕虜? あー分かった」
なんかファンタジー世界のくせして戦闘慣れしていない連中だな。
俺は更に前進。と遠くをアイシャとジリーが横切った。よく見れば二人の向かった方向で、敵兵士が屋根よりも高く打ち上げられている。あいつら強過ぎね?
若干呆気にとられていると、フューラとリサさんが来て合流。
「敵砲台残り一基、残存兵力は十人を切っています、現在は撤退を考えて固まっているようです」
「カナタさんお怪我は?」
「チキン戦法だから無傷。アイシャたちと合流しよう。シアは二人に付いていけ」
二人と一羽は再び空から。俺はフューラの言葉を信じて走る。
道を曲がり、二人を確認。アイシャが切り倒し無力化、ジリーが吹き飛ばし撃破というコンビネーションが出来上がっている。
俺は空へと銃撃、音でこちらの接近を知らせる。この些細な計画は成功し、二人とも俺に気付いた。これで接近しても間違われないな。
「フューラから、あと数人だそうだ」
「よし、全員ぶっ飛ばすよ!」
「おうよ!」
中々しっかりしたコンビです事。と、こちらへと砲弾が飛んで来た。相変わらずのスナイプ性能。そして直撃コース。
一瞬だった。何を言う間もなくジリーが俺の前に守るように立ち、アイシャが飛び上がりその砲弾を一刀両断してしまったのだ。空中で爆発したおかげで俺たちに被害はなし。
「アイシャすげーな! ジリーもありがとうな!」
「さっき失敗したけどね。でも砲弾の勢いが落ちたからジリーがキャッチ。投げ返したら命中したんだ」
「こっちもフューラが同じ事して一基壊した」
戦車でもあれば別だろうけど、今のところキャッチアンドリリースが一番の攻撃手段。なんという皮肉かな。
大砲前の通りに出ると、砲手三人が片付け作業、剣士二人と魔法使い一人が警戒に当たっている。どうやら他の味方兵士はあのスナイプを警戒して近づけなくなっているようだ。
「手前は任せて。あんたはあれをぶっ壊しなさい!」
「任せな!」
あれ、俺は? と思う間もなく二人が突っ込んでいく。遅ればせながら俺もその後ろを走る。
大砲がこちらを向いた。しかしこっちの二人が速い。アイシャが風の魔法で前衛三人を邪魔した隙にジリーが大砲へと強烈な一撃をお見舞い。土煙と共に大砲は横倒しになり半分埋まり、無力化完了だ。
ジリーは砲手を殴り倒し、アイシャは唖然としている前衛三人をあっさりといなしてみせ、襲撃は失敗に終わった。
――大砲前。
戦意喪失した連中は全員縛り上げて捕虜にし、俺とフューラは大砲を調べてみる事に。
「しっかし、なんであんなに命中率よかったんだろうな」
数値にすれば恐らくは80%以上の命中率だろう。どんなチートを使ってるんだか。
「カナタさん!」
焦ったようなフューラの声に、俺だけではなくみんな集まった。
「何かあったか?」
「これ……」
ジリーの一撃により使い物にならなくなった大砲の、下敷きになったあたりをフューラが指差した。そこにあったのは明らかに時代錯誤な物体。いわゆるオーパーツ。俺とフューラは声を失ってしまう。
「……なに? これ」
アイシャのとても素直な一言で我に返った。
「これな、光学照準機だ。この世界にあっちゃいけないものだ」
「しかもこれ、弾道計算機能も付いていますよ。カナタさんの技術よりも進んでいます。……つまり、今回の襲撃を企ては黒幕は、僕たちとはまた別の異世界人だという事です」
頭を抱えてしまう俺とフューラ。こっちはなるべくこの世界の技術に合わせ、そして違和感なく見えるように偽装しながら細々とやっているのに、その隣では先端技術を惜しげもなく放り込んでこんなものを作る奴がいる。
「……ごめん、もっと分かりやすく」
「俺やフューラが敵になったようなものだ。そんな連中とやり合って、勝てると思うか?」
アイシャは眉をひそめてうつむいた。
――王宮、地下牢。
襲撃した二十七人中、砲手三人、剣士四人、魔法使い一人を捕虜として捕らえた。残りは味方兵士が殺してしまったり、逃げられたり。
今回の事に関して、尋問はトム王と、そして俺たちにも許された。トム王に衛兵二人、そしてアイシャと俺とシアだ。
「まずは全員に問う。誰の指示だ?」
「……」
まーもちろん誰も口を割りませんよね。
と、トム王は衛兵から剣を受け取ると砲手を一人連れ出させ、そして……。
「今一度問う。誰の指示でこのような襲撃を企てた! 貴様らもこいつのように首を落とされたいか!」
錆びた鉄のにおいが充満する地下牢。……駄目だ。一旦上に戻ろう。
地下牢から出たところでフューラ、リサさん、ジリーも待っていた。
「大丈夫ですか? 顔色が悪いようですが」
「……ちょっと、トイレ。フューラ、交代」
元サラリーマンの目の前でいきなり砲手の首をはねるとか、落ちた首がまだ動いていたとか、分断された体が痙攣していたとか、血の臭いだとか……いかん、考えるほどに吐きそうになる。
――三十分ほど後。
リサさんとジリーに促され中庭へ。それでも心配されながら座っていると、尋問を終えたトム王たちが来た。
「すみません」
開口一番俺に謝るトム王。
「いや……まあ、何て言うかな。世界を渡った時に、人の死を見る事はあるだろうと覚悟はしたんです。ただ準備していなかったというか、まさかこんな形だとは。あはは……」
まあ相手は王様だからな。さすがに面と向かって非難は出来まい。と思ったらアイシャが怒り気味に口を開いた。
「カナタ、もっと言ってもいいよ。私だってさすがに驚いたし……ね、それに……うん……っ……」
と、口を押さえどこかへ走っていった。あいつもだったか。
「王様は自分がやっているのであまり感じていなかったでしょうけれど、あの光景は普通の人ならばそうなりますよ」
一方のフューラはさすがというか、嫌味なほどに落ち着いている。そんな俺たちの懐疑の視線に気付いたフューラ。
「あ、僕ですか? 僕は過去、殺戮兵器としてもっと惨たらしい死刑執行をさせられていましたので、そこまで大きな衝撃ではないんです。慣れてしまっている……んですかね。正直自分でも嫌になります」
「中身は言うなよ」
「はい。さすがにそれくらいは弁えていますよ」
溜め息をひとつ、改めてトム王は俺と、そして戻ってきたアイシャに陳謝した。
――玉座。
若干険悪なムードをかもし出しながらも、今回の襲撃および襲撃者からの報告まとめが始まった。
「いきなりだが、残念ながら捕虜は全員死んだよ。オレが殺したんじゃなく、フューラさん曰く時限式の装置を体に仕込まれていたとの事だ」
これについてはフューラが解説してくれた。
「カナタさんには分かると思いますが、ナノマシンを血液に注入されていた可能性があります。そして成功失敗に関わらず殺されていた。逃走中の犯人も時を待たずに遺体で見つかるはずです。なのできっと、あの大砲や光学照準機も含めて、今回の襲撃は全て捨て駒なんだと思います」
「つまり光学照準機の技術レベルを最先端だと誤解させておいて、対処したところでその更に上を行くつもりか」
「はい。なので今回の襲撃の目的は恐らく、こちらの世界の方々に未知の恐怖を植えつけるため。それともうひとつ、これはあくまでも僕の推測であり、その可能性はかなり低いんですけど、相手は僕たちの秘密を知っている人物かもしれません。なので、これは僕たちに対する宣戦布告である可能性があります」
全く物騒な世の中だ。しかし現状、売られた喧嘩は買わなければいけない。
「今のところ唯一のヒントはあの魔貴族だ。もしもあいつの言っていた偽プロトシアが実在するのであれば、そいつが異世界人である可能性は非常に高い。まずはそこからだろうな」
どうにもスッキリしない終わり方だ。
「はあ……それじゃ、改めてあたしは山頂監獄に行くよ。五ヶ月間のさようならだ」
溜め息の漏れるジリー。しかし仕方のない事だな。
「待って。ジリーはあの大砲を二基潰した。それに私に向かって飛んでくる砲弾を殴り返しもした。それって襲撃に対する大きな貢献だよね? それについての温情くらいはあってもいいんじゃないの?」
間近でジリーの動向を監視していたアイシャだからこその交渉だな。さてトム王はどうするのかな?
「いいよ勇者様そういう事しなくてもさ。あたし自身が五ヶ月の禁固刑を分相応だと判断してんだからな?」
「でも、それじゃあ私の気が収まらない。私、あんたに命救われてるんだよ?」
意外というかなんというか、ジリーから拒否するとは思わなかった。
「意外だね。ジリーさんからそれを拒否するとは思わなかったよ」
トム王もか。
「しかしどちらにせよ牢には入ってもらいます。それがけじめというものですからね。刑期の短縮などは後に通達します」
「はい。あんがとさん」
とはいえ納得しない様子のアイシャだった。
――夜。
俺は今回の襲撃に対する疑念を、トム王にぶつけてみる事にした。シアも留守番にして、俺ひとりで王宮へ。
まずは門番二人。
「ごめんくださーい」
「誰だ? ……あーあんたか」
「王様に火急の用事が出来まして、通してもらえます?」
門番二人で顔を見合わせ、素直に通してくれた。うん、セキュリティー甘過ぎ。
王宮内は俺も我が家にしていた事があるのですんなり。道中に遭遇した見回りの衛兵にも顔パスである。
さて王の執務室へ。部屋の前にいる衛兵にも顔パス。
「失礼します。王様、カナタ様がお見えになりました」
「あ?」
機嫌悪そう。そして入ってきた俺をじーっと見やり、溜め息混じりに衛兵を手で払った。
「こんな夜中に何か?」
夜中と言ってもまだ夜九時だけどね。
「今回の襲撃での疑念をばら撒きに来ました」
「そうか。これが終わるまで少し待ってくれ」
「お構いなく」
こちらとしては結構気楽である。そういう雰囲気が必要でもある。
十分ほどで執務を終えた王様は、俺を待たせ一旦外へ。衛兵に何か指示して戻ってきた。
「これでいいんですよね?」
という事はある程度察しが付いているという事か。さすが有能。
「はい。後は……」
目線が天井へ。すると王様がクローゼットから杖を取り出した。その杖で天井をつつく。
「……よし」
まずは俺の疑念から。
「まあ今の行動から、もう言うまでもないでしょうけど、今回の襲撃は陽動。それもスパイを潜り込ませるためにわざと派手にやった」
「でしょうね。現状王宮内の全員が容疑者だ」
分かっていらっしゃる。
「しかしスパイは王宮内だけじゃありませんよね? 確か数百年前に難民が一斉に手のひらを返し蜂起した事があるとか」
「……民に紛れていると?」
「もっとまずいかもしれませんよ。この王都は下水道設備が整備されていますよね? 地下には下水トンネルも多数。一般人ならば蜂起しても抑えられるかもしれませんが、相手がプロだとしたら? 市街地の方々から沸いてくる敵兵に対し、果たして何時間持ちますかね?」
ランプと月の明かりだけでも分かる。トム王が青くなっている。
「そして、恐らくは事が起こるよりも前から、既に王宮内にスパイがいます」
「……理由を」
「アイシャとジリーのトイレですよ」
「と、トイレ?」
突然のトイレ発言に困惑しているトム王。まあ、面白いからいいか。
「ジリーを移送する間際、二人は緊急でトイレに行きましたよね? それが元で十分ほど押した。監獄側の受け入れ体制もあり、移送の時間は決まっていましたよね? もしも時間通りに移送されていたら、二人は王都襲撃を知らなかったはずだ」
「そうか。王宮内の情報が襲撃者に漏れていたのか。しかもこの移送は極小数しか知らないはずだ」
「ご明察。これならば俺たちの事が相手にも知られていて、敵対する異世界人が事実上の宣戦布告をしてきたとしても、おかしくはない」
全てが偶然であるという可能性は、光学照準機を持ち出してきた時点で消滅した。何故ならば、あれが作れるならば大砲になど頼らずに、俺のようにサブマシンガンでも作ればいい。それをしないという事は、誘っているに他ならない。
「ではこちらからも。率直にお聞きします。黒幕は何者だと?」
まあ来るよね、その質問。
「まず間違いなく俺よりも高度な技術を持っています。フューラとの差は分かりませんが、同等かそれ以上と考えるべきでしょう。参考にですが、フューラは一分ほどで王都を壊滅させる事が可能です」
「え……そんなに……」
素の反応をしたトム王。頑張れー、と他人事のように思っておく。
「もちろんフューラはそんな事はしませんよ。俺もさせる気はありませんから。でも連中は違う。そしてこちらは技術提供に壁がある中、連中にはそれがない。これがどれほどのアドバンテージになるかなんてのは、言わなくても分かりますよね?」
ついに頭を抱えました。絶望の淵に落ちる前に拾い上げますか。
「んでもですね、フューラは武器兵器に限れば技術レベル無視で破壊出来ますし、未来の兵器を使っている時点でその壁はあってないようなものですから。更に言えば、使い手がヘボならば俺やアイシャにだって勝ち目は充分あるんですよ」
溜め息を吐きつつ、机にへたり込むトム王。
「はあ……どちらにしろ、やるしかないかー」
「そういう事です」
そして俺にはもうひとつ聞いてみたかった事がある。
「それじゃ最後にひとつ。王様はアイシャをどう思ってるんですか?」
「どうとは?」
「恋愛感情ですよ」
「……」
トム王固まりました。
「や、やだなーオレとアイシャとは幼馴染ですよ? それに種族も家柄も違いますから、そんなそんな恋愛感情だなんて、そんな、あははははー」
見事なうろたえぶり。若いのぉー。
「じゃあカナタさんはどうなんですか? 女の子たちに囲まれて、ハーレムじゃないですか」
「あはは、ないない。シアも含めて誰も俺にそういう感情なんて抱いてませんから。それに俺だってあの中から選べって言われたら全力で拒否しますもん」
「えー勿体ない」
「面子をよく見てみなさいな。鳥の姿の魔王、小人族の勇者、アンドロイド、狐の王女様、そして怪力の囚人。ひど過ぎるでしょ」
「あ、あはは。でもそうするとやっぱりアイシャが一番かな……って! 今のはオフレコですからね!」
「はいはい」
なんだ、アイシャもトム王を好いている感じだし、相思相愛じゃねーか。
その後はトム王があくびをしたので解散。
時刻は十時半か。改めて思うが、街明かりのない空のきれいさは特筆に価する。この星のどれかにジリーの星があるのだろうか? もしかしたら、俺も別の星に来ただけなのかもしれない。
その結論が出る事はないな――。